ドイツ、コロナ被害の対策に、過去最大の補正予算

ツェルディック 野尻紘子 / 2020年3月29日

©️Bundestag/Axel Hatmann

新型コロナウイルスが高速度で広がる中 、通常はあまり多く使われないのだが、このところドイツで毎日耳にする言葉が 「先例なし」だ。夏休みでもないのに学校や幼稚園が5週間も閉鎖したり、映画館、図書館、生活必需品以外の物を売る店やレストラン、そして喫茶店までが一斉に閉まってしまったりするのは、本当に前例なしだ。そして、できるだけ家にとどまり、一緒に住んでいる家族など以外の人とのコンタクトを避け、他人と接する場合には1.5  mの間隔を空けなくてはいけないなどということも前代未聞だ。注文が入らないので倒産寸前の企業もあるし、大企業でさえ、部品が届かないので工場を一部閉鎖するところも現れている。経済活動が停滞し、 収入が急激に減ったり無くなったりする人たちを援助することや、企業の倒産を避けること、そしてこのコロナショックが過ぎ去った後の経済・企業活動を考え、ドイツでは種々対策が練られている。その一つとして、ドイツ連邦議会は25日急遽、1560億 ユーロ(約18兆7200億円)の補正予算を可決した。これまた、先例なしの規模と速さだった。

この日、連邦議会は最初に、この予算が成立可能となるために、2011年に基本法に取り入れられた「債務ブレーキ」を解除しなければならなかった。国の債務は、通常時には最高で国民総生産の0.35% までしか許されないからだ。しかし、今回の 補正予算額が莫大な額であることは、本年度の国家予算が今までは3620億ユーロだったことと比べてみるだけでも、一目瞭然になる。

連邦議会は次に、1560億ユーロの補正予算を賛成大多数で可決した。その内訳は、コロナウイルスによる危機のために今年は予測より335億ユーロ減るだろうと見込まれる税収入の補塡と、種々対策を遂行するための経費1225億  ユーロだ。これらは赤字国債で賄われる。

座席を二つずつ空けて座る議員たち ©️Bundestag/Achim Melde

連邦議会では、感染を防ぐために議員たちが座席を二つずつ空けて席に着いた。一見、空席が多いように見えたが、席を空けたために本会議場に座れなかった議員の一部は、一階上の傍聴席に座り、他の議員たちは自分の事務所でライブストリーミングを通して会議の様子を見ていたという。そして投票の時だけ、会場に来た。

最初に、ショイブレ議長が「今日の審議は、重大な人道的責任に関わり合いのある事柄です」と話した。法案が閣議で決まってからの時間が非常に、先例なしに短かったが、 連立政権間だけではなく、野党各政党とも十分な話し合いが行われており、法治国家のルールが守られていることを強調した。

所信表明をするショルツ連邦財務相 ©️Bundestag/Achim Melde

続いて、メルケル首相がコロナウイルス感染の疑いで自宅待機中のため欠席だったので、副首相でもあるショルツ連邦財務相が 所信表明を行なった。同氏は、このような莫大な追加予算を決めることができる裏付けとして「我々には(このような莫大な借金をすることが)可能です。わが国は過去数年來、財政をうまく切り盛りしてきており、最高の信用安全性を享受しています」と語った。事実、ドイツは予算均衡にこだわり続けてきており、赤字国債を発行するのは7年ぶりだ。ハイル連邦労働社会相は、人命と経済を救うことがこの補正予算の目的だとした。

補正予算で可能になる主な事柄は、

◎ 個人事業主、あるいは従業員5人以下の事業者は、3ヶ月分最高9000ユーロ(約108万円)まで 、従業員10人までの事業者は最高1万5000ユーロ(約180万円)までの資金援助が受けられる。これは事業者に収入がないために、店舗の家賃や機器のリース代、電気、水道、電話代などが支払不能になることを回避するためで、返却の必要がない。

◎ 学校や幼稚園が閉鎖されたために、12歳以下の子供がいて働きに出かけられない親には、最長6週間、手取りの67%、ただし最高額は月2016ユーロ(約24万1920円)までの補償金を出す。

◎ 4月初めから6月末までは、コロナ危機のために一時的に家賃の払えなくなった賃借人を解約することは許されない。電気、水道、電話契約などの解約も許されない。ただし、支払いの沈滞は2022年6月30日までに利子付きで返却が必要である。

◎  従業員数249人までの中規模企業にはドイツ復興金融公庫(KfW)の100万ユーロ(約1億2000万円)までの当座短期信用が与えられる。それより大きい中規模企業のためのシンジケートローンにKfW が参加することも可能になる。

◎ 新しく集中治療ベッドを追加的に準備する病院には1ベッド当たり5万ユーロ(約600万円)支払う。コロナ患者治療のために、3月16日から9月30日までの間に他の手術や手当を延期する病院には、ベッド1台当たり560ユーロ(約6万7200円)支払う。

などである。

この他、補正予算の枠外で、大企業のためには経済安定ファンドが組まれ、資金貸出や信用保証が与えられることが決まった。また、必要に応じては、国が企業に直接投資することも考えられるという。

また、企業は、十分に仕事がない場合に操業短縮を申請し、従業員が操業短縮手当を受けることができる。連邦雇用庁は先週だけでも既に7万7000人分の申請を受け付けたという。手当の支払い期間は通常6ヶ月だが、今回のような非常事態の場合には12ヶ月に延長される。その間、申請者には、操業短縮のために貰えなくなる分の手取り給料の60%(子供のいる場合は67%)の手当が支払われる。ここ数年間、ドイツの失業率は大変低かったので、連邦雇用庁によると、同庁の準備金は260億ユーロ(約3兆1200億円)も蓄積しているという。

なお、ミュンヘンにあるIfo経済研究所は、このコロナ危機のための経済活動の低迷が続くと、今年のドイツの国民総生産は前年比で7%から20%低下するだろうと予測している。

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