ベルリン州で3月8日の国際女性デーが祝日に

池永 記代美 / 2019年3月3日

3月8日は国際女性デーで、ベルリンでも女性たちによる、もしくは女性たちのための様々な催しが行われるが、今年はいつもより多くの人が参加するかもしれない。というのも、ベルリンでは、今年から3月8日が祝日になり、仕事も学校も休みになるからだ。

ベルリン州議会がこの決定を下したのは今年の1月24日。そして約6週間後の3月8日が祝日になるのだから、日頃、仕事が遅く融通がきかないと評判の悪いお役所仕事にしては超スピードでの実施となった。ところで ベルリンで、なぜ新しい祝日が誕生したのだろうか。

ドイツでは、統一記念日の10月3日以外の祝日に関しては、全国16の州が独自に各州の「日曜と祝日に関する法律」で制定している。といっても祝日の多くはクリスマや復活祭など、キリスト教に由来するものがほとんどで、全州共通で祝日となっている場合が多い。しかし同じキリスト教でも、カトリックとプロテスタントのどちらの信徒がその州で多数を占めるかなどによって、ある特定の日が祝日かそうでないか、異なるケースがある。例えば 東方の三博士が誕生したばかりのキリストを訪ねて拝んだとされている1月6日は、ドイツ南部のバーデン•ヴュルテンベルク州とバイエルン州、それにドイツ東部のザクセン•アンハルト州のみが祝日としている。また聖母マリアの被昇天の日とされる8月15日は、ドイツ西部のザールラントだけが祝日としている。このように州によって祝日が異なるせいで、バイエルン州は年に13日、バーデン•ヴュルテンベルク州は12 日も祝日があるのに、ベルリン州にはたった9日しか祝日がないという、働く人にとっては不公平な状況になっていた。

そこで祝日を増やそうという話がベルリン州議会で持ち上がった。それに異を唱える議員はいなかったが、新しい祝日をいつにするかについては、様々な意見が出た。3月8日以外に候補にあがったのは、敗戦記念日の5月8日やベルリンの壁が崩壊した11月9日、そしてマルチン•ルターが宗教改革を始めた10月31日などだ。10月31日はベルリン以外のドイツ東部5州で祝日なので、ベルリンもこの日を祝日にすべきだと主張したのはキリスト教民主同盟(CDU)だった。キリスト教系の政党としては、もっともな言い分だ。議会で勝手に決めるのではなく、市民の考えを尋ねるべきだと主張したのは、右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だった。

ベルリン州議会の本会議場 (Plenarsaal, Abgeordnetenhaus von Berlin)

そんな中で、ベルリン州での最大与党、社会民主党(SPD)が推薦したのが、国際女性デーの3月8日だった。同党ベルリン州支部代表でありベルリン州首相でもあるミヒャエル•ミュラー氏はその理由を、「社会の中で男女の平等はかなり進んだが、まだまだ本当の平等は達成されていない。例えば賃金ひとつとっても、同じ仕事をしていても男性の給与の方が高いのが現状だ。そうした実際にまだ存在する男女差別をみんなが認識し、ともに解決しようと意識づけるために、3月8日を祝日にすべきだ」と語った。それに対して最大野党のCDUは、女性の権利については日々考えるべきであって、年に一度祝日を設けて片付ける問題ではないと、大変まともな反論を述べたり、毎年異なる日を祝日にしようと突拍子もないことを言い出したりして、3月8日が祝日になることを妨げようとした。しかし昨年末ごろには、SPDと連立を組む緑の党と左翼党もSPDの意見を支持することを決め、1月24日に行われたベルリン州議会での採決では、3月8日を祝日にすることに賛成する票が87と反対票60を上回り、ベルリン州はドイツで初めて国際女性デーを祝日に制定した州となった。

こうして 3 月8日が祝日になったことを、女性たちはどうみているのだろう。多くの女性団体が加盟するドイツ最大の女性組織の一つである「ドイツ女性の輪(Deutscher Frauenring e.V.)」の広報担当者フランソワ•グレーヴェさんは、「国際女性デーがベルリンで祝日になったことはシンボルとしては意味があるが、それによって具体的に何かが改善されるわけではない。それよりも男女の平等を促進し、女性の権利を強化するための有効な法律を作る方が大切だ」と語っている。「ドイツ女性の輪」が具体的にあげたのは、選挙の比例区のリストに指名する女性候補者と男性候補者の数を同数にすることを義務付ける候補者均等法だ。ドイツ東部のブランデンブルク州ではこの法律が可決したばかりだが、同様な法律が連邦レベルで、そして全ての州で制定されるべきだというのが「ドイツ女性の輪」の主張だ。このような注文をつけつつも、初めての祝日である今年の3月8日に、多くの女性がデモや催しに参加することを望んでいるとグレーヴェさんは言う。

確かにこの日には、政党、女性グループ、大学、区役所などによるパーティーや討論会、デモなどいろいろな催しが計画されている。天気のよい、暖かい日が続く今日この頃。3月8日には、ベルリンのあちらこちらで、賑やかでパワフルな女性たちの大きな声が響きわたることだろう。

 

 

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