亡命者・難民への生活保障給付金は国内の生活保護支給額と同じに

ツェルディック 野尻紘子 / 2012年8月26日

ドイツに住んでいて「この国は凄い」と思うことが時々ある。この国の憲法であるドイツ連邦基本法の第一条、第一節に書かれている「人間の尊厳は不可侵である。これを尊重し、かつ、これを保護することは、全ての国家権力の義務である。 」という文章が、机上の空論でなく、実際に行政が取るべき行動の規範として機能しているからだ。そして国民の間には、この人間の尊厳ということに関し、コンセンサスが得られている。

政府が果たして基本法に従った政治を行っているかどうか(例えば、国内のある法律が人間の尊厳を傷つけることはないか)を判断するのはドイツ連邦憲法裁判所の役割であるが、その憲法裁判所がこのほど、政治的な理由で保護を求めて、あるいは内乱から身の危険を守るためにドイツにやって来た外国人たち(亡命者や難民)への生活保障給付金の給付額が、国内の生活保護受給者の受け取る額に対し大幅に少ないことは、人間の尊厳を傷つけるという理由で違憲の判決を下した。日本では昨今、生活保護受給者に対し不当なバッシングが起きているというニュースをしばしば耳にするが、日独両国間に存在する、人間一人一人の尊さ(尊厳)に対する捉え方の相違を感ぜずにはいられない。

今回のドイツ連邦憲法裁判所の判決は、具体的にはノルトライン・ヴェストファーレン州の州社会裁判所が 、受け取る生活保障給付金が低過ぎることを訴えた亡命者2名の申し立てを正当と認め、憲法裁判所に庇護申請者給付法の合憲性の判断を求めたことの結果である。

同法律は1993年に、当時年間約50万人もの亡命者がドイツに流入して来た影響を受けて制定されたもので、それ以来改正が行われていなかった。国内の生活保護受給額が、同じ憲法裁判所の2010年2月の判決を受けて、現在成人単身者1人につき月額364ユーロ(約3万6000円)(家賃と暖房費はこれに加算される)になっていたのに対し、亡命者の受給額は約220ユーロ(約2万2000円)に留まっていた。

憲法裁判所は、「人間にふさわしい、生存のために必要な最低限の生活の糧は、ドイツ国籍及び外国籍の人々に同様に、当然与えられるべきものである。この糧は、人が肉体的に生き延びるためのみではなく、人の最低限の社会的、文化的及び政治的 生活への参加を保障するものである」という判決を下した。「支給額に決定的な意味を持つのは、ドイツにおける現在の状況である。人間的な生活を送るために必要な支給額は、亡命者の本国での最低生活費を基準にして低く設定してはいけない。 国際比較で、ドイツの生活援助額が高いので、難民がドイツに集中することを避けるために、難民政策上、ドイツの生活援助額を低く設定することは 、肉体的、社会的、文化的生活のために必要な最低限の基準を下げることを意味し、正当化されない」と続けた。

裁判官はドイツ連邦社会省に法改正を求め、改正法制定までは、直ちに、亡命者に国内の生活保護受給者と同額の給付金を支払うよう命じた。

ドイツ連邦統計局によると、2010年末の時点に庇護申請者給付法により援助を受けていた人は13万人で、支給総額は年間8億1500万ユーロ(約815億円)だった。ドイツ全国郡連合協議会は、今回の判決で地方自治体への負担が年間約1億3000万ユーロ(約130億円)増加すると見ている。連邦社会省は、受給者の家族構成などにより支払額が異なってくるとして、増加額に言及していない。

国やキリスト教教会の社会福祉団体、難民組織の代表者たちは、「この判決は、ドイツでは誰にでも、人間の尊厳を損なわない(人間らしい)生活を送るための最低限の生活の糧を要求する権利のあることを新たに示した」と歓迎した。しかし「この判決はドイツ政府の怠慢への平手打ちである。この見解に達するのに裁判所の判決が必要だったことは恥ずべきことだ」とする厳しい声も聞かれた。連邦社会省はこの判決を尊重し、直ちに基本法に即した改正法案を作成し、その際特に、青少年の教育を受ける権利と社会活動に参加する権利を重視すると発表した。

 

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