日本式に「ボカされる」ドイツのコンポスト ━ その1
漫画、豆腐、寿司、津波などと、ドイツ語となった日本語がたくさんあります。最近、耳にしたのが「ボカシ」という日本語です。「Bokashi」とGoogleに入力すると、表示された関連ページの数が45万以上。ドイツ語のあるウェブサイトには「ボカシは日本語からきていて、台所の生ゴミを醗酵させて、たい肥を作る方法を示す」という説明がありました。
リサイクルシステムの中で忘れられている生ゴミ
ドイツの家庭では再生利用ができる、ガラス、紙、パッケージなどは分けておき、時間があるときに処分します。台所の生ゴミは、室内に溜めておくと腐るので、ビニール袋などに入れて直ぐに外へ出します。生ゴミリサイクル用のコンテナ「ビオ・トンネ」にはビニールやポリ袋は捨てられません。生ゴミを袋からわざわざ出すのが面倒なので、最終廃棄物用のコンテナ「グラウエ・トンネ」に捨てる市民が多いようです。「グラウエ・トンネ」のゴミの大半は燃やされます。市の清掃局は「ビオ・トンネ」を2週間おきにしか収集しないので、ハエが発生したり、ネズミが出る恐れがあります。庭に置くコンポスト容器には、肉、魚類、そして料理したものはドブネズミを引きつけるので決して入れないようにと市から注意が出ています。ちなみにベルリン市内のドブネズミの数は10万匹から700万匹(市の人口の2倍)などと推定されています。
食べられるのに捨てられる食べ物「フードロス」がドイツだけで毎年2000万トンにものぼるそうです。サラダ菜2つのうち1つ、ジャガイモ2個のうち1個、そしてパン5斤のうち1斤が捨てられてしまうのならば、せめて意味あるリサイクルはできないでしょうか?
簡単な生ゴミの再利用
その答えが日本生まれのボカシ・コンポストです。ボカシ・コンポストを作るのには「ビオ・トンネ」も庭もいりません。必要なのは、ふたと水分が出せる蛇口の付いたバケツ「ボカシ・アイマー」です。ドイツ語の動画の説明によると、小さく切った生ゴミをバケツにいれます。野菜だけではなく、肉も魚も食べ残しでもかまいません。ふたがあり密閉してあるので、ハエがたかりません。生ゴミを入れる度に、籾殻などが入った発酵素をまきます。生ゴミは腐食しないので、嫌な臭いもなく、室内に長期間置いても気になりません。バケツに溜まった液体をそのまま台所の下水管に流せば配管掃除になり、薄めて植木にやれば肥料にもなるそうです。これは、琉球大学農学部の比嘉照夫教授が開発した技術で、有機ごみを「有用な微生物群、EM(Effective Microorganisms)」の力により発酵分解して、たい肥「ボカシ・コンポスト」として土へ還す方法です。いままでのコンポストよりも短期間で、生ゴミを熟成できます。
日本の漬物のようにドイツではキャベツを発酵させてザワークラウトを作ります。「発酵食品であるザワークラウトが体に良いとおなじように、発酵分解した有機ゴミは土壌改良材になる」とドイツ語圏のネットコミュニティーは「ボカシ・コンポスト」を広めようと一生懸命です。会員数が51万8000人(2013年度)に上るドイツの環境保護団体BUNDのウェブサイトでは、コンポストを作る方法として、比嘉照夫教授が開発した技術を勧めています。しかし「ボカシ・コンポスト」の効果は、科学的には証明されていないという批判の声も少なくはありません。
「ボカシ・コンポスト」+「バイオ炭」=「テラ・プレタ」
「ドイツは追いついていけないのでは?現在、ドイツには土壌を正確に調査研究している大学がない。米国、南アメリカ諸国、オーストラリア、中国の一部では土壌学や腐食研究が進んでいる。その一方、ドイツでの研究は1970年代から化学肥料だけに絞られているようだ」と語るのは「テラ・プレタ、アマゾンの黒い革命」1)の著者、ハイコ・ピープローウ氏です。
「テラ・プレタ」とはポルトガル語で「黒い土」という意味です。500年ほど前、アマゾンを探検したスペインのフランシスコ・デ・オレリャーナにより始めて報告されました。かつてアマゾンに住むインディオが、木炭を使って得た豊かな土で、収穫量が多いので「黒い金」とも呼ばれたほどです。調査結果によると「テラ・プレタ」には黒い色の木炭の他に生ゴミ、骨、排泄物などが含まれていることが分かりました。
乾いた枝や茎などのバイオマスをガス化して燃やすとバイオ炭が出来ます。バイオ炭を作ることで地球温暖化の原因となる二酸化炭素は放出されずに、何万年間も固定されます。炭は海綿状で、かつ多孔質を持ち、多量の水分と栄養分を保つことができます。その栄養分となるのが「ボカシ・コンポスト」です。バイオ炭とボカシコンポストを混ぜることにより、多くのミミズが育つ「テラ・プレタ」を作ることができます。この土には有機物や微生物がたくさん含まれているので多数のミミズが育ち、ミミズ堆肥という方法があるように、土地改良に役立ちます。普通、土1㎡当たりに含まれている炭素の割合は2%で(1㎡に付き2.5~10㎏)ここではミミズ20匹が育つでしょう。「テラ・プレタ」の場合、地中に固定されている炭素の割合が少なくとも10%もあり、約700匹のミミズが育つ栄養分が保たれているそうです。
「黒い革命」は始まっている
このサイトで紹介した「CO2排出ゼロに挑むびっくり箱『レイチェル』」でも、生ゴミや排泄物などの有機ゴミを使い「テラ・プレタ」を作り、土壌改良や野菜栽培をすることが提案されていました。有機農業を営む一部の農家や、オルタナティブな生活を求める市民の間では「ボカシ・コンポスト」は知られていますが、ドイツではまだ一般化されていません。家庭の生ゴミで土と環境を改良するリサイクルシステムが都市で取り入れられるのはいつだろうかと思う中、ラジオで放送されたのは「テラ・プレタ、気候保護のために黒い土を」というタイトルの番組でした。この番組については次回に紹介したいと思います。
1)Terra Preta. Die schwarze Revolution aus dem Regenwald: Mit Klimagärtnern die Welt retten und gesunde Lebensmittel produzieren von Ute Scheub, Heiko Pieplow, Hans-Peter Schmidt
写真参照
ボカシアイマー、flickr. jaydot https://www.flickr.com/photos/jaydot/
ミミズ堆肥テラ・プレタ、「テラ・プレタ革命」ウテ・ショイブ、ithaka institute for carbon intelligence
関連ウェブサイト
生ゴミとリサイクルボックス、http://www.emj.co.jp/recycle/namagomi.html
炭で食の未来を守る、http://charcoalblacks.org/?page_id=4321