ベルリン映画祭が環境保護に一歩踏み出す
事あるごとに一年があっという間に過ぎるということを実感するが、今年もまた11月に入ってすぐにベルリン映画祭のプレス部門からメールが来た。ベルリン映画祭がまたやってくるのだ。早速書類を整えてプレス登録を申し込んだところ、登録承認のメールが来た。所定の登録料(60ユーロ、約6300円)を支払ったあとに送られてきた手続完了のメールを見て、アッと驚いた。
カンヌ、ヴェネツィアと並んで世界三大映画祭の一つであるベルリン映画祭は、60年を超える歴史を持っている。来年の第63回ベルリン映画祭は2013年2月7日から17日まで開催される。資料を見ると、去年は世界115ヶ国から1万5532名の映画関係者、プレス関係者は世界81ヶ国から3825名がベルリン映画祭を訪問、一般参加者も含めると48万4860人が映画祭を訪れたという統計が示されている。映画祭の期間中、会場や近辺で聞こえてくるのは世界各国の言葉だ。日本からの映画祭訪問者も少なくない。
今回、映画祭からの登録完了通知の中に、「ベルリン映画祭の気候保護への取り組みを支援してください。あなたのフライトによるCO2の排出を代価で相殺」と書かれていた。その中に記載されていたリンク先を見ると、出発地と到着地、飛行機のクラスなどを入力すれば、自分が飛行機を利用することで、どれだけのCO2を排出するかが計算される仕組みになっている。例えば、関西空港からフランクフルト経由でベルリンまでエコノミーで往復すると、約3.56トン、ビジネスクラスだと約10.96トンのCO2を排出することになる。1トンにつき16ユーロ、関西空港からベルリンまで、エコノミーでの往復だと約60ユーロ(約6300円)をオンラインで決済すれば、飛行機旅行によるCO2排出量を相殺したことになる。このような仕組みについては、このサイトでも「アトモスフェア」という組織についての詳しい紹介があるので、是非読んでいただきたい。
ベルリン映画祭は、「アトモスフェア」ではなく、「フォレスト・カーボン・グループ(Forest Carbon Group)」という組織と協力している。飛行機利用によるCO2排出に対して旅行者は代価を支払い、そのお金で「フォレスト・カーボン・グループ」が行っている2つの森林プロジェクトのどちらかを支援することになる。一つは、カナダ最大の自然保護団体である「ネイチャー・コンサーバンシー・カナダ(NCC、Nature Conservancy Canada)」が展開しているダークウッド森林保護プロジェクトで、NCCが2008年に購入した5万5000ヘクタールの森林地帯を伐採から守り、自然の生態系が損なわれるのを防ぐというものである。もう一つのプロジェクトは、同じくカナダの「生態系回復友の会(ERA、Ecosystem Restoration Associates)」が行っているもので、ブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバー近辺の5地域にある約1245ヘクタールの森林の保護と植林を行い、森林によるCO2吸収率を高めようとするものである。「アトモスフェア」の計算よりもベルリン映画祭が協力している「フォレスト・カーボン・グループ」のCO2排出量のほうがなぜか多くなっているが、世界各国からベルリンにやってくる映画関係者の中から、フライトの「代価」を支払ってカナダの森林や自然保護プロジェクトに貢献する人たちが出てくるのではないだろうか。
世界各国からの数多くの参加者が利用する長距離のフライトは環境への負担を増大させる。この負担を少しでも改善しようとするベルリン映画祭の取り組みは、今回が初めてである。脱原発を決定したドイツ社会のコンセンサスに呼応して、世界から多くの参加者を集めるベルリン映画祭が持続可能な社会を作り出すプロジェクトに具体的な協力を開始したことは注目に値するのではないだろうか。私はベルリンに住んでいるのだが、この取り組みを見て、思わず60ユーロを支払おうかという気持ちになった。