原子爆弾よりも危険なのはインターネット?

やま / 2015年5月3日

no nukesキリストの復活を祝うイースターの週末には、ドイツの各地でイースター行進が催され、多くの人々が世界平和を願うとともに、戦争反対や核兵器反対の声を上げてデモに参加しました。その週末に読んだのは「ひょっとしたら核よりも、インターネットは危険かもしれない」という新聞のサブタイトルでした。

「デジタル革命は新しいレベルに達しようとしている。インターネット時代において私たちの生活と仕事がどのように変わっていくか」と南ドイツ新聞は、社会の変動や問題点について何回にもわたり記事を掲載しました。

今回、同紙の経済部にインタビューされたのは、2013年度のノーベル経済学賞受賞者であるロバート・シラー教授でした。アメリカ出身のエコノミストである教授の市場社会に対する推測は鋭いと言われています。当教授は既に2000年にITバブルの崩壊を、続いて2005年にはサブプライム危機の警鐘を鳴らしたことで有名です。

「1990年代のニューエコノミー時代において、経済界は言わばゴールドラッシュ気分に浸っていました。15年前と違い、今は多くの人々がIT革命により仕事を失うのではと恐れています。将来について不安感を抱くと節約して貯金をするものです。そして、経済が落ち込んでいきます。(中略)私自身、コンピューター技術の発展の速さには不安を感じないとは言えません。つい最近まではSF小説だったものが、いまでは現実となっています。コンピューター化により、もしかすれば仕事がなくなるのでは? このリスクと不安定な雇用の未来に、個人はどう対応すれば良いのか? 自分は勝者となるか、敗者となるか?」とシラー教授は主要国の世論変化を簡単にまとめました。

「職業が市場から消えるというリスクが、なぜ以前と比べると大きいのか」という質問に対して教授は次のように述べていました。

「例として教職や翻訳という仕事を取り上げてみましょう。以前までは、このような職業を選んだ者は生涯、安定した生活ができることは確かでした。しかし、20年後には、教師や通訳が必要でしょうか。もしかすれば、IT技術が簡単に代わりを務めているのではないでしょうか。習得した知識が一度に意味、重要性を失うと、アイデンティティーが失われる恐れが出て来ます。自尊心は『自分にはこれが出来る』という態度に基づいています。IT時代では個人の持つ自尊心が失われつつあります」。

「なぜコンピューターが核兵器よりも危険なのか」という質問に対して、シラー教授は次のように説明しました。

「アメリカの数学者、ノーバート・ウィーナーの著書『サイバネティックス』には『コンピューターか、原爆か、どちらがより危険なのか私には分からない』とあります。『コンピューターは人間の頭脳の代役を務めるだろう。限られた才能しか持たない人間は特に危険にさらされるだろう』と彼は既に1948年に警告していました。その当時のコンピューターは今と比べるとそれほど高度な機械ではありませんでした。今日のIT技術の発展を考えると、社会への影響は非常に急激だと思います」。
「原爆は多分、私たちが生きている間には、投下されないと、考えてもいいでしょう。経済環境に急激な変化をもたらすのはIT革命でしょう。そして、人によっては生存するか、しないかの問題になるかもしれません。となると、その人にとっては、IT革命の影響は原爆よりも致命的かもしれません」。

「その反面、インターネット時代に新しい職業が生まれ、多くの人々にチャンスを与えているのではないか」という質問に対して、シラー教授は次のように答えました。

「もちろん、ヨーゼフ・シュムペーター(経済成長を理論づけた経済学者)が描いたような未来のすばらしい可能性を想像することはできます。Uber、AirBnBやEbayといった興味深い企業が次々と創立され、私たちの生活を変えていきます。しかし、今話題のタクシー配車サービスUber(ウーバー)ですが、ドライバーの待遇は良いとは言えません。そして将来、無人走行車が走るようになればドライバーは無用になるでしょう」。

決して悲観主義者ではないと語るシラー教授は、学生たちに将来性のある職業は何かと問われても答えらないそうです。

「もし将来どのような利益があるか分からない場合、リスクに対して保険をかけることを、エコノミストとして私は勧めます。健康保険、火災保険、失業保険とリスクに対して様々な保険があります。経済的不平等が増加している一方、保険は決定的な対策だと思います。(中略)もちろんIT革命は豊かな社会をもたらすでしょう。けれどもこの新しい富は少数の手に集中して、平等には分配されません。若者が専門的な資格を習得しても、デジタル化により、選んだ職業が突然消えることは有り得ます。失業保険は職を失い新たな職を求めるまでの間に支払われる保険金です。将来、私たちに必要となる保険は、事故などで全く働けなくなるリスクに対して掛ける現在の就業不能保険と同じようなものです」。

ここまで翻訳するのに苦労した私は、コンピューターがクリックひとつで翻訳してくれる時代に出会えたらありがたいことだと思いました。その一方、最近の新聞に載っていた土木工事をするインドの5~6才の子供たちの写真を見て、世界にはコンピューターや機械が浸透していないところがまだまだあると思わずにはいられませんでした。IT革命により経済環境が不安定となり、そこに危険をみるのはグロバール化の勝者である主要国だけではないかと感じました。

IT産業の首都と呼ばれるカリフォルニア州シリコンバレー。ここにはソフトウェア・インターネット関連の世界的企業の拠点があります。そして「ブロードバンド接続さえあれば、いかなる問題も解決できる」と誇示しているようです。ところが、この州から入った最近のニュースは「干ばつに襲われているカリフォルニア州では水不足が深刻化し、ブラウン知事は節水を義務づける命令を発した」というものでした………。

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写真参照、Miki Yoshihito, No nuke、https://www.flickr.com/photos/mujitra/

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