プラスチック・プラネット、その2、奇妙な現象

やま / 2012年6月10日

南ドイツ新聞のウィークエンドマガジンの見出しに関心を持ちました。「もう始まった?なぜ現代っ子の性成熟期、思春期が早いのか?9歳で胸が膨らみ、10歳で恥毛が。学者たちでも謎が解けない。原因は食生活、ストレス、それとも他に?」もしかして、ここにもプラスチックに使用されているビスフェノールAの影響があるのではないかと、ふと思いました。(”人体は終着駅”、BUNDはこのパンフレットで環境ホルモンから子供を守ろうと呼びかけている)

やはりこの記事でもビスフェノールAは、原因のひとつとなる可能性があると取り上げられていました。これは内分泌攪乱物質と言われる有機化合物のひとつで、体内の正常な働きを支えているホルモンの働きを壊すこと言われています。日本政府は2003年に「生体に障害や有害な影響を引き起こす外因性の化学物質」との定義を発表しています。一般に環境ホルモンと呼ばれる有機化合物の害については専門家たちの意見はまだ分かれています。ドイツ連邦リスク評価研究所(Bundesinstitut für Risikobewertung)では、ビスフェノールAは「微量な急性的毒素」とありますが、EU委員会は哺乳瓶のビスフェノールAの使用を去年3月から禁止しました。
「プラスチックを安く生産し、より利益を上げるために、ビスフェノールAをベビー製品に ”詰め込む”とは最低だ」と憤然とする『プラスチック・プラネット』の監督、ヴェルナー・ボーテ氏。

化学物質と不妊性の関連を突き止めた女性

化学物質がホルモン的作用する可能性を指摘したのは、動物学者であるシーア・コルボーン氏です。学究生活を始める15年前、牧羊を営んでいた彼女は、牧場を守るため、鉱山会社に対して抗議運動を起こしました。その時、自分のような平凡な女性は相手にしてもらえないと実感し、大学に通うことを決心したそうです。1927年生まれの彼女は58歳で動物学の博士号を取りました。彼女の著書、『奪われし未来』は日本語にも翻訳され、環境保護者、研究者などをはじめ、多くの読者の注目をあびています。この本が1996年に出版される前に、当時米副大統領のアル・ゴアは、是非この本の序文を書かせてほしいと自ら頼み込んだそうです。
彼女がワシントンにある環境財団から、アメリカ合衆国北部の湖付近の生体状況の調査を頼まれたのは、1987年の8月でした。湖への排水量は20年ほど前から大幅に減っているにもかかわらず、この付近に住む動物の間で奇妙な現象が見られました。卵の数は断じて多いのですが、雛が孵らず、孵った雛に目がなかったり、くちばしや足に奇形がありました。一方、巣や卵の面倒を見ない鳥たちが目立ちました。コルボーン氏が一番驚いたのは、工業地帯で汚染のひどかったオンタリオ湖とミシガン湖で見つかった、メス鳥同士で巣を作るレスビアンのカモメでした。オス鳥に興味がないように見えたのですが、細胞検査をしてみると、オス鳥がメス化していることがわかりました。このような異常現象が人体にも生じているのか、調査は続きましたが、がん発生比率は他の地域とは変わりませんでした。「大抵の研究者だったら、これで人体には影響がないと結論を出してしまうだろう。しかしシーア・コルボーンは違う。」14人の子供を育て見守った母親は、特に観察力と忍耐強さがあったのでしょう。何かが「自然ではない」と感じ、もう一度始めから何百ページにものぼる調査記録を読み直しました。

学者たちが集めた奇妙な現象

  • フロリダのゴールドコーストに生息するハクトウワシの大半は1950年代半ばから原因不明で不妊になっていた。
  • フロリダのアポプカ湖に生息するアメリカ・アリゲ-タ-の卵の孵化率がわずか18%。孵化したオスのペニスが異常に小さい。
  • イギリスの自然のなかに生息するカワウソがいつの間にか、いなくなってしまった。
  • カナダとアメリカ合衆国の国境にある、セントローレンス川の岸に打ち上げられた白イルカ(ベルガー)の死体を解剖してみると、水銀をはじめPCBやDDTが高濃度に蓄積されており、その量は有害廃棄物として取り扱うべきほどだった。1989年に捕らえられた白イルカには異常な変化があった。見かけはオスで、極小さな精巣が2つあり、しかも子宮も卵巣もあった。
  • 1940年から1990年の間、男性の精子数が45%減少している。

世界中からの学者たちの報告は他に数多くありましたが、それらのデータをまとめ、最終的に関連づけたのはシーア・コルボーン氏でした。問題は癌ではなく、生殖機能の異常変化だということが彼女には明らかになりました。

忍び足で迫ってくる人体への影響

「癌研究と違って、内分泌器についての動物実験は人体に適用できます。なぜなれば、この器官はどの生き物でも同じメカニズムで活動しているからです」。著書『奪われし未来』では約50の有害な化学物質が実験的に検証されています。現在、EUだけで約10万の有機化合物が商品化されて、その3万が身近な一般商品として消費されています。そのなかの96%が人体への影響について十分な検査もなく生産されています。2「大半の有機化合物が、人体の内分泌器に障害を与えていると考えるべきです。ただ、完全に証明されていないだけです。私たちは学会での発表を待ってはいられません。とりわけ、人体への影響はすぐにではなく、次の世代に現れてくるからです」と語るシーア・コルボーン氏。環境ホルモンが母親から胎児に移行し、中枢神経系の発達に及ぼす影響があり、後に子供の動作と知能の発達に障害を及ぼすことが判明しました。
「プラスチックを持っているから、すぐに死ぬということはありません。恐ろしいのは、この物質が体内に蓄積され、障害がじわじわと忍び足で迫ってくることです。私たちはこの映画で視聴者を脅かそうとは思っていません。皆さんにプラスチックは自然や人体に影響がある、ということを知ってほしいのです。そしてプラスチック製品を購入したり、使用する際、本当に必要なのかと、もう一度考え直していただきたい」3とインタビューに答えているヴェルナー・ボーテ監督。

1)ティム・クレーゲノウ、グリンピースマガジン1.97(Timm Krägenow, greenpeace magazin )
2)BUND, Weichmacher 2006
3)マーティン・コティネック、南ドイツ新聞、2010年2月25日(Martin Kotynek, SZ Wissen)

関連のある著書
レイチェル・カーソン、『沈黙の春』1962
有吉佐和子、『複合汚染』1974~1975朝日新聞

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