欧州エネルギー委員が美化した報告書
メルケル首相(CDU、キリスト教民主同盟)がバーデン・ヴュルテンベルク州首相であったギュンター・エッティンガー氏(同党)をギュンター・フェアホイゲン氏(SPD、ドイツ社会民主党)の後任として欧州委員会に送ったのは、今からちょうど4年前の2009年10月のことでした。
脱原発に踏み切る前のドイツで、メルケル政権が、市場自由化の支持者であり大手エネルギー企業との関係が深いエッティンガー氏を任命したことは筋が通っていたかもしれません。しかし今、脱原発を決めたドイツを代表する欧州エネルギー委員であるエッティンガー氏が、大手エネルギー企業がEUから受けている高額な補助金を報告書から削除し、公表するのを止めたという記事を読んで、メルケル首相が4年前に行った人選が正しかったのかと疑わずにはいられませんでした。
10月14日付けの南ドイツ新聞に掲載されたケルスティン・ガメリン記者の記事によると、欧州エネルギー委員エッティンガー氏は“汚い“エネルギーと呼ばれる原子力や枯渇性エネルギーへの高額な補助金に対して、非難の声が高まることを恐れ、統計の一部を消して、“美化”したそうです。
欧州エネルギー総局では「いかに公の補助金がエネルギー市場において、大きな効果をもたらすか」についての報告書をまとめ、来週発表する予定でした。この報告書の事項の一つには、いままでにどの企業が優先されて補助金を受けたかなど、細かく正確な金額が列記されていました。この2011年度の調査をまとめると、欧州連合27カ国の補助金の内容は下記のとおりでした:
分野 | 補助金高 |
再生可能エネルギー | 300億ユーロ (約 3.2兆円) |
原子力発電 | 350億ユーロ (約 3.7兆円) |
火力発電(化石燃料) | 260億ユーロ (約 2.8兆円) |
石炭、ガスなど枯渇性エネルギー生産☆ | 260億ユーロ (約 2.8兆円) |
合計 | 1,310億ユーロ (約14.0兆円) |
☆間接的な補助。化石燃料の使用が引き起こす健康、環境問題にかかわる補助金。
統計を見ると、エネルギー分野が受ける補助金が全部で1,310億ユーロである中、グリーンエネルギーと称する再生可能エネルギーへの補助金はわずか300億ユーロで全体の1/4にも達しません。ちなみにリスクの高い原発に対しての賠償責任保険はこの統計に挙げられた金額には入っていません。「再生可能エネルギーへの補助金が多すぎるからこそ、市民の負担が計り知れないほど重くなる」と再生可能エネルギーに関する補助金制度を絶えず批判していたエッティンガー委員にとっては痛い事実でした。
最終の欧州補助金報告書の草案には突如、分野別の補助金高が削除されていたそうです。メディアからの質問に対して「欧州エネルギー総局ではそのような正確な統計は初めからなかった」と述べ、エッティンガー委員の“スポークスウーマン”は討論を終えました。特に政府機関や大手企業側が説明に困る問い合わせを受けた場合、私の印象では、女性が広報を行うケースが目立って増えます。他の言葉で言えば、責任者が女性を“代わり“として出すということは、相当に窮地の陥っている現状を示していると思えます。今回の“スポークスウーマン”の答えにも無理があったと南ドイツ新聞の記者は記していました。なぜならば、問題の統計に赤い線が入った訂正モードの報告書が既にこの記者の手元にあったからです。
報告書のためにデータを集めた役人たちの中には、局長の個人的な判断によりデータが削除されたことを不満に思う人がいたのだと思います。市民が事実を知るべきだという思いから、データを新聞社に送ったのかもしれません。ドイツには第四権力と呼ばれるに相応しい、市民の信頼を得ている中立な報道があります。それは社会の出来事に関心を持ち、中立な情報を望む“マス読者”がいるからだと感じました。