何でも量り売り、包装ゴミを出さない店で買い物してみると。

池永 記代美 / 2018年10月21日

プラスティック包装ゴミをなくすために、食材の量り売りをする店がドイツで次々に登場

プラスティック・ゴミによる海洋汚染の問題が、注目を浴びるようになった。プラスティック製の漁の網にからまってしまったウミガメやアザラシの写真を見て、胸を痛めた人は多いだろう。海岸に打ち上げられて死んだ鯨のお腹の中に、8キロ分のプラスティック袋が見つかったという悲しい話もあった。日常生活の中でも、広場や駅のホームの片隅に捨てられているテークアウト用のコーヒーカップや、道路に置かれたゴミ箱からあふれて、風に舞うビニール袋など、プラスティック製のゴミの多さがこのところ気になって仕方がない。そんな中で、少しでもプラスティック・ゴミを減らそうという新しいスタイルの店が、ドイツでは次々に誕生している。

私がベルリンに来た1990年頃、青空市場はもちろんのこと、スーパーマーケットでも果物や野菜が包装されておらず、必要な量だけ買えるのが新鮮な驚きだった。 ところが最近では、野菜や果物がパックされるようになっただけでなく、生活や買い物のスタイルが変化し、サラダやパスタなど調理済みの商品が増え、大量の包装ゴミが発生するようになった。9月30日 にこのサイトで紹介したように、ドイツは不名誉なことに、包装ゴミのチャンピオンになってしまった。こうした状況を少しでも改善しようと、2014年ドイツ北部のキールに、包装されていない商品を売る店が初登場した。今ではドイツにそのような店が50店舗近くあるという。その一つがベルリンにあるので、訪ねてみた。

Original Unverpacktの店内。派手な色の包装がないせいで、店内はすっきりみえる。

外国人や若い人が多く住むクロイツベルク地区。トルコ風の喫茶店やユニークなブティックのならぶ賑やかな通りに、その店はある。名前は「Original Unverpackt」。直訳すると「 オリジナル・無包装」で、店のコンセプトがそのまま店名になっている。広さ70平米という店の中はちょっと理科の実験室のようだ。というのも、食材などいろいろな商品が入った試験管を大きくしたような容器が、ずらっと並んでいるからだ。この店が取り扱う商品は600種類に及ぶという。 例えば、ライ麦やカラス麦など、ドイツ人の朝食には欠かせないシリアル食品の材料はふんだんに揃っている。そして、そこに入れるドライフルーツ類。砂糖や塩、小麦粉などの必需品もある。そんなに品数があるのに、店内がすっきりして見えるのは、派手な色でブランド名や商品名が大きく書かれたプラスティックの包装がないからだろう。

日頃からパックされていない野菜や果物を買うようにしているので、量り売りには慣れているつもりだったが、スパゲッティーやペンネなどのパスタもバラ売りされているのには驚いた。容器の横に置いてある手袋をはめて、 容器に手を入れ取り分けるようになっている。オリーブオイルや酢は、タンクのよう金属の容器に入っていて、栓をひねって持参の容器に入れるようになっている。シャンプー、クリーム、洗剤などもある。残念だったのは、肉や魚がないこと。そして、ジャム、蜂蜜、芥子などは、再利用可能ではあるが、ガラスの瓶に入っていて、全てのものが無包装というわけではないことだ。

ピーナッツを詰めるこの男性は、いくつもタッパーを持ってきた常連さんだ。

この店で買い物をするためには、自分で紙袋や瓶、タッパーウェアなど、商品を入れる容器を持って行かなければならない。そのため、フラっと立ち寄る客は少なく、この店で買い物をすることを決めて来る人がほとんどのようだ。 しかし、もし手ぶらで来れば、店で売っている紙袋や木綿のネット、瓶などを買うこともできる。紙袋は20セント(約26円)、木綿の袋はいろいろ種類があるが、一番安い物で2ユーロ(約262円)する。どのように買い物をするのかちょっと戸惑ったが、常連だという若い女性が、その手順を教えてくれた。まず瓶や容器の重さを店の入り口に置いてある測りで量り、横に置いてあるシールにその重さを記入し、容器に貼付ける。そのあと、商品を欲しい量だけその容器に入れる。レジではまず容器ごと重さを量り、そこから容器の重さを差し引いて、値段を計算する。容器の重さを量るのは、客が自分で行なう自己申告制だ。

その店で何を買うかわからなかったが、私は紙袋3枚と、ジャムの入っていたガラス瓶  を持って行った。全く予定していなかったが、店でピスタチオナッツを見て、思わず食べたくなり、容器の入れようとしたら、こぼれてしまった。小麦などの粉類は、こぼしたら大変なことになると思い、やめておいた。この店の常連になるには、少し練習が必要なようだ。ほかにはドライフルーツも数種類買ったが、それぞれに専用の大きなスプーンがついていて、衛生に問題はないようだった。 値段は普通のスーパーで買うより、ちょっと高めだった。

無駄な包装をなくす以外にも、量り売りのメリットがあると私が確信した香辛料コーナー

この店の中でずらっと並んだ香辛料を見て、我が家の台所で埃をかぶっている丁字やナツメグの瓶を思い出した。珍しい料理を作ってみようと張り切って購入したが、それっきり使っていない食材や調味料が、実は台所で大量に眠っている。もちろん賞味期限はとっくに過ぎている(それでも私は使用するつもりだが)。もし必要な量だけ買えれば、いつも新鮮で香りのよい香辛料を使うことができるはずだ。それにしても、いったい、いつのまに、誰が、スパゲッティーは500g、砂糖は1キロ、オイルや酢は750 mlや500mlという単位で売ることを決めたのだろうか。 生産者が家計の大きさや消費動向の変化などを調査して決めているのだろうが、彼らや流通業者の都合の方が優先されているのではないか?そんなことを考えているうちに、そもそもお金を払う私たち消費者に、必要な量だけ購入する権利がないというのは奇妙なことではないか?とまで思えてきた。言ってみれば、「購入の自己決定権」を私たちは奪われているわけだ。

ベルリンのこの店を始めたのは、若い二人の女性で、ゴミを出さない生活を目指して、店の設立に踏み切ったという。資金の10万8000ユーロ(約1414万8000円)は、クラウドファンディングで調達したそうだ。プラスティック・ゴミの問題を解決するには、プラスティックのリサイクルに補助金を出したり、新しいプラスティックの生産に使われる石油への補助金をカットしたり、複数回使える包装を促進するなど、包括的な戦略が必要だ。しかし一番大事なのは、みんながプラスティックを使わないよう心がけることだ。そのためには、ある程度の便利さを放棄する覚悟がいる。日本でもスーパーマーットが登場するまでは、専門店で肉も魚も野菜も乾物も、全て量り売りで売っていた。そのような時代がまたやってくるとは思えないが、一人一人が、包装されていないものを買うよう気をつけることで、今日からでもゴミを回避することができるのだ。この店を出た時、ちょっといいことをしたような気分になれた。

 

 

 

 

 

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