レストランも再開、進むコロナ規制措置の緩和

池永 記代美 / 2020年5月17日

ほぼ6週間ぶりにカフェやレストランがオープン。再開を待ちかねていた人たちで賑わった。

5月6日、メルケル首相とドイツ全国16州の首相との間で、今後のコロナ措置の緩和について話し合う電話会議が行われた。赤いジャケットに身を包んだメルケル首相はその結果を伝えるために開かれた記者会見で、「私たちはパンデミックの最初の局面を乗り切ったといえます」と語った。みんなが心待ちにしていた嬉しい言葉だった。

5月6日時点のドイツにおけるコロナ感染者は16万3860人、死亡者は6831人で、日本と比べるとかなり多い。しかしその数日前から日々の新しい感染者の数は千人を下回っており、新たな死者の数も2桁と3桁の間を行ったり来たりするぐらいまで減ってきていた。一人の感染者が何人を感染させるかを示す実行基本生産数も、0.65 に下がっていた。感染者の数は今後どんどん少なくなるだろうという、良い兆候を見せていたのだ。

しかし、この日大幅な規制緩和が決まることを期待していた人は、少しがっかりしたかもしれない。5月10日までとなっていた接触制限が、6月5日まで延長されたからだ。今やコロナ対策の鉄則となった1.5メートルの対人距離や店内や公共交通機関でのマスク着用のルールは、これからも続くのだ。ただし、今までは家族や同居人以外の人の場合、一人としか一緒に行動してはいけなかったが、これからは他の一世帯の複数の人と会ってよいことになった。つまり家族連れで友人の家族を訪ねたり、一緒に散歩をしたりしてよいことになったのだ。

今回の会議では、今後の規制緩和は州政府が責任を持って行うことも決まった。これまでは規制措置の導入や緩和の時期や内容について、連邦政府が指揮を取り、ガイドラインを作って来たが、州にバトンタッチをしたことになる。今回それが決まったのは、もともと感染症対策は州の管轄だったということもあるが、地域によって感染状況が大きく異なることもその理由だ。まだ感染者の多いドイツ南部の地域で行われている規制措置を、感染者の少ないドイツ北部の地域にも課すことは意味がない。そんなことをすれば、人々の不興を買うだけだ。それにこれから決めて行かねばならない学校の授業のあり方や幼稚園の再開など、教育に関わることが連邦政府ではなく州政府の管轄ということもある。

前置きが長くなったが、この日の会議で決まった緩和策は、以下のようなものだ。

◎ 800平米以下という売り場面積の制限を廃止し、衛生対策を守ることを条件に、全ての小売店の営業再開を認める。

◎飲食店や宿泊施設、劇場やコンサートホールなどの文化施設、大学の講義や音楽教室や市民大学の授業、スポーツジムやフィットネススタジオなど、各州が地域の感染状況や地域の特色を考慮しつつ、段階的に再開を決めていく。

◎ 夏休みまでに全ての学年の生徒の授業を再開し、どの子供も一度は登校できるようにする。サポートがないと勉強ができない子供や、家庭での学習が困難な子供はできるだけ早く、学校で授業を受けられるようにする。詳細は州が決める。

◎ 保育園と幼稚園は、5月11日から受け入れる子供の枠組みを広げる。秋から小学校に進む子供は、夏休み前に登園できるようにする。詳細は州が決める。

◎ 病院や介護施設などの入居者の訪問を、配偶者や子供など特定の一人に対して認める。

◎ 集団で行うスポーツも衛生対策を守るという条件付きで、屋外での練習を認める。ただし身体が接触するような練習は、行ってはならない。詳細は州が決める。

◎ プロサッカーのリーグ、ブンデスリーガの5月後半以降の再開を認める。ただし選手たちに対して、試合前に一定の待機期間を設けることを条件とする(注:8月31日まで大きなイベントは中止されているので、無観客試合となる)

5月13日、連邦議会で行われた質疑で答弁するメルケル首相 ©️Bundestag/ Achim Melde

実は4月15日に発表された規制緩和のガイドラインを、各州はかなり自由に解釈した。少しでも早く経済生活を正常化させるためだ。今回、上に記した様々な分野の規制緩和が州の判断に任されるようになれば、州はさらに緩和を急ぐだろう。しかしそれにより、再び感染者が増え始めたらどうするのか?その時のために、今回の会議では「緊急ブレーキ」の仕組みが作られた。それは一つの自治体で人口10万人につき過去7日間に合計50人を越す新たな感染者が出れば、規制の緩和は見送られる、もしくは改めて規制の導入が行われるというものだ。こうした「緊急ブレーキ」の設定は、州に規制緩和の主導権を引き渡す条件として、メルケル首相が要求したものだった。メルケル首相の記者会見に同席したハンブルク州首相のチェンチャー氏は、州はこれから大きな責任を追うことになると述べた。大学病院で医師として働いた経験のあるチェンチャー氏は、コロナウイルスとの戦いは、気を許してはならない困難なものであることを理解していたのだろう。この緊急ブレーキは、現在3つの地域で発動されている。食肉処理場や難民収容施設で、クラスターが発生したためだ。メルケル首相が要求して「緊急ブレーキ」の仕組みが導入されたこと自体は評価される反面、その基準が緩すぎる、つまり50人も感染者が出てからブレーキを発動するのでは遅すぎるという専門家の批判もある。また、この仕組みが作られたために、感染ルートの割り出しなどの作業で今でもかなり負荷がかかっている地域の保健所が、さらに重大な責任を追うことになったという問題も生まれている。

5月6日の決定を受けて、5月9日に早速、飲食店を再開させた州もあるが、ベルリンでは5月15日からとなった。行きつけだった我が家の近くのピザ屋に早速出かけてみたが、テーブルの間を最低1.5メートル開けねばならないので、どのテーブルも埋まっていたのに、店内は以前より寂しい感じになっていた。杯が進めば気が緩んで対人距離を守れなくなるからだろう、営業時間も夜の10時までと制限されているので、こちらも時間を気にしながらの食事となった。以前は遅い時間にワインだけ飲みにくる客もいたが、今はきっちり22時に店を閉めなければならない。このような条件が課されているので、営業再開できたといっても売り上げは通常の半分にしかならないのではないだろうか。もしコロナ感染者がそこで食事をした場合、他の客を感染させた可能性も出てくるので、店内で接触した人を探し出せるように、店に名前や連絡先を残さなければならないというのも新しいルールだ。ベルリンではすでに多くの美術館も再開したが、入場者数を制限するために、チケットは事前にオンラインで購入しなければならない。時間があいたからとふらっと訪ねることはできない。規制が緩和されていっても、コロナ前の生活は戻ってこない。私たちはコロナとの共生という新しい生活様式に慣れていかねばならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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