ベルリンから福島へ視線を投げかける美術展

みーこ / 2014年4月16日
美術展会場となったアートセンター「Kunstraum Kreuzberg/Bethanien」

美術展会場となったアートセンター「Kunstraum Kreuzberg/Bethanien」

「Distant Observations. Fukushima in Berlin」というタイトルの美術展が、4月27日(日)までベルリンのアートセンター「Kunstraum Kreuzberg/Bethanien」で行われている。福島原発事故をテーマにした25組のアーティストによるグループ展である。

グループ展タイトルの「Distant Observations. Fukushima in Berlin」は「遠くからの観察:ベルリンの中の福島」と訳すことができるだろうか。ベルリンという街に視座を置き、そこから原発事故の舞台となった福島へ視線を投げかけようという意図がタイトルから感じられる。

25組28人のアーティストのうち、日本人と思われる名前は16人。絵画、ビデオ、インスタレーションなど、それぞれが思い思いの方法で「自分にとっての福島」を表現している。東日本大震災が起こった当時の個人的衝撃を表現するアーティストもいれば、復興を目指す福島の人たちの努力をビデオにまとめたアーティストもいる。「原子力と人間」というテーマのインスタレーションもあれば、自然エネルギーへの希望を表したと思われる作品もあった。

ここで、私が個人的に気に入った作品をいくつか紹介しておきたい。

鈴木光(Hikaru Suzuki)の「Mr. S and Doraemon」

鈴木光(Hikaru Suzuki)の「Mr. S and Doraemon」

まず、鈴木光(Hikaru Suzuki)による「Mr. S and Doraemon」というビデオ作品。このビデオの前半は実写で、日常のいろんなシーンが巻き戻しされている。例えば、自転車に乗っている人が逆方向に動いていったり、水が逆方向に流れたりする。後半では、アニメの中のシーンが次々に映し出される。「このアニメ、見たことがある気がする」と思ったのだが、説明を読んでみると、すべて『ドラえもん』のシーンだとのことだった。ただし、登場人物は一切出てこず、誰もいない台所や部屋が次々に映し出されるだけだ。これらの風景にかぶせるようにして、東日本大震災直後の緊急ニュースの日本語音声が流れる。どこかで見たような懐かしい風景なのに、そこには誰もいない。そして、緊迫したニュースだけが耳に入ってくる。何とも不穏な気分にさせられる、想像力をかきたてられるビデオだった。

Jens Liebchenの「Tsukuba - Narita 2011/03/11」

Jens Liebchenの「Tsukuba – Narita 2011/03/11」

Jens Liebchenの「Tsukuba – Narita 2011/03/11」という映像作品も良かった。どこにでもありそうな日本の郊外の風景写真を次々に映写しただけの作品で、「これが福島と何の関係があるのだろう?」と思い、説明を読んでみて意図がわかった。説明にはこのように書いてあった。「私は地震の2日後に日本を去った。状況がはっきりしなかったからだ。日本のメディアと西洋のメディアから伝わってくる情報は、大幅に異なっていた。成田までのバスは、いつものように時刻表通り運行した」。このような形で日本を去らなければならなかった作者の無念さ、日本政府やメディアへの不信感、非常時でも何事もなかったかのように進む日本社会の不気味さがよく伝わってきた。

照屋勇賢(Yuken Teruya)の「Minding My Own Business」

照屋勇賢(Yuken Teruya)の「Minding My Own Business」

照屋勇賢(Yuken Teruya)の「Minding My Own Business」という作品も、多様な解釈が可能な面白い作品だと思った。東日本大震災を報じた日本の新聞を使ったインスタレーションだが、新聞紙面を一部切り、こよりのようによじって、立体的な植物の形を作っているのだ。震災の悲惨な状況を伝える新聞から植物が生えているというわけだ。「Minding My Own Business(自分のことだけ考える)」というタイトルを合わせてみると、いろいろな解釈が可能だと思った。まず、「悲惨な震災で人間の生活が破壊されても自然は構わず芽吹く」と解釈し、そこに土地の復興や自然エネルギーへの希望を感じ取ることができる。あるいは、このタイトルから、被災者と非被災者の分断を想像する人もいるだろう。この作品は、海外の新聞を使ったバージョンもあるようだが、それを見て「自国の視点からのみ、日本の震災を報じた海外メディア」というふうにメディア批判の意図を感じ取る人もいそうだ。なお、海外の新聞を使ったバージョンの写真は、展覧会全体の案内状にも使われており、下の展覧会情報詳細リンクで見ることができる。

Nina Fischer & Moroan el Saniの「I Live in Fear - Record of a Living Being After March 11」

Nina Fischer & Moroan el Saniの「I Live in Fear – Record of a Living Being After March 11」

「みどりの1kWh」ウェブサイトの技術担当のMさんは、Nina Fischer & Moroan el Saniの「I Live in Fear – Record of a Living Being After March 11」が心に残ったと言っていた。これは、黒澤明の1955年作品『生きものの記録』を見た感想を話し合う日本人たちを映像にしたビデオ作品で、2013年の「あいちトリエンナーレ」でまず発表されたものだ。『生きものの記録』は、1954年の第五福竜丸事件などを背景に反核の世相の中から出てきた作品で、原水爆の恐怖から日本を脱出しようとする男と、それを何とか止めようとする家族を描いた映画だ。このビデオは、「黒澤明の1955年の映画は、2011年3月11日以降、新しい意味を持った」というアーティストの発想から出てきた作品なのだろう。この映画を私は見たことがないのだが、ぜひ見てみたいと思った。映画を見てから、この「I Live in Fear」という作品を見たら、より共感を持って、感想を話す日本人たちのディスカッションに入り込めそうだ。

展覧会は、4月27日(日)までおこなわれている。詳細は次の通り。

<展覧会「Distant Observations. Fukushima in Berlin」>
【時間】毎日 12:00〜19:00
【場所】Kunstraum Kreuzberg/Bethanien (Mariannenplatz 2, 10997 Berlin)
【内容】福島原発事故をテーマにした25組のアーティストのグループ展。オープニングの日はAzusa Kunoによるパフォーマンス「We don’t have to be Fernando Pessoa」が披露された。
【入場料】無料
【詳細リンク】
http://www.kunstraumkreuzberg.de/start.html

 

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