知ってた? 省エネで環境にも優しい地域冷房

池永 記代美 / 2022年9月28日

今年の夏、西部ヨーロッパを熱波が襲い、マドリッドやパリなどは気温が40度を超える日が続いた。スペインやフランスより北に位置するドイツはそこまで過酷な暑さに見舞われなかったが、温暖化が進むとともに、暑さへの対処が必要になりそうだ。そんな中、今まで聞いたことのなかった地域冷房というものが、バイエルン州の州都ミュンヘンの一部の地域で利用されていることを知った。

観光客で賑わうミュンヘンのマリエン広場。地下に地域冷房のための管が走っていることを知っている人はほとんどいないだろう。

地域冷房が何かを説明する前に、日本であまり馴染みのない地域暖房というシステムを紹介しよう。日本では 部屋や住宅ごと、もしくは建物ごとに暖房器具や暖房装置を設置して暖房が行われる場合がほとんどだ。ところがヨーロッパの中でも寒さが厳しい国々では、地域ごとにその地域全体を暖房するシステムが普及している。

例えばベルリンの場合、市内にある11の火力発電所で天然ガスや石炭を燃やして電力を作る際に発生する排熱が、暖房に使われている。排熱で温められたお湯が市内の道路や歩道の下を走る管を通って各建物に送られ、建物に設置された熱交換器を通じて、建物の温水暖房システムの中を循環する水を温めるという仕組みだ。ベルリン市内には地域暖房に使うお湯を輸送する管が2000kmも張り巡らされており、ドイツ全国エネルギー•水利経済連盟 (BDEW) によると住宅の37.1%が地域暖房を利用しているという。ドイツ全体では、地域暖房を利用している住宅は6.6%しかないので、ベルリンは地域暖房がとりわけ普及しているといえる。地域暖房と今まで書いてきたが、このシステムは正確には地域熱供給と呼ぶべきだ。というのも風呂やシャワーで使われるお湯も、このシステムを使って温めたお湯を使っている場合があるからだ。

地域熱供給の長所は何と言っても、火力発電の 排熱を利用するために エネルギーが有効利用でき、省エネにつながることだ。そして、建物や住宅が個別に暖房器具を使用するより効率が良くなるので、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を減らすこともできる。建物や住宅の持ち主にとっては、暖房器具の取り付けや維持、管理に要する費用や労が省けるし、そうした器具に場所を取られなくて済む。ただし、大きな短所がある。それは道路を掘り起こしての配管工事が必要で、膨大な初期費用がかかることだ。この費用は消費者が払う熱代の中に含まれることになる。お湯の届け先が遠くになると温度が下がってしまい、十分な熱を供給できなくなるというのも欠点だ。そのため地域熱供給システムは、建物が密集する都市部では有用だが、過疎地域での利用 には向いていないと言える。

ミュンヘン市内中心部、カールス広場(シュタフス)の地下に設置されている冷却装置©️SWM

前口上が長くなったが、地域熱供給と同じような仕組みで、熱ではなく、冷たさを地域に供給しようというのが、地域冷房だ。ドイツの夏は日本ほど暑さは厳しくなく、通常の家庭でクーラーをつけている家はほとんどない。しかしオフィスビルやショッピングセンター、病院などの施設は暑い日には冷房が入っている。それに温暖化が急激に進む中、クーラーを備えた高級住宅も見受けられるようになり、冷房への需要が高まるのは確実だ。それを見越してミュンヘン市のエネルギー供給公社シュタットヴェルケ•ミュンヘン (SMW) は、10年前に地域冷房を促進しようと決めたそうだ。

地域熱供給では発電所の熱が利用されているが、ミュンヘンの地域冷房で使われているのはミュンヘンの地下水や地下を流れる伏流の水だ。その水を汲み取り、市内に11基ある冷却装置で10度から6度まで冷やし、専用の管を通じて各建物に冷水を送り込む。その冷水が建物の中を循環する空気や水を冷やして、冷房に使われるというシステムだ。現在、ミュンヘン市内に28km の冷水管網が敷かれ、3基ある冷却装置と100棟ほどの建物がそれで繋がっている。この地域冷房を利用することで、あるミュンヘン市内のホテルは、1年間に電気代を約15万ユーロ(約2085万円)ほど節約できるようになったと語っている。

ミュンヘンの地下水の温度は通常18度ぐらいで、それを6度に冷やすのは、30度前後の夏の外気を冷やすほどエネルギーを必要としないため、地域冷房は省エネにつながる。他にも地域冷房のメリットはある。個々の建物に取り付けたクーラーからは暖かい空気が排出され、ヒートアイランド現象の原因にもなっているが、冷却作業をまとめて行うことで、そうした悪影響も抑えることができる。また、地域暖房と同じように、個別の冷房器具は不要で、それを設置するための場所も、 他の目的のために使える。ただし、これも地域暖房と同様だが、配管工事のために大きな投資が必要であることと、建物が密集した地域でなければ有効に活用できないというデメリットはある。しかしSWMは現在稼働している地域冷房のおかげで、年に1000万kWhの電力を節約でき、2万5000トンの二酸化炭素の排出を削減できているとし、 今後も投資を行い、ミュンヘンにヨーロッパ最大の地域冷房網を構築することを目指すという。ちなみにパリではセーヌ川の水を利用した地域冷房が30年前から行われており、配管網は90km、700の顧客が利用しているという。

 

 

 

 

 

 

 

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