問題をはらむ送電網

まる / 2011年12月11日

「原子力が戻って来る?」 ツァイト紙(Die Zeit) 2011年11月17日

”霜が降り、嵐のような風がふき、凍えるドイツ。電車は遅れ、飛行機はキャンセルになり、道路は混乱している。2017年、クリスマス前の木曜日。人々は料理をし、クッキーを焼く。テレビが付けられ、一日中明かりが付けられている。工場のポンプ、モーター、ベルトコンベアーが動き、労働者たちはクリスマス休暇前の最後の仕事をこなしている…”

こんなシナリオで始まるこの記事。なんとなく、これから良くない結末が待っているのを感じさせる書き出だしだが、本当にそうなっていた。

”そんな中、北ドイツの風力発電エネルギーは南ドイツに届かず、南ドイツでは太陽光発電のための太陽が照らない。あと10日もすればウルムとアウグスブルクの間にあるグンドレミンゲンB原子力発電所が運転停止になる。緊急に招集された連邦議会の特別会議で、グンドレミンゲンの運転継続が決定される。それに加え、大連立政権は、すべての原子炉の操業停止の日付を定めた原子力法7条1aに1fを追加することを決める。その内容は、電力供給に障害が出る怖れがある場合には、1aで定められた期間を延長することができるというものだ。これで脱・脱原発は決定的になった。”

この記事は、ドイツ政府が国内にある全原発の段階的廃止を決め、エネルギーシフトをノルベルト・レトゲン環境相が「国家的プロジェクト」、アンゲラ・メルケル首相が「大いなるチャンス」と呼んでから6ヶ月(「脱原発、ドイツの歩み2、3」参照)を経た今、エネルギーシフトは思うように進んでおらず、このままのテンポでは2022年までの完全な脱原発は難しくなると警鐘を鳴らしている。そして、エネルギーシフトが遅れる理由の一つとして、送電網の整備が進まないことを挙げている。

ドイツ・エネルギー・エージェンシーの推定によれば、主に北ドイツで風力発電した電力を南ドイツへ運ぶために、2020年までに4450kmの送電線が必要となるという。重工業と人口が集中するのが南ドイツだが、風力発電は海に近くて風が強く、十分な土地もある北ドイツに集中するからだ。また、オフショア風力発電所の建設にも力が入れられているから、将来的に南ドイツは北ドイツのエネルギーに頼ることになる。2009年に政府が特に緊急を要するとした1807kmのうち、今までに引かれたのは214kmのみだという。

そして、9カ国と国境を分けるドイツでは、送電網の整備は国内の問題では終わらない。

 「ドイツのエネルギーシフトにポーランド苛立つ」 ツァイト紙(2011年12月1日)要約

2011年上半期におけるドイツの再生可能エネルギーによる発電の割合ははじめて20%以上になった。風力発電所の42%は旧東ドイツ地区にあるが、ここには電力消費者の20%しか住んでいず、電力は北ドイツから南ドイツへ運ばれる。1995年以来、3本の送電線が東西ドイツを結ぶが、それではキャパシティーが足りないため、余剰電力はポーランドの送電線に入ってしまう。それで、メクレンブルク・フォアポメルン州とブランデンブルク州で作られた風力電力はいったんポーランドとチェコに流れ、それがぐるっと回ってバイエルンの送電網に入る。ポーランドとチェコにとっては、国内の送電網にドイツの電力がどのくらい入ってくるか想定できず、自国の電力のためのキャパシティーの目安が立たない。そこで、ポーランド側の国営送電会社PSE社は数百万ユーロをかけて、2014年までに移相器を設置する予定だ。ポーランドがドイツの電力を受け入れなければ、ドイツの送電網がパンクしてしまうので、ドイツ側の送電会社50Herzは困っている。

重要な問題の一つである送電網のことを考えるだけでも、EUの中の1カ国としてのドイツには、考慮しなければならない複雑で困難な問題が沢山ある。それでもエネルギーシフトをやっていこうという意気込みに私は感心する。ドイツの政策が、原子力推進派も少なくないEUのエネルギー政策にどんな影響を与えるのかに私は注目していきたい。

 

 

 

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