福島原発事故を無視する英国 - 再び原子力エネルギーを推進

やま / 2013年11月17日
セラフィールド敷地内に再び原子力発電所が設立される予定。特に隣の村シースケールでは反対者はいない。

セラフィールド敷地内に再び原子力発電所が設立される予定だが、隣の村シースケールには反対者はいない。

原発の安全を確保することはできるでしょうか? 万が一のときのためにドイツでは原発一基に対して20億ユーロ(約2660億円)、隣国のフランスでは9000万ユーロ(約120億円)の保険が掛けられています。欧州エネルギー委員エッティンガー氏は欧州の原子炉の損害賠償責任保険金額を各基10億ユーロに統一することを提案しようと考えています。福島原発事故でこれまでかかった損害は専門家の推測によると1870億ユーロ(約25兆円)に達すると発表されました。となると提案の10億ユーロという保険金額は、ばかばかしいほど低いと言えます。

3.11のような大惨事がもしヨーロッパで起きた場合、被害はそれ以上になることは確かでしょう。なぜならば、運良く西風が放射能を太平洋に吹き飛ばした事態と比べて、地続きであるヨーロッパにある原子炉の大半は人口密集地域に建っているからです。通常、各国が被害の規模を推測し、企業が支払う損害賠償責任保険金額を決めています。しかし必ずしも十分とはいえません。例えば欧州連合加盟国であるブルガリアやスロバキアの原発は度々問題を起こしています。リスクが高いのにもかかわらず保険契約高は4900万ユーロ及び7500万ユーロであり、加盟国の中でも特に低いそうです。仮にスロバキアの発電所で事故が起こり、隣国のオーストリアに被害があったとしても、賠償責任は事故のあった原子力発電会社にあります。原発発電所が掛けている保険金と現実的な損害賠償金の大幅な差は国が負担することになり、一国の経済を麻痺させる負債になりかねません。

「国には一銭も負担のかからない経済的なエネルギー供給だ」と、先月の末に英国のキャメロン首相は原子力発電所の新たな設立を発表しました。福島原発事故以来、欧州では初めての原発設立となります。大勢のマスコミをダウニング街10番地に朝早く集め「今日は英国にとって重大な日だ」とニュー・ディールを告げました。建設資金は約190億ユーロで、その割合はフランスの企業EDFが40~50%、Arevaが10%、そして中国の国有企業である中国核工業集団公司が30~40%です。企業が得る電気料金は1kwh当たり10,6セント(約14円、ちなみに今の料金の約2倍)で、キャメロン内閣がこの料金を35年間保証する契約です。イギリスでは原発が供給している電力は全体の約25%で、多くの原発の運転期間が限界に来ていて、半数は2025年までに停止する必要があります。そこでエネルギー供給を確保するためにキャメロン首相は最もキケンな手段を取ったわけです。「これは助成金と同様。イギリスの納税者及び消費者がフランスと中国の企業に支払う金額は年間8億から10億ポンド(約1 570億円)になる。そして、これはまるまる両国の利益となる」とUCL(University  College London)のあるエネルギー専門家はBBCのインタビューに答えていました。

日本に初めて設立された商用原子力発電所はイギリス製で、1966年に運転が開始されました。その9年前、1957年にセラフィールドで起きた原子炉火災事故は英国史上最悪の事故とされています。その後イギリスで起きた原発事故のリストは長く、2005年には国際原子力事象評価尺度(INES)レベル3と評価された事故が再びセラフィールドで発生しました。この事故では硫酸、ウランそしてプルトニウムなどが含まれている83,000リットルの汚染水が気づかれずに、半年以上の間管から漏出していました。その当時、原子力発電会社が支払った損害賠償金はわずか50万ポンドで、2006年末に発電所は再稼働されました。

イギリスでは原発の安全性のためではなく、市民の安心感のために力を入れているようです。セラフィールドにある発電所敷地内にはゲストハウスが設けられ、来客、学校の遠足、青年グループなどを対象に、原発の必要性と無害性を宣伝しています。この“原子力ワンダーランド”では子供たちのためにパーティーなど気軽に催すことができます。輝くのは原子力の未来だけではなく、子供たちの笑顔も“輝く”ことがイギリス原子力村にとって大切なことのようです。

イギリスでは一般に原子力エネルギーに対して疑いを抱く人は少なく、“絶えず冷静な実用主義者”である彼らはドイツの脱原発決定をヒステリックな過剰反応だと冷笑しています。

原子力エネルギーに対して対立意見を持つ2人の環境保護主義者が8ヶ月に渡って原子力の可否について討論したそうです。この2人のメール交換は(南ドイツ新聞は「きわめて知的な論争」とコメントしていた)公開され、多くの読者を集めたようです。その一人である反原発運動家セオ・サイモン(Theo Simon)氏は同新聞に次のように述べていました。

知らぬ間に国民の間で、原子力が容認できるエネルギーとなっている事実を我々は軽く見ていた。しかし一般市民の意識以外に、何かが変化していると私は思う。多くの市民は、政府が決めた方針を黙認する消極的な消費者であることに対して愛想を尽かしている。イギリスには原発反対者がまったくいないとは思わないでほしい。実際に今ここに何が計画されているかを市民が理解したら、反原発運動は始まるのでは。あせらずに待ってみよう。

オフショア風力発電所

オフショア風力発電所

イギリス政府は世界最大となるオフショア風力発電所の稼動を、今年の夏に開始しました。汚染廃棄物の問題がない、再生可能なエネルギー供給ほど安上がりだということに気付き、国民が政府の原発設立計画に反対する日はそれほど遠くはないかもしれません。

写真参照
http://www.flickr.com/photos/mpascalj/

http://www.flickr.com/photos/iberdrola/

 

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