どうする?ドイツの原発の後始末

まる / 2014年5月25日
写真: Manfred U.

写真提供 Manfred U.

5月12日発売のシュピーゲル誌は、ドイツのエネルギー大手E.on, RWE, EnBWの3社が、2022年まで原発を運営し、その後の廃炉と核のゴミの処分を総合して行う公的基金創設を提案し、連邦政府と秘密裏に話し合っていると伝えました。それ以来、この話題がドイツのマスメディアをにぎわしています。

福島原発事故3ヶ月後に、2022年までの脱原発とエネルギー転換を決めたドイツ。それ以来、再生可能エネルギーによる発電量はどんどん伸び、E.on、 RWE、 EnBWといった大企業にとって、原発や火力といった発電方法は採算が合わなくなり、発電所を閉鎖するところも出てきています。RWEが戦後初めて赤字を出したとか、2016年までに6700人の人員を削減するとか、エネルギー会社は今、どこも生き残りをかけてもがいているところです。

今回シュピーゲル誌が伝えた基金創設計画も、その生き残り戦略の一つと言って良いでしょう。3社はこれまでに、廃炉と核のゴミ処理のための費用を合わせて約300億ユーロ積み立ててきたそうです。同誌によれば、公的基金を実際に創る場合、3社はこの300億ユーロ(約4.2兆円)を拠出し、また、これまでにエネルギー転換のために連邦政府を相手に起こした訴訟(請求額計は150億ユーロといわれる)を取り下げる用意があるそうです。メルケル政権は2010年秋に、既存の原発稼働期間を平均12年延長するのと引き換えに、電力会社から核燃料棒税を徴収することにしました。ところが、2011年6月に政府は脱原発を決めたにも関わらず、電力会社からこの税金の徴収をする方針を変えていません。そのため電力会社はこの訴訟を起こしました。

この公的基金創設に関するニュースに対する反応は、ほとんどが批判的です。バーバラ・ヘンドリックス連邦環境大臣(社会民主党)も「これらの企業に全責任がある。廃炉と最終処理の全ての費用を賄うのは彼ら」と基金の創設に否定的な見方を示しています。そして大抵のメディアも、「国の補助金を使って原発を作ってさんざん儲けてきたくせに、儲けが出なくなると責任を納税者に転嫁するとはとんでもない」という論調です。

例えば南ドイツ新聞は5月12日の解説欄で「そのような提案は、厚顔無恥なだけではない。ナイーブであるとも考えられる。社会民主党の入ったドイツ政府が、計算もできない費用をかかえて自ら進んで原発運営者になるわけがない」と書いています。

ベルリーナー・ツァイトゥングは「エネルギー供給大企業には一つのプランがある。原発と少しのお金を“公的基金”に贈与したいというのだ。それを貰うのは連邦、ということはドイツ。私たち皆だ。やった〜、国民財産だ!しかしそれには小さな条件がある。ドイツは核反応が残したすべてを除去しなければならない。どれだけの費用がかかるかに関係なく(中略)納税者は既に、原発建設と稼働のために巨額の補助金を出している。だから今度はその後始末の助けもしろというのだ。そして銀行が経営リスクを一般市民に押し付けることができるのなら、原発経営者もそれをやっていいのだ。それに、ブリュッセル(欧州委員会)でさえも役に立たなくなった燃え尽きて輝きを失った政治家たちも、基金で“処理“されるのだから。」と面白おかしくコメントしています。

そんな中、アンゲラ・メルケル首相もフランクフルター・アルゲマイネ新聞のインタビューで、一見この基金創設に否定的と見られる発言をしたため、多くのメディアが「メルケル首相、原発基金創設を拒否」という見出しを付けました。

メルケルの発言は次の通りです。

「原発とその遺産というテーマについては、まだ沢山の話をしていきます。原則的には、核のゴミ処理の責任は、引き続き企業になくてはなりません。そのために引当金を積み立てているわけですから。リスクを国と納税者に転嫁することはお断りします」

しかしこれに対しては、反原発市民団体である.ausgestrahltがすぐに声明を出しました。「私たちは首相の言葉を、原発経営者の計画を拒否するものだとは理解していない。メルケルが『“原則的には”企業が核のゴミの処理に対する責任を担う』と言うとき、電力会社だけに責任を負わせるという意味にはならない。政治家の常套句である“原則的には”は、日常語とは反対のことを意味する。つまり、例外はあり得るということ、そしてそれは、何かが完全に除外されるという意味ではない」と言うのです。

そして、「『原発とその遺産というテーマについては、これからまだ沢山の話をしていく』、と言うのは、原発経営者とその提案について交渉するという予告である」、「『一方的にリスクを(国に)転嫁することはしない』というのも政治的な言い方である。というのは、国がすべての経済的リスクを負うとは誰も提案していないからである。これまでに廃炉のために積み立ててきた金をこの“バッドバンク”につぎ込むと、原発会社は言っているのである」。

連邦議会の環境委員会委員長でみどりの党のベアベル・ヘーン氏は、ドルトムントの地元紙ルールナハリヒテンで、その提案について交渉する用意があることを示しています。「大きなエネルギー供給会社が遅かれ早かれ倒産し、廃炉のための積立金が一緒に消えてしまうのを畏れている」ためです。

環境保護団体グリーンピースが推定するところによると、ドイツの全原発を廃炉にして核のゴミを処理するためには、440億ユーロがかかるそうです。ということは、エネルギー大手3社が言う300億ユーロ(外国資本であるVattenfallの分を入れると360億ユーロ)では足りないわけで、その不足分は税金、つまり市民が負担することになってしまいます。グリーンピースも、早期にこの積み立て金を国の基金に移すよう提案しています。

さて、5月22日になって、実はドイツ政府は今年の2月には電力大手の基金創設案について知らされていたということが分かりました……

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