核戦争防止国際医師会議 - 日本とドイツの違い?

あきこ / 2012年1月22日

1985年にノーベル平和賞を受賞した「核戦争防止国際医師会議(IPPNW, International Physicians for the Prevention of Nuclear War)」という世界的な組織がある。世界60ケ国以上の国にこの組織の支部がある。ドイツにも日本にも支部があるので、両国の医師会議のホームページを比べてみた。読者の皆さまにも実際にご覧になっていただきたいので、以下にそれぞれのサイトのアドレスを記しておく。
ドイツ:  http://www.ippnw.de/startseite.html
日本: http://www.hiroshima.med.or.jp/ippnw/

さて、ホームページを比べてみよう。ドイツ支部では、「トップページ」、「核兵器」、「核エネルギー」、「平和」、「社会的責任」、「世界のIPPNW」、「広報」、「会員になる」、「医師会議について」という項目が並んでおり、それぞれの項目をクリックするとさらに詳しい情報が記載されている。たとえば、「核エネルギー」の項目には、「原子力政策」、「原子力企業」、「核と健康」、「核エネルギーと安全」、「核の法律」、「核廃棄物」、「エネルギー政策の転換」、「リンク集」といった項目が並んでいる。

日本支部はどうだろうか。トップページには「ノーベル平和賞受賞 IPPNW 核戦争防止国際医師会議」という文字が大きく書かれている。その下に、「IPPNW世界大会」、「IPPNWについて」、「IPPNW日本支部について」、「IPPNW速報」、「日本支部のその他の活動」という項目が挙げられている。日本のサイトについては、それぞれ読んでいただくことにして、ここでは触れない。

ドイツ支部のサイトには、上記の項目以外に「日本における原発事故関連情報」と題したいわば臨時の項目があり、この項目をクリックすると放射能と放射線防護に関する情報、放射能測定(文部科学省、市民放射能測定所など多様な組織の測定を提示)、医師会議によるプレスリリースおよびニュースレターが読めるようになっている。例えば食品放射能汚染に関する情報もこのサイトから読めるようになっている。ところが、日本の核戦争防止国際医師会議のホームページには、福島の原発事故に関する情報は一切記載されていない。

これはあくまでホームページを比較しただけで、日本支部の実際の活動については確認していない。しかし少なくともホームページ上から見えてくる福島の原発事故に対する日本とドイツの対応の違いは注目に値する。

核戦争防止国際医師会議ドイツ支部では、医師の「社会的責任」を見すえている。また「核」については、「戦争に用いられる兵器」としてだけではなく、抑止力としての核の脅威にも踏み込んでいる。これは、核戦争防止国際医師会議ドイツ支部の成立よりも前に、当時のソ連とアメリカの軍拡競争に反対を表明する医師たちが、核エネルギーと核の脅威に反対する大会を1981年9月20日・21日にハンブルグで開いたという経緯が示している。

ドイツの核戦争防止国際医師会議の歴史をさらに見てみよう。この医師会議は「原子力エネルギーの平和利用」に疑問を投げかけてきたが、1986年のチェルノブイリ原発事故以後、核エネルギーへの批判を一層強めるようになった。また、同医師会議が1990年に出したキール宣言で、ウランの採掘から核廃棄物に至るまで原子力エネルギーが人間の健康と命を脅かすものであるとして、即脱原発を要求している。ドイツとスイスの核戦争防止国際医師会議の要請を受け、1998年のメルボルンで開かれた世界全体の核戦争防止国際医師会議の大会においてようやく核兵器と原子力エネルギーの関連を認める決議がなされた。また1994年には、シーメンス社が原子力事業から手を引くまで、同社の医療器具をボイコットするという不買活動も開始している。

このように、核戦争防止国際医師会議ドイツ支部のホームページから同支部の歴史を読み進めると、日本支部との違いの由来が明らかになってくる。核戦争防止というときの「核」をどのようにとらえるかの違いである。

ドイツの原発立地地域における小児がんや白血病の発症に関する調査、チェルノブイリ原発事故20年後、25年後の影響に関する調査など、戦争に用いられる核兵器だけではなく、「平和利用」という名目で用いられる原子力エネルギーに対するドイツ支部の取組みを見れば、福島が決して遠い国の出来事ではなく、医師の社会的責任に関わる自分たちの問題であるという認識が見えてくる。

因みに、世界各国の核戦争防止国際医師会議をリストアップしたページがあるので、興味のある方は見ていただきたい。

 

3 Responses to 核戦争防止国際医師会議 - 日本とドイツの違い?

  1. みづき says:

    あまりの違いにびっくりし、日本の状況にとても失望しました。
    この会議に参加している日本のお医者さんたち…たぶん参加してない人に
    比べれば、ずっと意識が高い人達なんでしょうが、それにしても…。

    事故が起こったのは日本なのに、ドイツのほうがきちんと
    対応しているということに、改めて驚き失望させられます。

  2. marian says:

    ブログ主様
    IPPNWというのは、核実験による放射性物質の影響を問題にして成立した団体です。ノーベル平和賞の受賞理由も核兵器による健康影響の科学的な知識を広め、核兵器根絶の運動を進めた事等に対してです。

    ブログ主さんが問題にしている「原発」に関してですが、原発は、各国のエネルギー問題であり、原発から供給された電力は、家庭に光や暖を与え、産業の生産に寄するものであります。核兵器と異なり、即人々の健康を害するものではなく、福祉厚生の向上に役立つ場面もあります。ドイツでは、原発事故の放射能漏れを隠した過去もあり、反原発団体の緑の党の躍進し、反原発運動が盛んです。しかし、隣国のフランス、英国をはじめ、欧州には原発を推進している国家もあり、そのような国家では、「反原発=反政府運動」となってしまいます。それは、科学や医学の活動ではなく、イデオロギーの闘いになってしまう可能性が高いです。すなわち政治活動化するわけです。実際にIPPNWドイツ支部の反原発運動は、政治的な活動になっております。これに、核兵器の科学と医学的な知見を広め、核戦争を防止することを主目的とする他国のIPPNWが組するのは、大変難しいです。

    ブログ主さんの御指摘の通り、IPPNWで反原発に熱心なのは、ドイツとスイス支部くらいだと思います。

  3. marian says:

    日本支部のニュースレターです。他にもHPから見れますので、ご覧下さい。
    http://www.hiroshima.med.or.jp/ippnw/sokuho/docs/2141_029.pdf