収穫できる都市ベルリン

やま / 2016年1月24日
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もみの木が好きなのは象だけではない

ドイツではクリスマスツリーとして数千万本のもみの木が毎年売られます。売れ残ったもみの木を食べるのは動物園の象。「この葉っておいしいんです」と、ベルリン市内で育つ、もみの木を収穫する女性がいます。ベルリンこそ「食べられる町」。4年ほど前までは、それに気が付かなかったと話すのは、5才の女の子のお母さん、アニヤ・フィードラーさん、42才です。ベルリンでも問題となっている「食品ロス」が気になり、それがキャンペーン「町は腹を満たす(Stadt macht satt)」を始めるきっかけとなったそうです。

フィードラーさんは1997年からフリーランスでコンセプトアート及びカルチャーマネジメントの仕事をしています。ここ数年前から特に持続可能なアートや文化教育に携わってきました。2012年と2013年に「町は腹を満たす」は持続可能な考えと行動を社会に伝えるプロジェクトとしてユネスコの評価を受けました。そして2014年には、ドイツの週刊全国新聞「ディ・ツァイト」の財団が募集するコンペ「世界を改善する人」に彼女が選ばれました。

彼女の企画した「収穫ツアー」に参加した、あるジャーナリストが体験記をサイトに掲載しました。(以下抜粋)

町を摘み取れ!
ベルリン市内のどこで美味しいものが収穫できるか、または栽培できるか。アニヤ・フィードラーさんのプロジェクトはこれらの問いに対してたくさんのアイデアと具体例を提供している。

よりによって、アニヤ・フィードラーさんは殺風景なベルリン北駅の裏にある空き地を「収穫ツアー」のスタートとして選んだ。いったい、どこに食べられるものがあるのだろうかと疑っていると、彼女は数本の白樺を指差した。「春にここで樹液を取りました。一本につき一日に1~2リットルの樹液を搾り取ることができます。この樹液で美味しいシロップが作れます」と彼女は言う。続いてブラックベリーの藪の前に立った。「まだ熟していないわ」と言いながらルスティフィナ(ちなみにドイツでは “お酢の木”と呼ばれている)の方へ移る。この赤い果実で彼女はレモネードを作るそう。野性のばらが咲いている。是非、バラの匂いを嗅いでほしいと彼女は参加者にすすめる。とても良い香りだ。見事に育った灌木がある。ホルンダーと呼ばれるニワトコ属の灌木だ。「花はピクルスにしたり、フライにしたりします。でも我が家の自慢はシロップです」。自慢のシロップを作るために花を3日間水につけておく。この時は彼女のバスタブは80リットルのシロップを作る容器となる。

果物、木の実、花、ナッツ、ハーブに茸など、予想以上に町には食べられるものが育っている。特に個人の庭に植わっているものでなければ、植物の収穫には問題はない。「交通量の激しい道端とか、汚い場所に生えているものは摘み取りません。町中の墓地は特に理想的です。ここにはよく、古い、たくさんの実がなる木が生えています。犬は入れないし、石塀が町のほこりを締め出してくれます」とフィードラーさんは話す。

一行は劇作家ブレヒトをはじめ著名なベルリン市民が葬られているドロテーン市営墓地に着く。彼女の目的は有名人の墓ではなく、モミの木だ。針状の葉を摘み取りたいそうだ。何本かのモミの木の前に立ち止まっては若い芽を食べてみる。「熟れすぎている。苦味がある。堅い」などとコメントが絶えない。枝が地面にまで覆う、りっぱなモミの木を見つけて、やっと彼女は満足したようだ。グルメ食品を試すように、枝の先を噛みながら「パーフェクト!」と彼女は叫んだ。

「葉だけ、500グラムは必要です」と言われて、収穫ツアーの参加者は熱心に摘み取る。持っていた籠や袋が意外に短時間でいっぱいになる。「墓地や公園で収穫していて、怪しいものと思われたことはないか」と聞くと「不思議なことに、ありません」と彼女は答える。時々、好奇心をそそられた市民に問いかけられることがある。その時は「マスタード、ピックルス、シロップ、お茶、咳止めジュース、ペースト、お菓子、そしてたまにはお酒も作ります」と答えるそうだ。彼女の家に戻り、モミの木の葉を自然酢、ライ麦粉、海塩と混ぜ、ピュレーにしてガラスのビンに入れる。このまま2~3週間は置いておくそうだ。参加者はそれまで待たなくても良い。前もって作ってあった「モミの木マスタード」を焼きたてのパンにぬって試食した。すばらしい味だ。今ではグルメレストランを経営するコックから注文を受けるそうだ。

フィードラーさんはウェブサイトを利用して、食べ物を無料で“収穫”出来る場所を市民に伝えています。中には売れ残りを提供するスーパーやパン屋などがあります。市内にある公園や、ベルリン市を囲む森でも食べ物を無料で収穫できます。しかし、個人の持つ庭はどうでしょうか。仕事で時間がないとか、一人暮らしで食べきれないとかの理由で、庭のりんごを収穫せず腐らしてしまうことがあります。そこで生まれたのは「りんごは宝物」というプロジェクトです。フィードラーさんはりんごの収穫だけではなく、手入れを受け持つ人も探してくれます。りんごはドイツ人の生活に密着しています。戦前ドイツでは、りんごは全て国内産で賄われていました。今では消費量の半分以上が輸入されています。「貯蔵にコストが一番かかります。ですから昔あった冬りんごは普通の店では見かけません。この種のりんごは少なくとも2ヶ月間置いておかなければ食べられないからです」。今売られている安いりんごの大半は大量生産されたもので、品種も6~7種類に減ってしまったそうです。「私たちはエネルギーと資源を大量に使ってりんごを日持ちさせています」とフィードラーさんは説明します。しかし、このシステムに不満を持つ人のために「りんごは宝物」は様々な工夫を紹介しています。

ウェブサイト「町は腹を満たす」には、バルコニーや窓ぎわなどの小さな空間を使って、自分で簡単にハーブや野菜を栽培する方法が載っています。フィードラーさんは学校や市民グループのために栽培や料理教室も開いています。「もちろん都市に住む私たちは、100パーセント自給自足の生活を送ることは出来ません。しかし、自分で栽培し、収穫して料理することにより、食べ物のありがたさ、自然のありがたさを改めて知ることが出来ます」。

「町で土いじりをしていると、すぐにコミュニケーションが生まれる」と彼女は語ります。野菜が育つと共に、社会的意識の高い、エコでエコノミックな都市生活が生まれくると彼女は信じています。エコノミックとは? フィードラーさんは収穫した野菜などの食べ物を通貨として使っているそうです。「このごろよく食べ物で払うことがあります。例えば私のサイトに載っている動画の謝礼を食品で払いました。このようして、このごろ安売りされすぎている食品に、本当の価値を見出しているのです」。

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写真参照:
「おいしい!」クリスマスツリーを食べる象

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