ドイツ、2022年の二酸化炭素排出削減目標、達成できず

池永 記代美 / 2023年1月25日

世界中で起きている異常気象や自然災害の原因となっている気候変動を抑えるために、二酸化炭素の排出量を減らすことが、世界中で急務となっている。しかし、2021年に続いて昨年2022年も、ドイツはその排出削減目標を達成することができなかったとする報告書が発表された。

新年早々の1月4日、この報告書を発表したのはエネルギー転換に関するシンクタンク「アゴラ・エネルギーヴェンデ」だ。昨年は、ロシアのウクライナ侵攻が招いたエネルギー危機のせいで原油や天然ガスの価格が上がり、人々は省エネを心がけた。それに加えて、昨年も 暖冬で暖房をする必要があまりなかったため、エネルギーの消費量は2021年に比べて4.7%、162テラワット時 (TWh)も減ったという。これは新型コロナウイルスの大流行で、経済活動や人の移動が大幅に抑制された2020年より少ないだけでなく、1990年に東西ドイツが統一して以来、最低の消費量だそうだ。

このように、二酸化炭素(CO2)を排出するエネルギーの消費量はかなり減少したにもかかわらず、ドイツの2022年のCO2排出量は2021年の排出量7億6200万トンと比べて100万トンしか減らず7億6100万トンで、2022年のCO2排出目標7億5600万トンを500万トン上回ってしまった。ところで、ここで二酸化炭素、もしくはCO2と記す場合、メタンやフロンガスなどもその温暖化能力を二酸化炭素に換算して含められていることを断っておく。

毎年のCO2排出量の目標は発電、交通、産業、農業などの分野別に決まっている。最も排出量の多い発電部門は、一昨年より800万トン排出量が多い2億5500万トン(一昨年比プラス2.9%)だったが、ぎりぎり目標内の量に抑えることができた。昨年CO2の排出量が増えたのは、ロシアからの輸入量が大幅に減り不足が心配された天然ガスの代わりに、よりCO2排出量の多い石炭や褐炭を発電に使わなければならなかったからだ。発電分野と同様、削減目標を達成したのは、産業分野だ。省エネや生産性上昇に努めたのと同時に、生産量の減少で、CO2の排出量は昨年より800万トン少ない1億7300万トン(昨年比マイナス4.4%) となった。

ドイツ東部にあるイェンシェヴァルデ褐炭火力発電所。電力不足の時に稼働する予備発電所だったが、天然ガスを節約するために昨年10月から再び稼働を始めた©️LEAG/Uwe Dobrig

 

一方、削減目標を達成できなかったのは、建物と交通の分野だ。建物の分野では暖房に使うガスが16%も節約され、2021年よりCO2の排出量は700万トン減り、1億1300万トンになったが、2022年の目標量を500万トン超えた。古い建物の多いドイツでは、今後、暖房効率をさらによくするための対策だけでなく、CO2を排出しない暖房方法への転換も必要になる。交通分野は、コロナ禍で減っていた交通量が回復したことなどもあり、CO2の排出量は目標より1100万トン多い1億5000万トンだった。削減目標を達成できなかった分野は、新たにどんな対策をとるか具体的な方策を発表することになっているが、交通分野を管轄する連邦運輸•デジタル省からは、効果的な対策がなかなか聞こえてこない。例えば電気自動車を増やすために不可欠な充電ステーションの拡充も、遅々として進んでいないのが現状だ。

ドイツは長い間、2020年までにCO2の排出量を1990年より40%減らすことを目標にしてきた。2020年にこの目標を達成したが、それはコロナ禍による経済活動の低下によるものだった。現在の省エネ傾向も、ロシアの起こした戦争によるエネルギー価格高騰が動機になっているだけで、そこに構造的な変化は認められない。こうした現状を受けて、アゴラ•エネルギーヴェンデのドイツ責任者ジモン•ミュラーさんは、「CO2の排出量は高止まりしている。ドイツは今年こそ、化石燃料から再生可能エネルギーに大きく流れを変えなければならない。それは気候保護につながるだけでなく、エネルギーの価格も抑え、化石燃料への依存から脱却することにもなる」と、警告している。

現在ドイツ政府は、2030年までにCO2排出量を1990年と比較して65%減らすことを目標としている。しかし、いまの削減のペースでは、この目標を達成することが不可能なのは誰の目にも明らかだ。気候保護は喫緊の課題なのに、昨年2月下旬、ウクライナでの戦争が始まってから、人々の関心は戦争やエネルギー危機、物価上昇などに向けられるようになった。そこで、このままでは気候変動が進み、地球にとっても人類にとっても手遅れになるという危機感を持った人たちが、過激な行動に出るようになっている。例えば「最終世代 (Letzte Generation)」という団体は、ベルリン を始めドイツ各地で、高速道路や飛行場の滑走路に体を貼り付けて交通の妨害をしたり、美術館の絵画にトマトソースやスープをかけるなどの派手な行動によって、気候危機がすでに訪れていることを訴えている。ベルリンでは、ある交通事故で死者が出たのは、彼らが高速道路の一部を封鎖したために救急車の出動が遅れたからだと主張する人もいて、彼らの抗議行動に厳しい非難が寄せられた。その結果、“気候テロリスト”という言葉が流行ったほどだ。

「最終世代」は、道路封鎖などの抗議活動を始める前に警察に通知するそうだが、渋滞を招くなど市民生活へのマイナスの影響もあり、その抗議方法については賛否両論がある。しかし気候危機が切羽詰まった問題であることは確かだ。©️Letzte Generation

 

ただしこの言葉は「気候保護を訴える人たちを十把一絡げにテロリスト扱いし、平和な抗議活動や民主的抵抗を、反国家活動や暴力行為と結びつける誤ったイメージを広める」と、2022年の「最悪の流行語」に選ばれたことが1月10日に発表された。「最悪の流行語」は、1991年から言語学者たちが構成する委員会が、一般市民から提案された言葉の中から選ぶことになっていて、毎年年末にドイツ語協会が選ぶ「今年の言葉」とともに、ドイツの政治や社会の空気を知るために役立つ言葉だ。

このままでは手遅れになると考えるのは、気候保護活動家だけではない。その一人が、気候保護に関してドイツで最も著名な専門家であるポツダム気候影響研究所の前所長ハンス・ヨアヒム・シェルンフーバー氏だ。氏はドイツ公共第一テレビ (ARD) で 1月12日に放送された報道番組「パノラマ」の中で、気候保護に人々は等しく貢献すべきで、一人の年間CO2排出量を制限し、それ以上排出する人は、排出権を購入するというラジカルなシステムを提案した。というのも、平均的ドイツ人の1年あたりのCO2の排出量は11トンであるのに対して、富裕層は100トン以上、年収2千万ユーロ (約28億3000万円) 以上の超富裕層 は年に2300トンもあるからだ。番組の中では、出張のために1時間小型ジェット機で移動した男性が、一回の飛行だけで3トンのCO2を排出したことが伝えられた。シェルンフーバー氏によると、まさにその3トンが、世界中の人が公平になるよう計算した場合、一人の人間が1年間に排出して構わないCO2の量だという。同番組内でドイツ連邦経済•気候保護相ローベルト•ハーベック氏は、個々人のCO2排出量を制限するのではなく、適切な対策でCO2を減らしていきたいと述べていたが、専門家の中でも、今までの対策では、2030年までにCO2排出量を1990年に比べて65%減らすというドイツ政府の目標を達成することは不可能だとみている人が多い。ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギーの安定供給を確保しながら、CO2を削減していくのは今までよりさらに困難になった。2023年は、気候保護という側面で、ドイツにとって試練の年になるのは確実だろう。

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