ドイツ人の大多数は、SPDの新しい共同党首に懐疑的

永井 潤子 / 2019年12月8日

12月6日、ベルリンで行われた定例党大会で、新しい党首が正式に選出された。

11月30日、土曜日の夕方、ドイツ社会民主党(SPD)の党員投票の結果が発表されると、ドイツ全国に衝撃が走った。この日行われた決選投票で新しいSPDの共同党首に選ばれたのは、当選確実とみなされていたオーラフ・ショルツ連邦財務相(連邦副首相)とクララ・ガイヴィッツ氏(ブランデンブルク州議会議員)のペアではなく、大連立に批判的なノーベルト・ワルター=ボーヤンス氏(元ノルトライン=ヴェストファーレン州財務相、67歳)とザスキア・エスケン氏(連邦議会議員、58歳)のペアだったからだ。ショルツ組の支持率は45.3%に過ぎなかったのに対し、ワルター=ボーヤンス組の支持率は53.1%で、勝利した。この結果キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)とSPDの大連立政権であるメルケル政権の行方に急遽暗雲が垂れ込めたと受け取られたのだった。

SPDでは、今年5月に行われたヨーロッパ議会選挙で大敗を喫した責任を取って、アンドレア・ナーレス氏(初の女性党首)が辞任して以来、党首が不在、ラインラント=プファルツ州のマルー・ドライヤー首相らが党首代行を務めてきた。新しい党首は緑の党のように男女二人のペアにすることになった。10月の第1回代議員の投票で上位2位に選ばれたショルツ組とワルター=ボーヤンス組の二組の間で、11月30日決選投票が行われたのだった。一般党員の中にはケヴィン・キューネルト氏(党青年部長、30歳)を中心に、党の根本的な改革のため、大連立政権からの早期脱退を求める左派勢力の力が強くなっており、新党首に立候補したペアのうち大連立に賛成の組はショルツ・ガイヴィッツ組しかなかった。

連邦財務相の政策を批判するワルター=ボーヤンス新共同党首©️Phototek

 

第4次メルケル政権で副首相をつとめ、ごく最近も借入金ゼロの2020年の国家予算を成立させた実務派のショルツ連邦財務相にとっては、党員投票での敗北は予想外の大打撃となった。国政段階で経験の深い連邦財務相に対し、全国的にはほとんど無名で、1州の財務相に過ぎなかった政治家が、勝利したというのも皮肉なことだった。決選投票に党員の約半数しか参加しなかったことで、この決定に疑問を呈する人も多く、大連立政権を2021年の任期満了まで継続することを望むSPDの幹部党員、連邦議会議員の間の衝撃は大きかった。

新共同党首に選ばれたワルター=ボーヤンス氏とエスケン氏は、公共投資を増大させること、気候変動対策に力を入れること、最低賃金を12ユーロに引き上げることなどを求めて、去年CDU・CSUとの間に結ばれた連立協定の見直しを要求していたが、CDUのアネグレート・クランプ=カレンバウアー党首は、早速「連立協定の見直しはない」と、その提案を拒否した。ただし、ワルター=ボーヤンス、エスケン両氏の方も、党内有力者の批判に応えて、「直ちに大連立政権からの脱退を考えているわけではない」と急に方向転換し、妥協の姿勢を示して12月6日から8日までの定例党大会に臨んだ。

連邦議会デジタル委員会に属すエスケン新共同党首©️ Phototek

定例党大会は、「新しい時代を目指して」というモットーのもと、ベルリンの見本市会場で開かれた。党員投票で勝利した両氏はこの党大会の初日、改めて投票にかけられたが、この日の演説が大会出席者の好感を得たのか、ワルター=ボーヤンス氏は89.2%の多数で、エスケン氏は、75.9%で、正式に新共同党首に選出された。ドイツで最も古い歴史を持つ政党、SPDの156年の歴史で初めて男女二人の共同党首が実現したのだ。今回のSPD党大会は、選挙のたびに支持率を落とし、岐路に立つ同党が新共同党首のもとで今後どういう路線を目指すのか、それによって大連立政権崩壊という事態になるのかどうかという点で、大きな注目を集めた。しかし、党大会では党内の対立が避けられ、当面は大連立から脱退しないことが決定されたが、新共同党首はヴィリー・ブラント元首相の理念に立ち返り、社会正義の実現を目指していくなどと強調した。この党大会では当初、大連立政権継続に賛成するフーベルトゥス・ハイル労働相と大連立からの早期脱退を要求するキューネルト青年部長の間で副党首の地位が争われることになっていたが、対立を避けるための措置が講じられた。もともとは、これまで6人だった副党首の数を3人に減らすことが計画されていたが、急遽その数を5人に増やしたため、二人とも支持率は70 %代と低かったが当選した。新しい副党首5人のうち3人が女性だ。

ところで、ドイツ公共第一テレビ(ARD)は、SPDの党員投票直後の12月2日から4日まで急遽電話によるアンケート調査「ドイチュラント・トレンド」を実施し、その結果を12月5日に発表した。それによると、「このペアのもとでSPDが国民の信頼を勝ち取る政党になることができる」と答えた人は22%に過ぎず、70%は「そうは思わない」と答えて、新共同党首に懐疑的なことがわかった。これに反してSPD支持者の間では、新共同党首を歓迎する人は51%に達し、懐疑的な人は46%と好意的に受け止めた人の方が多かった。

党員投票では敗北したが、人気の高まったショルツ連邦財務相©️Phototek/Thomas Imo

このアンケート調査では、SPDの党員投票で敗北したショルツ財務相の支持率が一気に高まるという面白い現象が見られた。人気政治家12人のリストの中でショルツ財務相の支持率は先月より7ポイントも上がって47%となり、同じく47%のメルケル首相と並んでトップになった。連立のパートナー、CDU・CSU支持者の間ではショルツ財務相の仕事ぶりに満足だと答えた人は68%にのぼり、SPD以外の政党の支持者の間で、人気が高まったという結果になった。

アンケートの回答者は連邦政府の個々の政策、例えば地球温暖化政策や住宅政策が不十分だとか難民政策に反対だとか、現在のメルケル政権の仕事ぶりにさまざまな不満や批判はあるものの(77%は不満)、全体としてはメルケル政権が正規の任期終了の2021年まで続くことを願っている人が多いことも分かった。現在の大連立政権が2021年まで続くことを良いと見る人は64%で、良くないと答えた人は32%だった。その理由としては、任期途中で政権が崩壊すると、ドイツの政情が不安定になることを恐れるというものが多かった。

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