「ポスターで社会が変わると思っているんですか?」

みーこ / 2014年5月4日
ベルリンで行われたマコさんの講演会の様子。相方のケンさんを原子炉に見立てて説明をしている。

ベルリンで行われたマコさんの講演会の様子。相方のケンさんを原子炉に見立てて説明をしている。

今年2〜3月に、福島原発事故について取材を続けるジャーナリストのおしどりマコさんが、ドイツ、ベラルーシを訪れ、取材や講演会を行った。私はベルリンで講演会に参加し、マコさんの明快な話しぶりや熱心な取材姿勢に感銘を受けた。そのドイツ・ベラルーシ旅行の報告をする講演会が日本で行われ、講演の書き起こしがインターネット上にアップされている。ドイツの学校での講演会で、若者たちから率直にぶつけられた質問や不信感、それについてマコさんが考えたことが書かれていて、私にはとても興味深いものだった。

この講演の書き起こしは、次の通りだ。
<ドイツ・ベラルーシ報告 その1> 核戦争防止国際医師会議「新生児の死亡率について誰か論文を書いたか? なぜ日本人は調査しない?」
<ドイツ・ベラルーシ報告 その2> ドイツと日本の市民の違い「知りたがりの怒りんぼうにならなくちゃ」

このうち「その2」には、主にドイツの高校や職業訓練校で、ドイツ人の若者にぶつけられた質問や不信感のことが書かれていて、原発問題に関するドイツと日本の温度差を日々感じている私にとっては、とくに興味深く思えた。例えば、ある職業訓練校で若者から受けた質問について、マコさんは次のように語る。

「日本人は何で暴力に訴えないんですか?」と言われたんですよ。「あれ」と思って、すごく穏やかに質問がきたんですけど、「ポスターで社会は変わると思うんですか?」と言われて、すごいなんか、「わー痛いところ突かれたな」と思って、それでも暴力で変わるとも思いませんけれど、暴力で変えるのが正しいとは思わないんですけど、私が今回ドイツへいろいろ取材や司会をしたり、発表をしたり、いろいろベラルーシで取材をしたり、その時によく日本の方々が、「日本の現状をドイツで話して外圧をかけるように訴えて下さい」みたいな事をよく言われたりとかしたんですけど。

なんか、その気持ちもすごく分かるし、もう、福島の友人からはいろんなところに直訴したりとか、すごくそれも分かるんですけど、でも彼に「ポスターで社会が変わると思っているんですか?」と言われた時に「そりゃそうだ」と思って、「外圧で訴える」という前に、私たち自身がね、死に物狂いになったかな?というのがすごく思ったんですね。

それは暴力に訴えるという事じゃなくて、なんかその、そんなに死に物狂いにならないうちに海外の外圧でよろしくみたいなのは、それは私はなんか、うん、なんか違和感があるんですよね、なんかそう思いました。だから私もうちょっと頑張ろうと思ったんですけど。

「ポスターで社会は変わると思っているんですか?」と問われて「痛いところを突かれたな」と思ったというマコさんの気持ち、あるいは「死に物狂いにならないうちに、海外の外圧でよろしく、みたいなのは、違和感がある」というマコさんの発言に私は共感した。

日本は、男女共に参政権があり、選挙で自国の政策やリーダーを選べる国だ。少なくとも制度上は民主主義の形は整っている。日本国民が自分たちの手で原発推進の安倍政権を選んだという事実は大きい。日本が安倍政権と共に、世界から孤立する道を歩んでいったとしても、国際社会では誰も同情しないだろう。世界には、自分たちでリーダーを選べないため人権が無視されている国がたくさんある。国際社会からの救いの手や外圧による改善を必要としている国は、ほかにいくらでもあるのだ。日本のことなどに構っている余裕はない。(ただし、放射能汚染水が海に垂れ流されていることに恐怖と怒りを感じ、被害が自分のところに及ばないうちに何とかしなければと思っている海外の人は多いだろう。)

このウェブサイトを読んでくれている日本人は、日本政府の原発推進姿勢に反対している人が多いと思う。デモに行ったり署名をしたり、何らかの活動をすでに始めている人もいるだろう。だからこそ、私のこの文章を読んで反発を覚える人もいると思う。「統計上は、本当は原発反対の国民のほうが多いし、日本人だって頑張って反対運動をしている」「選挙前は、自民党も原発を減らす方針を発表していたのだし、国民はだまされた」「民意が正確に反映されない選挙制度が悪い」「自民党に投票した人は、経済復興政策に期待しただけ。原発とは関係ない」など、反論はいろいろあるだろう。

それでも、と私は思う。やはり、日本人が自分たちの手でこの政権を選んだという事実は変わらない。政治家にだまされたのであればだまされるほうが愚かなのだし、選挙制度が悪いのであれば自分たちでそれを民主的に改善できないことに問題があるのだ。海外から日本を俯瞰すれば、そのように見えるのは仕方がないことだ。

「じゃあ、一体どうすればいいのだ?」という問いの答えは、まずは選挙に行くことだと思う。脱原発が大きな争点だったと言われる今年2月の東京都知事選の投票率は、46.14パーセントだった。半分以上の人が棄権したということだ。休日の30分ほどをさいて近所の投票所に足を運ぶこともしない日本人が半数以上いることを考えれば、外圧を求める前に日本人がやれることはまだまだあるだろう。

マコさんがドイツの学生に言われてはっとしたという言葉「ポスターで社会が変わると思っているんですか?」、あるいはドイツの高校生が発した素朴な疑問「日本は広島と長崎に原爆を落とされて、福島でレベル7の事故を起こして、それでも原発を推進し、海外にまで原発を売り歩くのはなぜなのか?」は、簡潔で率直だ。それゆえに本質をついていると思う。日本人は、世界からどう見られているのか客観視しながら、政治を良くする努力をしていくべきだろう。

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