世界の化石燃料需要、2030年がピーク

池永 記代美 / 2023年11月2日

ウクライナ危機がきっかけで、ロシアからの天然ガスに頼れなくなったドイツでは、期間限定とはいえ、発電のために褐炭や石炭を利用する割合が高くなった。このように、化石燃料の復活を思わせる事象が一時的に起きていても、緑のエネルギーへの転換は、世界中で確実に進んでいくという予測が発表された。

エネルギー分野が転換期を迎えたことを伝えた今年の『世界エネルギー展望』

この予測を行ったのは、パリに本部がある国際エネルギー機関(IEA)で、10月24日に発表した2023年版『世界エネルギー展望』の中で、それを明らかにした。『世界エネルギー展望』は、世界のエネルギー供給に関する中・長期的な予測を提供することを目的に、IEAが1998年以降毎年発行している報告書で、エネルギー分野において世界で最も権威ある分析資料とみなされている。ちなみにこの予測は、IEAが用いるSTEPS(Stated Policies Scenario) というシナリオに基づいて立てられたもので、そのシナリオは、現在行われている政策や公表された計画中の政策がすべて実施されると仮定して、作成されることになっている。

同報告書によると今年のシナリオでは、石炭、石油、天然ガス、つまり化石燃料の需要予測が、昨年の報告書のシナリオより低くなったという。それは多数の国が経済見通しを下方修正したことや、ロシアのウクライナ侵攻が招いたエネルギー危機が影響したためと見られる。しかし今回の報告書でIEAは、この需要の減少は一時的な傾向ではなく、エネルギー需要における転換点であると指摘し、化石燃料の需要は遅くとも2030年を頂点に、徐々に減っていくと予測した。報告書によると、再生可能エネルギーの利用が増えるにつれ、化石燃料を使用する発電施設や工場の建設が減っているという。その結果、この数十年来、80%前後を推移してきた世界のエネルギー供給に占める化石燃料の割合は、2030年には73%に下がる見込みだという。このようなエネルギー分野の構造変化で、例えば2030年までに、電力の場合再生可能エネルギーが新規容量の80%を、そして太陽光発電だけでその半分以上を占めると報告書は予測している。

化石燃料離れの現象は、米国や欧州の多くの国で家庭用ガスボイラーの販売台数が減る傾向にあり、それに代わってヒートポンプの販売台数が伸びていることや、自動車販売台数に占める電気自動車の割合が、2020年は25台に1台だったが、2023年には5台に1台になっていることなどに表れている。また、2023年には世界規模で年間500ギガワッット以上の再生エネルギー発電容量が追加される予定で、これは過去最大の容量だ。

IEAのファティ・ビロル事務局長は今回の報告書を受けて、「再生可能エネルギーへの移行は世界中で起きており、それを止めることはできない。もはや、移行が起きるかどうかが疑問なのではなく、どれくらいのスピードでそれが起きるかが問われているのだ」と語った。かつて再生可能エネルギーに懐疑的な態度を取っていたIEAの事務局長が、はっきりと再生可能エネルギーへの変換が進んでいることを認めた意義は大きい。

太陽光発電の導入のために、世界中で1日10億ドル(約1500億円)以上が費やされている。再生可能エネルギーは一つの重要な産業部門になったと言える。

 

同報告書によると、利用するエネルギーや新規に作られるエネルギーが再生可能エネルギーにシフトしているのは、二酸化炭素(CO2)の排出量を削減するためだけでなく、安全保障の側面もあるという。これはウクライナ危機でドイツが身に染みて痛感したことだが、日本のように資源輸入国にとって、今後のエネルギー政策を考えていく上で、重要な要素となるはずだ。

今回出された予測では、エネルギー関連のCO2排出量も2025年にピークに達し、その後、減少していくという。それでもCO2の排出量は依然として多く、2100年には世界の平均気温は、産業革命以前より約2.4度高くなるという。そのため同報告書は、パリ協定で定めた1.5度の目標値に抑えるために、各国は再生可能エネルギーへの投資を大幅に増やし、その設備容量を世界全体で現在の3倍にすること、エネルギー効率を今の2倍の速さで年間4%改善することなどを提唱している。ビロル事務局長は、「各国がCO2の削減の方法のための独自の道を見つけなければならないが、クリーンなエネルギーへの移行を加速するには国際協力が不可欠だ」とも述べている。この11月30日からドバイで開催される第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)は、そのための場を提供することになるだろう。

報告書には、「イスラエル•パレスチナ情勢が緊迫する中、再生可能エネルギーは国際情勢に左右されない安定したエネルギー源であることが改めて認識された」とも書かれている。紛争に左右されないだけでなく、紛争の原因にもならない。再生可能エネルギーは平和なエネルギーでもある。

 

 

 

 

 

 

 

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