振興工業経済地域への原発輸出を狙う国々
脱原発に切り替えたドイツは、再生可能なエネルギーを作り出す環境技術で輸出増大を図ろうとしています。その一方で、原子力技術を新興工業経済地域への輸出の中心に据えようとしている国々があります。ヨーロッパ最大の週刊誌「シュピーゲル」(DER SPIEGEL)が8月9日に配信したオンライン版のニュースの内容をかいつまんでお知らせしましょう。フランス、ロシア、アメリカにおける技術開発の話ですが、アメリカでの開発プロジェクトには日本の企業が技術協力していることが伝えられています。
以下が雑誌「シュピーゲル」の記事の要約です。
センセーショナルな原子力計画
フランスが開発を進める海底の原発「フレックスブルー」
戦艦や原子力潜水艦の建設を進めてきたフランスの軍事コンツェルンDCNS社は、アレヴァ社との協力によって、「フレックスブルー」を開発している。これは、深度60から100メートルの海底に配置された約100メートルの鋼鉄製の円筒の原子炉が、陸上の小さな制御センターの監視下で稼働するという。もし故障があれば、技術者がミニ潜水艦で深海の原発の修理にあたる。DCNS社によれば、100メートルの深海ではメルトダウンの可能性は極めて低く、ほぼあり得ない。しかし、環境保護団体からは、放射性物質が深海の潮流に乗って、拡散の速度が高まるという批判が出ている。
この原子炉は50から250メガワットの電力供給が可能で、旧来の陸上の原子炉よりも発電量は少ないものの、例えばマルタ島のような規模の電力消費には十分な電力が、再生可能エネルギーよりはるかに安価で供給でき、しかも陸上での送電網の増設は不要であるということがDCNS社の宣伝用パンフレットに述べられている。数百万ユーロの費用で、「フレックスブルー」の建設が可能という見通しで、2014年にはプロトタイプが製造されるという。大洋の海底に設置された原子炉は、テロリストの攻撃や飛行機の墜落からも安全だとDCNS社は言うが、環境保護団体は、「陸上ではテロの危険は全く問題がないと言いながら、大洋の海底に配置されると、このことすらセールスポイントになってしまう」と皮肉っている。
ロシアが進める「アカデミック・ロモノーソフ」-浮体式原子力発電所の試作モデル
ロシアが開発している浮体式原子力発電所は、「フレックスブルー」よりも明らかに進んだ段階にある。国営原子力企業ロスアトムが主導するプロジェクトで、来年の終わりには運転開始の予定である。現在、長さ144メートル、幅30メートルの「アカデミック・ロモノーソフ」と名付けられた構造体に、発電施設の設置が行われている。原子砕氷船や潜水艦に搭載された実績のある加圧水型原子炉KLT-40S型が使用される。「アカデミック・ロモノーソフ」上の原子力発電所は36年間、約60から80メガワットの電力を供給することになっている。浮体式原子力発電所の試験運転は、カムチャッカ半島のヴィリュチンスクで行われる。ロシア政府は、この浮体式原子力技術の輸出を目的としており、中国、インドネシア、ベトナム、インド、日本が興味を示している。ノルウェーの環境保護団体からは、浮体式原子力発電所は危険であるうえに、不経済でもあると指摘されている。とくにカムチャッカ半島は地震の確率が高い。ロスアトム社でも、福島の原発事故後、構造体の係留所を再検討すると述べている。
テラパワー - 庭に設置するミニ原子炉
都市から遠く離れた地域で稼働するミニ原子炉というコンセプトは無数にあるが、とくに注目されているのが、マイクロソフト社の創設者、ビル・ゲイツが共同出資しているテラパワー社である。同社は東芝との協力で、いわゆる進行波炉の大量生産化を目指している。この原子炉のコンセプトはすでに1950年代からあるが、現在まで実現されることはなかった。通常の原子炉では、プルトニウムが燃料棒から隔離されなければならないが、この進行波炉ではプルトニウムがエネルギー獲得の役割を果たすという。ただ、原子炉はナトリウムでの冷却が必要である。テラパワー社のミニ原子炉は、まだスーパーコンピュータでのシミュレーションの段階であるが、東芝のミニ原子炉製造技術は一歩先を進んでいる。
ヒュペリオン・パワー・ジェネレーション社も小型原子炉の開発に取り組んでいる。同社では、原子炉を家の庭にでも置けるように、原子炉の小型化を目指している。東芝のミニ原子炉「4S」と同じく、ヒュぺリオン社の小型原子炉も現在、アメリカの認可手続きを受けているところである。
旧聞に属しますが、東芝とビル・ゲイツの技術提携に関するロイターのニュースもご覧ください。