原子力エネルギー - 過ちは繰り返すな
東北大震災とそれによって引き起こされた福島第一原発の事故から5年が経つ。チェルノブイリ事故からはちょうど30年ということで、ベルリンでも様々な催しが企画されている。例年のことだが、ドイツでは新聞、ラジオ、テレビでも事故5年後の福島を伝える報道が多くなっている。
3月6日、ベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル」は、「大惨事 - 終わりはないのか?」と題する記事を全面に載せた。上半分には、山積みにされた放射性廃棄物を詰めたフレコンバックが写し出されている。下半分には「危機状態での生活」と題した陸前高田の現状と、「福島はまだまだ異常」という記事が左右に並べられている。
同日、ドイツ第一公共テレビ(ARD)が毎週日曜日の夜7時半から放送する「世界のニュース(Weltspiegel)」でも「日本:黙示録の旅 (Japan: Reise durch die Apokalypse)」というタイトルで、事故後5年を経た福島原発の状況が詳しく報じられた。双葉町から立入り禁止区域への取材許可を得たARDの東京特派員ウーヴェ・シュヴェーリング氏が、チェルノブイリ事故後のウクライナを撮り続けてきたポーランド人カメラマンのアルカディウス・ポドニシンスキー氏と一緒に双葉町を訪れた。ARDの映像資料とポドニシンスキー氏が以前に撮影した映像に加えて、今回の双葉町の取材で構成されたレポートである。
3月7日には公共ラジオ放送ドイチュラントフンクが「破壊された地域を見る (Blick in die zerstörte Region)」という約20分間の番組で、日本政府が進めている帰還奨励に疑問を投げかけた。津波で大きな被害を受けた閖上と、福島第一原発の南15キロメートルにある楢葉町での取材を中心にした番組である。
3月11日前後には、もっと多くの報道がドイツの各メディアで見られるだろう。すべてを詳細に取り上げることはできないので上記の3つに絞ったが、どの報道にも共通するのが原子力エネルギーは制御できないということ、福島はアンダーコントロールではないこと、廃炉に至る行程はまだ全く見えていないことにまとめられるだろう。もう一つの特徴は、2020年の東京オリンピック開催と福島原発事故の関連を捕えていることである。
「ターゲスシュピーゲル」紙は、東北大震災を自ら体験し、その後の復興の様子を追っているデュースブルグ=エッセン大学東アジア研究所のアクセル・クライン教授を引用して、次のように書いている。
当時の政府の情報政策はひどかった。福島の動向についての情報はほとんどなかった。この結果、政府への信頼が失われてしまったことは今も顕著に感じられる。(中略)大半の日本人と政府にとって、大惨事は影が薄くなっている。膨大なお金が2020年の東京オリンピックの準備のために流れている。素晴らしい日本のイメージを演出するためだ。ところが、東京都民たちは大地震が起きたときの緊急避難計画をずっと待ち続けている。
ドイチュランドフンクも次のように伝えている。
国と社会が福島の犠牲者たちのことをあまり心にかけないのは、不都合なことは隠し、できるだけ早く忘れ去ろうとする日本的反射作用と関係があるのかもしれない。とくに、4年後に迫ったオリンピックの開催地として、立派な日本を見せなければならない。原発事故とオリンピックの関係を述べたのは、ほかならぬ安倍首相自身だった。彼は今から2年半前、「福島がアンダーコントロールであることは、私が保障します」と表明したのだった。国際核戦争防止医師会議が言うように、これは「すぐにばれるウソだ」。
ARDのレポートは、チェルノブイリとの違いを尋ねられたポドニシンスキー氏の「ウクライナの住民たちはすぐに避難させられた。それに対して、日本人は諦めないで、闘うという強い意志を持っている。ここでは徹底的な除染が継続して行われている」という答えに続けて以下のように報じている。
日本政府はいくら費用がかかろうとも、福島の過酷事故は収束しうることを証明しようとしている。それは、原発の再稼働を合法化するためだ。しかし傷は深い。そして、法的に決着をつける道は始まったばかりだ。津波を無視したことに対して、ようやく東電幹部が告訴されることになった。意図的に、怠慢から、費用削減のために、無視したのだ。(中略)グリーンピースによると、毎日最大100トンの汚染水が流出しているという。福島第一の廃炉には今後30年から40年もかかる。今後100年の間にフレコンパックの数は1億個に膨れ上がるという予想だ。その間に津波が起きればどうなるのか。すべては2011年3月11日、想定外のリスクが主役を奪ったことから始まる。
ドイチュラントフンクでは、「日本の納税者が6億8000万ユーロ(約850億円)を支払って」楢葉町に新設された日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術センターについても触れている。「許容された放射線量を超えた作業員たちが、自らの経験やノウハウを経験不足の作業員たちに伝えて訓練する場」ということらしい。廃炉作業が最も順調に行ったとして40年、まだそのうちの5年しか経っていない。毎日7千人から8千人の作業員がこの5年間に行ってきたのは、具体的な廃炉のための作業ではなく、毎日出てくる100トンの汚染水を貯蔵するタンクの設置や整備である。
2011年以降、3月11日前後になるとテレビ、新聞、ラジオの福島をめぐる報道で気分が重くなるのだが、この原稿を書いているときに飛び込んできた「高浜原発3、4号機 大津地裁 運転差し止めの仮処分決定」という日本からの速報に少し気分が晴れた。毎日新聞によると、「滋賀県内の住民29人が運転の差し止めを求めた仮処分申請で、大津地裁(山本善彦裁判長)は9日、住民側の申し立てを認める決定を出した。3号機は原子力規制委員会の新規制基準に適合したと認定されて1月末に再稼働したばかりだが、仮処分は即座に効力が発生するため、関電は9日中にも停止作業に着手する。稼働中の原発の運転を停止させる仮処分決定は初めて」ということだ。
話は変わるが、一番上の動画はドイツの環境団体であるドイツ環境自然保護同盟(BUND、Bund für Umwelt und Naturschutz)が作ったもので、非常にわかりやすい。直訳すれば、「原子力は歴史にならなければならない」という動画である。ぜひクリックして見ていただきたい。チェルノブイリ原発事故から福島の事故の映像を背景に、4つの短い文章が重ねられる。
1.これは、制御不能のエネルギーの歴史だ
2.これは、ある大惨事の歴史だ
3.これは、ある汚染されたふるさとの歴史だ
4.この歴史はすでに繰り返されてしまった。これが再び起こることは許されない