ドイツの脱原発、遅くとも2023年4月15日に達成

ツェルディック 野尻紘子 / 2022年10月19日

指導力が問われていたが、重要な決定を下したショルツ首相©️Bundesregierung

連立政権内の意見不一致で中々決着のつかなかったドイツの脱原発が2023年4月15日になるようだ。オーラフ・ショルツ連邦首相が17日午後、基本法で定められた首相が単独で政策の方針を決断する権限に基づいてそう決定し、書面にてその内容を関連閣僚に伝えたからだ。

福島の原発事故を機に、ドイツは既に2011年に2022年末までの段階的な脱原発を決めていた。ところが、ロシアのウクライナ侵攻に関連してドイツではエネルギーが不足気味になり、そのため決定通り本年末に残る3基の原子炉を停止するか、あるいは脱原発を延期するかで社会民主党(SPD)、緑の党、そして自由民主党(FDP)で構成する連立政府内で意見が対立していた。

反原発運動を中心に1979年に誕生した緑の党は、あくまでも年末までの脱原発を希望していたが、同党のローベルト・ハーベック連邦経済・気候保護相は、この冬の安全な電力供給に関するストレステストの結果を踏まえて既に9月中旬、現在まだ稼働中の3基の原子炉の内の2基を2023年4月中旬まで緊急時の予備として残すという方針を発表していた。ただし、法制化はまだだった。緑の党はこの10月14日から行われた党大会でも、根本的に原発の稼働延長に反対する態度を崩さなかったが、ハーベック氏の方針は受け入れることを決定していた。共同党首のリカルダ・ラング氏は「原発のさらなる稼働延期には絶対に反対する。新しい燃料棒の購入はレッドラインだ」と釘を刺していた。

一方、FDP は、新しい燃料棒も購入して、原発の稼働を少なくとも2024年まで延長するべきだと何度も繰り返していた。ショルツ首相(SPD)とハーベック経済相、FDP の党首兼連邦経済相のクリスチアン・リントナー氏はこの週末にも話し合いを持ったが答えは出ず、ここに至って、ショルツ首相が首相の権限を行使したのだ。

ショルツ首相は、 シュテフィ・レムケ環境・自然保護・原子力安全・消費者保護相(緑の党)およびハーベック経済相、リントナー財務相宛ての書簡で、「現在まだ稼働しているイザール2とネッカーヴェストハイム2、更にエムスラントの原子炉が2022年12月31日以降、最長2023年4月15日まで発電可能になるために法的基盤を作成する」と伝えた。

また、この書簡では、上の決定と並行して以下の方針を促進することも伝えた。

・エネルギーの効率向上のために意欲的な法案を提出する。

・連邦政府、ノルトライン・ヴェストファーレン州政府および(電力大手) RWE 間で既に達成されている、2024年までの石炭火力発電所の稼働延長およびライン地方での2030年までの脱石炭の前倒しに関しての政治的了解を立法化する。電力供給安定を保証するために、連邦政府は水素で稼働する新しいガス火力発電所の建設のための前提を整える。

注:ここで言う水素とは、再生可能エネルギーで作る、いわゆる緑の水素のことを指す。また、新しいガス火力発電所というのは、現在まだ開発中である。

ショルツ首相は、連邦議会での採決が可能になるように、各閣僚に、それぞれの管轄内で、以上の事柄に関しての法案を即急に内閣に提出するよう促している。

問題を解決するために、このようにショルツ首相が単独で原子炉の稼働期間を定めたことに対して、緑の党の議員団団長は「実際的にも専門的にも意味がないのに、SPD とショルツ首相がエムスラントの原子炉をリザーブとして残すのは残念だ」と批判した。しかし、レムケ環境相は「事態がはっきりした。ドイツは23年4月15日に最終的に脱原発を実行に移す。その後には、稼働期間の延長も新しい燃料棒もない」とショルツ氏の決断を歓迎した。FDP のリントナー財務相は「エムスラントの原子炉も停止せずに稼働させることは、送電網の安定、電力価格の高騰を抑えること、そして気候保護に大きく貢献する。従って、わが党は、首相の提案を全面的に支持する」と語った。また、ショルツ首相の所属するSPD は、「適切で実用的な解決策だ」と評価した。

煙を出しているのがエムスラントの原子炉、右端に見えるのはもう停止しているリンゲンの原子炉©️https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Luftbild_Kernkraftwerk_Lingen.jpg

ただ、首相が単独で政策の方針を決断する権限というものは、一般には、それ以外の方策が他にない時に使われるものだとういう。つまり、多くの場合は、政権が崩壊寸前のような場合に行使されるのだが、ショルツ政権は昨年暮れに誕生したばかりだ。成立からまだ1年も経っていない政権がこの権限を行使したことで、現政権の将来を危ぶむ声がジャーナリストの中にはある。一方、市民の80%までもが、この決断を支持しているだろうと発言するジャーナリストもいる。

なお、ドイツはロシアのウクライナ侵攻以前には、購入する石炭の50%、原油の35%、そして天然ガスの55%をロシアから輸入していた。しかし、ドイツを含む欧州連合(EU)はロシアに対し経済制裁を敷き、石炭はこの夏から、石油は来年初めから輸入が禁止される。天然ガスに関しては、ロシアへの依存度があまりにも高かったことと、輸入先が簡単に見つからないことなどのために、制裁は敷かれていなかった。ところが、ロシアはこれまでのEUの対策に対抗して、現在までに天然ガスの輸出をほぼ完全に停止してしまった。このためにドイツでは、天然ガスが不足しても、この冬が無事に乗り越せるかが大きな課題となっている。

関連記事:ドイツの原発、2023年4月中旬まで稼働?(2022年9月14日)ドイツの脱原発、プーチンのウクライナ侵攻で先延ばし?(2022年8月11日)

 

 

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