エネルギー転換は首相の管轄
一年前に決定した脱原発・エネルギー転換が思うように進まないドイツで、アンゲラ・メルケル首相が少し腰を挙げた。5月23日に首相府でドイツ16州の州首相と会談し、これからは定期的に この集まりを半年ごとに開催、 エネルギー転換の進展を評価し、政府と州との間のコーディネーションを計るという。経済界などからはエネルギー省の設立を希望する声も挙がっているが、メルケル首相は「ドイツ国内に原子力発電所がある間は、原発の管理はエネルギー政策とは切り離して環境省が、送電網や原発以外の発電所の建設、管理は経済省が行うべきだ」と発言、エネルギー転換の舵取りは自分がしていく方針を明らかにした。
エネルギー転換の最大の障害は連邦制とも言われる。州には種々権限があり、それぞれの分野で、州が連邦政府、連邦議会の決定事項に反対したり、利害関係の異なる州同士がお互いに譲らなかったりするためだ。例えば、最も大量のエネルギー節減が可能だとされる建物の断熱工事の促進に関して、州政府は、工事費が所得税から控除されれば州の税収入が減るとして連邦議会の決定に反対している。 連邦議会が先頃決定した太陽光発電の補助金削減も、そのままでは州政府の代表からなる連邦参議院を通過しなかった。
主に、風力発電に力を入れている北ドイツから今まで原発に多く頼っていた南ドイツへ電力を送るために必要だとされる4000 km の高圧送電網の建設も、各州が住民の要望などを考慮して、出来るだけ自分の州を通過させたくないとするため、なかなかルートが決まらない。他方では、州どうしの話し合いがないため、ルートの無駄な重複も計画されているという。
原発依存度の最も高いバイエルン州のホルスト・ゼーホーファー州首相は、安全な電力供給を確保するために必要となるガス火力発電所の建設に関し、連邦政府が方針を決めないのなら、「州立の“バイエルン電力”を創設する」と数日前に南ドイツ新聞のインタヴューで答え、同州の焦りを明らかにした。ガス火力発電は、他の大型発電装置に比べ短時間でフル稼働が可能なので、再生可能エネルギーによる発電力の揺れをカバーするのに最も適しているとされるが、常時フル稼働が見込まれない場合には、採算が合わない。このため、国の援助がない以上電力会社は投資を拒む模様だ。
この会談には、一日前に就任したばかりのペーター・アルトマイヤー新連邦環境相も出席し、この会を通し「エネルギー政策の全国一致という目的に一歩近づいた」と発言した。先任のノーベルト・レットゲン前連邦環境相は、5月13日に行われたノルトライン・ウェストファーレン州の州選挙にキリスト教民主同盟(CDU)の州首相候補として立候補したが、CDUの得票率は前回選挙の34.6%から僅か26.3%で惨敗。「エネルギー転換は国の大事業であるから、弱い環境相には勤まらない」という理由でメルケル首相に更迭された。なお、レットゲン前連邦環境相は、連邦大臣としての仕事を立派にこなしていたという評価は同党内にもあり、この更迭については批判の声も聞こえる。
この会談に参加したバーデン・ヴュルテンベルク州のウィンフリート・クレッチマン州首相(緑の党)は、具体的な作業計画も作成されなかったことを批判、「半年後に再度会うという約束以外にこの会談の成果は無かった」と語った。