太陽光、風力なしでも2020年脱原発可能

ツェルディック 野尻紘子 / 2012年12月16日

福島の原発事故3ヶ月後の2011年6月にドイツは脱原発を決定した。どうしてドイツはあれほど素早く脱原発が決定出来たのだろうか。第一の理由は、同国に反原発運動の長い歴史があり、国民が脱原発を望んでいることにあると思う。第二の理由は、電力市場が自由化されていることと、再生可能エネルギーを促進する「再生可能エネルギー優先法」が2000年以来存在することだろう。第三は、ドイツの送電網が隣接国の送電網と繋がっており、お互いに電力を融通出来ることだと考える。これらについては今までにもみどりの1kWhで何度か書いてきたが、今回、もう一つの理由を見付けた。それはドイツに充分な予備の発電能力があることだ。一般には話題になっていなかったが、政策を決定する政治家たちは充分承知していたのだろうと察する。

フライブルクに本部を置くエコ研究所(Öko-Institut)は、2011年3月に「短期間内の脱原発と代替エネルギー、電力及び二酸化炭素の価格への影響」と題する資料を環境基金であるドイツWWFのためにまとめている。福島の事故直後の3月14日にドイツ政府が古い原発7基の一時停止を発令したことを受けて、主に、火力発電の増加と共に二酸化炭素の排気量が増えるのではないかと憂慮した基金からの質問への回答だったようだ。

資料をまとめたフェリックス・ マテス博士らは、ドイツ社会は、2000年の電力業界と政府間の脱原発の基本合意に基づく2002年の改正原子力法により、広範囲にわたり脱原発の準備が出来ていたとする。その裏付けとして以下を挙げている:

①既存の発電装置をフル稼働すれば出力を8700MW(メガワット)上げることが出来る。

②ドイツには待機している発電能力が2500MWある。これらは「冷たいリザーヴ」と呼ばれ、市場に電力が溢れ、電力価格が下がっている場合には採算性がないので稼働しない発電装置のことを指す。廃炉にされたわけでなく、機能は完全に整っており、採算性が出てきた段階で再度稼働することを目的に待機している。再稼働は数週間で可能になるという。

③みんなが電力を使う電力消費ピークの時間帯を、消費者側が調整して少しずらしさえすれば、発電能力は最小でも2000MW少なくて済み、差し障りは一切発生しない。長年の実績から、最大量の電力が同時に消費されることは一年を通してもごく限られた時間帯にしか起こらない。効果的なのは、冷凍産業や金属、化学関連の大手企業などの大口電力消費者が、各社の電力消費量の最も多い時間帯をお互いに話し合って調整することだ。調整はすぐにでも実現可能となる。

④ドイツでは2013年までに現在建設中の発電装置が完成する。その間廃炉になる発電所もあるが、全体としては出力が2800MW増える。

⑤2020年までに、特に2015年から2020年の間には、総量にして約5000MWのバイオマス、熱電併用、ガス発電装置がほぼ確実に建設される見通しである。

以上の発電能力の合計は2万1000MWに達し、2011年3月初めの時点にドイツで稼働していた全ての原発の発電容量の合計、2万500MWを上回る。従って資料は、「早期の原発停止で、安定した電力供給が確保されないという心配はない」と結論している。完全な脱原発の時点に関しても、既に2020年に可能だと記されている。政策の決定者たちが、脱原発を恐れない理由がここにあったのだ。

なお、この計算には太陽光と風力発電は入っていない。両者は気候に左右されるので、常時入手可能な確実な電力源ではないことから、考慮外にしたと説明がある。蓄電装置の開発、構築には時間がかかると予測されるので、これも短期間内の脱原発の対応には活用出来ないとして除外したという。

当資料では最後に、短期間内の脱原発が、電力価格と気候温暖化に繋がる二酸化炭素の排出量及びその取引価格に与える影響について考察されており、このことは種々の条件により大きく変化すると述べられているが、ここでは省く。

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