ビールが待ったをかけるフラッキング
5月23日にドイツの大衆紙ビルト(Bild)が伝えたところによると、シェールガス採掘に必要なフラッキング技術の使用条件を定める法案を通そうとしているドイツ連邦政府に対し、ドイツ•ビール醸造業者連盟(Deutscher Brauer Bund e.V.)が懸念を表わす文書を送ったそうです。
ドイツというと、まず思い浮かべるのはビールとソーセージという方は日本にも多いと思います。実際、ドイツには1339のビール醸造業者と5000種類ものビールが存在し、国民一人当たりの年間消費量は105.5リットル(いずれも2012年の統計)というビール大国です。そしてドイツビールの特徴は、「ビールは麦芽、ホップ、水、酵母のみを原料とする」と定めた「純度令」を厳しく守って醸造されていることで、これが美味しさの秘密とも言われています。この純度令が定められたのは1516年4月23日(ドイツではビールの日になっています)で、それ以来守られてきている(旧東ドイツでは、原料不足のために守られなかった部分もあったらしい)といいますから、すごい伝統です。
ビルト紙によれば、醸造業者連盟は連邦政府に宛てた文書の中で、「これまでドイツ連邦政府が検討してきたフラッキングに関する法案は、飲料水供給のために必要な安全性を確保するに不十分で、ビール純度令の要求に応えられない」とし、「政府が法案を決める前に議論するべきである」と要求したそうです。
シェールガス採掘とフラッキング技術については、このウェブサイトでも、マット•デイモン主演映画「プロミスト•ランド(約束の地)」に絡めて書いています。ドイツではノルトライン•ヴェストファーレン州、ニーダーザクセン州、ヘッセン州北部、ライン川上流部に沿う地溝帯に、シェールガスが埋蔵されていると推測されています。環境破壊が起きるという批判の声はあるものの、連邦政府は採掘許可に向けて道筋をつけようとしています。
もっとも、法案では飲料水の取水地での採掘を禁止したり、その他の地域で採掘を行う場合には事前の環境安全調査を義務付けるなどしています。でも、ビールを造るのには清い水が命の醸造業者たちにとっては、その基準でも十分ではないということのようです。よく考えれば当たり前の話なのですが、少なくとも私にとっては、考えてもみなかったところから助けが入ったという感じで、新鮮なのでした。