“TRASHedy” - ゴミの悲劇

あきこ / 2016年10月16日
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マルティン・ラシャー氏 © あきこ

ケルンに「パフォーミング・グループ(Performing Group)」 というカンパニーがある。ダンサー、パフォーマー、作曲家を中心に2011年に結成され、舞台作品として通常取り上げられにくいテーマについて研究とリサーチを重ねている。その結果を、ダンス、演劇、サウンド、映像といった手段を用いて作り上げた作品を通して観客に伝えようとする若いアンサンブルである。

このカンパニーがブレークするきっかけとなったのが、1985年に始まり、20年以上の歴史を持つノルトライン・ヴェストファーレン州のヴェストヴィント・フェスティバルという青少年児童演劇祭で大賞と青少年審査員賞を受賞した「TRASHedy」というタイトルの作品である。このタイトルはTrash(ゴミ)とTragedy(悲劇)を合成した造語である。

カンパニーのマネージャーであり、同時に作曲と映像を担当しているマルティン・ラシャー氏をケルンに訪問し、作品誕生の背景や公演の状況などについて尋ねた。ラシャー氏は以下のように語った。

作品は当初「カーボンフットプリント」というテーマで考えられていた。カンパニーの芸術監督、振付家、ダンサーであるレアンドロ・ケースが、ビッグバンから、あらゆる物質を形作る原子の成り立ち、地球の誕生、生命の発生、そして人類の登場までを描いたビル・ブライソンの『人類が知っていることすべての短い歴史』という本を読み、遠大な宇宙の歴史の中で現代に生きる我々が直面する課題を考える一つのきっかけとして「カーボンフットプリント」というテーマにたどり着いた。レアンドロ・ケースは中学生たちのダンスの授業を受け持っているが、彼らにこのテーマをどう伝えればいいのかを考えていた。ほぼ同時期に、僕たちが申請していたダンス作品制作のための助成金がノルトライン・ヴェストファーレン州から出されることが決まり、このテーマに沿って作品を作り始めた。カンパニーのメンバー全員が、「カーボンフットプリント」、つまり自分たちの生活様式や消費行動がCO2などの温室効果ガス排出を通じて、地球環境にどのような負荷を与えているかを考え始めた。そして僕たちは中学生たちと1ヶ月近くのワークショップを経て、一つの作品としてまとめ上げて舞台公演を行った。しかし、観客からの反応は「君たちがやっていることは、道徳の押しつけだ。あれもダメ、これもダメというだけで、どうすればよいのかという解決策、少なくとも解決の方向性でも見せてほしい。お説教はいらない」という厳しい反応が返ってきた。そこで、僕たちは時間をおいて、考え直した。そしてカンパニーで一致したのは、「考えれば考えるほど問題が出てくる、一つの解決はない」ということだった。僕たち自身の生活習慣を見れば、観客に対して“お説教”をできるような生活をしているのではないことは明らかだ。そこで僕たちは、様々な問題があるという事実を見せ、それらの問題を見た観客が一生活者、一消費者としてどのように考えるか、どのように決定するかについての自由を持っていること、このことを子どもたちにどのように伝えられるかを検討した。作品の対象年齢は10歳以上なので、言語表現は最小限にし、ダンス、アニメーション、映像という手段を通じて、子どもたちにも地球や生命について意識してもらえるようにした。

約一年の再考期間を経て、2013年に出来上がった作品は「TRASHedy」と名づけられ、前述のようにヴェストヴィント・フェスティバルの二つの賞の受賞で注目を浴びることになった。さらに2015年、「アシテジ(国際児童青少年舞台芸術協会)」の創立50周年記念大会がベルリンで開催され、招待作品として上演された結果、この記念大会に参加していた世界中の児童演劇関係者の関心を呼び、ドイツ以外の国々の児童演劇祭から招待されるようになった。ラシャー氏は、「この作品は2013年の誕生以来、今までに100回以上の公演を重ねてきたが、中でも韓国とインドの公演は、作品のテーマに対する観客の反応が特に印象的だった」という。ムンバイとの交流は今も続いているという。

この作品は「TRASHedy 地球の正しい使い方」と銘打って、日本でも11月5・6日には香川県善通寺市にある四国学院大学、11月9日には飯田市鼎文化センター、11月11・12日にはTACT/FESTの一環で大阪のスタジオ・パルティッタでそれぞれ上演される。この作品が、子どもも大人もともに“地球の正しい使い方”を考える一つのきっかけとなることを願っている。

関連リンク

四国学院大学での公演
http://www.notos-studio.com/contents/event/event/1674.html

大阪での公演
https://www.goethe.de/ins/jp/ja/sta/osa/ver.cfm?fuseaction=events.detail&event_id=20835942

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