ドイツ連邦政府、再生可能エネルギー増加に伴う送電網の拡充促進
ドイツのペーター・アルトマイヤー連邦経済・エネルギー相(キリスト教民主同盟、CDU)は、8月14日、ボンで記者会見し、エネルギー転換にとって死活の問題である、送電網の拡充に積極的に取り組む姿勢を強調した。アルトマイヤー・エネルギー相は、新たに「電力行動計画」を立ち上げると発表するとともに、各地の送電網新設に反対する市民グループを現地に訪ね、話し合いを行う意向を明らかにした。
ドイツは2030年までに電力の総需要に占める再生可能エネルギー電力の割合を65%に増やすという野心的な目標を立てている。現在その割合は約36%に達しているが、今後かなりのスピードで増え続けることが予想されている。そのこと自体はエネルギー転換にとって良いニュースだが、再生可能エネルギーというのは自然条件に左右されるため、需要以上に生産された余剰電力を蓄積し、必要な時に使うという蓄電の問題が大きな課題となっている。同時にまた、ある地域で生産された再生可能電力を消費地に運ぶための新たな送電網敷設の必要性が叫ばれているが、実際には、敷設計画は遅々として進んでいない。
ドイツでは北部地域の陸上と北海、バルト海の洋上で大量に生産される風力による電力を、電力需要の多い南部に送るための高圧送電網として、北部のハンブルク近郊から南西部のシュツットガルト近郊までドイツの中央部を縦に走る「ズュートリンク」と、その東側、ザクセン・アンハルト州の州都マグデブルクからバイエルン州のランズフート近郊までを縦に走る「ズュートオストリンク」などの基幹送電網が計画されている。しかし、アルトマイヤー・エネルギー相は「計画は進んでいない。4年後に脱原発を実現させるためには、時間的余裕がもうあまりない。計画を促進するため、あらゆる可能性を考えなければならない。エネルギー転換を成功させるため、自分がイニシアティブをとって行く」などと語った。これは、アルトマイヤー氏が、3月にエネルギー担当相になってから初めての、エネルギー転換に関する具体的な提言だった。
ドイツ連邦ネットワーク庁の発表によると、すでに2009年に決定されていた1800kmの送電網の敷設は、9年後の現在までにわずか800kmしか完成していない。さらに、予定されている「ズュートリンク」と「ズュートオストリンク」の計画もほとんど進んでいないという。計画が遅れている理由はさまざまあるが、主な理由の一つとして、地上に高圧送電網を張り巡らすことに市民の反対が強かったことがあげられる。その結果大半を優先的に地下に埋めることに変更されたが、地下に埋設する作業は困難で、費用も時間もかかる。また送電網を地下に埋めることによる環境への影響を心配する新たな反対運動も起こっている。
「送電網の不足は今日すでに電力消費者の負担になっている」とアルトマイヤー・エネルギー相は言う。再生可能エネルギーが送電網の能力以上に増えると、送電会社はその都度介入しなければならない。例えば、北に風力発電電力が十分あるのに、それを送電線には取り込まず、南では予備の火力発電を稼働させなければならないが、そうしたリディスパッチと呼ばれる介入の費用は、去年だけで14億ユーロ(1820億円)にのぼったといわれる。さらに、アルトマイヤー・エネルギー相は、基幹送電網の新設計画のどこに問題があるか、必要でない余分な計画がないか、州政府や地方自治体の代表とともに具体的にチェックして行くと言う。
アルトマイヤー・エネルギー相はしかし、送電網の新設を推進させることだけを目標としているわけではない。それ以上に、既存の送電網の最大限の活用を重視し、コンピュータを駆使してインテリジェントな運営にも尽力する考えだという。例えば、特別な送電網を利用することによって、気温が高い時でも大量の電力を送電できるようにするなど、技術的な可能性はいろいろ存在するという。同相は、各州の環境大臣を集めて9月20日にベルリンで「電力サミット」を開くことも明らかにした。アルトマイヤー氏は、基幹送電網が通過する地域の視察と市民との話し合いは、国民のコンセンサス醸成のために重要だと考えているが、その視察旅行はすでに開始されている。今回ノルトライン・ヴェストファーレン州とニーダー・ザクセン州での視察旅行の途中、ボンで記者会見をしたのだった。
こうしたアルトマイヤー経済・エネルギー相の発表に対して、緑の党の共同代表、ロベルト・ハーベック氏は「連邦政府の取り組みは遅すぎる。各地の市民たちとの話し合いも、夏休みだけではなく、常時行うべきである」などと語った。また、ドイツ環境自然保護連盟(BUND)のフーベルト・ヴァイガー会長は「エネルギーの地産地消に力を入れれば、基幹送電網の敷設計画の多くが必要では無くなる。インテリジェントで分散型のエネルギー転換について、これまで十分検討されてこなかった。この点は速やかに変わらなければならない」と批判した。
一方、ドイツ環境保護団体であるDUHのメンバーで、市民との対話に力を入れているペーター・アーメルス氏は「連邦政府の行動計画は、市民の信頼を獲得するための正しい一歩だ」と歓迎している。また、ケルンに本社を置くライン・エネルギーの技術担当責任者、アンドレアス・ツェルベ博士は、今回、アルトマイヤー・エネルギー相に、地域の市民運動との対立を克服したプロセスを説明した後、「アルトマイヤー氏の『市民との対話』が成功するように祈っています」と語っていた。
ドイツの各新聞もさまざまに論評しているが、ミュンヘンで発行されている全国紙「南ドイツ新聞」は8月15日に好意的な社説を載せた。
アルトマイヤー経済・エネルギー相が、送電網敷設計画推進のイニシアティブを自分が取っていくと宣言した。これは良いことである。というのも、エネルギー転換が成功するかどうかは、石炭からの撤退や風力とソーラーパークの新設だけにかかっているのではなく、非常に長い送電網が敷設されるかどうかにもかかっているからである。