我々は今、エネルギー革命の真っ只中
原子力政策とエネルギー問題の世界的に著名なコンサルタントで、1997年に日本の故高木仁三郎氏(注: 物理学者、「原子力資料情報室」設立者)とともに「もう一つのノーベル賞」といわれるライト・ライブリフッド賞を受賞したマイケル・シュナイダー氏が、このほどドイツの新聞とのインタビューで、「我々は今、エネルギー革命の真っ只中」という見解を発表した。
マイケル・シュナイダー氏は、1959年ケルン生まれのドイツ人だが、1983年パリに独立機関「世界エネルギー情報調査室」(Mycle Schneider Consulting)を設立して以来、フランスで世界各国の政府や議会、国連の国際原子力機関やヨーロッパ議会などの国際機関、国際グリンピースなどのNGO組織、さらには各国のメディアなどのために、原子力政策とエネルギー問題の幅広いコンサルト活動を続けている。なかでも2009年、ドイツ連邦環境・自然保護・原子炉安全省の委託でまとめた『世界の原子力産業現状報告 — 経済性問題に焦点』は有名である。
そのシュナイダー氏に「現時点での世界のエネルギー事情」についてインタビューした記事が、1月13日、フランクフルトの新聞「フランクフルター・ルントシャウ」と1月17日、ベルリンの日刊新聞「ベルリーナー・ツァイトゥング」に掲載された。同記事は、「福島の原発事故から6年目、多くの原発関連企業が危機に陥っている。ドイツでは2022年に全ての原発が稼働停止になることが決まっているが、技術信奉者たちは、原発は有害な気候温暖化ガスを天然ガスや石炭ほど多く出さない、したがって気候温暖化防止に貢献すると主張している。しかし、エネルギー専門家、マイケル・シュナイダー氏にとっては、こうした主張は説得力を持たない」というリードで始まっている。
トルステン・クヌフ記者の最初の質問は、「もし誰かが貴方にドイツの電力大手RWEやフランスの電力大手EDF(フランス電力会社)とか原発メーカー、アレヴァ (Areva)などの原子力関連会社の株をくれると言ったら、貴方は喜びますか、それとも『ありがとう、結構です』と断りますか?」というものだった。それに対してシュナイダー氏は要旨次のように答えている。
まずは丁重にお礼を言います。そして多分株券1枚は自分のもとに残し、残りは他人にあげるでしょう。貰ってくれる人がいればの話ですが。原子力関連会社の株価はここ数年大幅に値下がりしています。EDFの株価は今週歴史的な安値を記録しました。2007年末以降90%値下がりしています。つまり原子力関連会社の株は魅力的な贈り物ではなくなったのです。何十年にもわたり莫大な利益を上げてきた多くの企業が劇的な状況に陥っています。
⭐︎ ヨーロパにおける原子力には、そもそも未来があるのでしょうか?
既存の原子力施設かあるいは新設かで分けて考えなければなりません。原発を新設することは、市場経済的な視点から見ると、世界のどこでも今ではもはや不可能なことが明瞭になっています。現在、どこかで原発を新設するとしたら、多額の助成金が必要です。あるいは他の動機、例えば、地域的な戦略とか軍事的な目標が考えられます。フランスやイギリスの場合には、こうした動機が原動力となっています。
また、既存の商業原子炉の多くは、損失を出しています。原発運営企業としては長期的には耐えられない状況です。スイスの最も新しい原発2基の運営会社が最近フランスのEDF に接近して、この原発2基をEDF にただで譲ろうとしましたが、EDFは丁重に断りました。すると今度はスイス政府に象徴的な1スイス・フランで売ろうと試みました。他の地域、例えばアメリカやスカンディナヴィア諸国では、原発は操業許可期限がまだ残っているにもかかわらず、次々に操業停止されています。こうした傾向は明白です。現在EUに所属するすべての国々には127基の原発が稼働していますが、歴史的に最多を記録した1988年に比べると50基少なくなっています。現在のEU 加盟国では2000年以降稼働を開始した原発はわずか2基、1基はチェコのもの、1基はルーマニアのもので、これは建設に34年もかかりました。
⭐︎ 原子力技術の信奉者たちは、火力やガス発電と違って原発は地球温暖化ガスを出さないと主張しますが、あなたはこの説に説得力があるとお考えですか?
原発が気候温暖化防止に貢献するという説にあまり根拠があるとは思えません。各国、各地方、各自治体は、それぞれ、一定の投資額に対してどのくらいの時間内にどれだけの地球温暖化ガスの排出を防げるかという問題に直面しています。エネルギーの効率化あるいは再生可能エネルギーの促進に資金を投入すれば、非常に短期間のうちに多くのことが成し遂げられます。これに対して原発の新設と稼働開始までには何年もかかります。
⭐︎ ドイツでは2022年末に最後の原発が稼働停止することになっており、将来は再生可能エネルギーが電力供給システムを担っていくことになっています。わが国でエネルギー転換が真剣に推進されていると思われますか?
ドイツについては二つの分野で遅れを取り戻す必要があると私は考えています。一つはエネルギー効率を高めることです。電力だけではなく、熱についての効率を問題にしなければなりません。我々は新しい家屋や工場施設の効率化について野心的な水準を決めること以上に、すでに存在する建物の効率化を図る必要があります。エネルギー消費量全体を大幅に減らすことに成功した場合にのみ、エネルギー供給システムを完全に再生可能エネルギーに変えることができるのです。エネルギー転換の議論の焦点が、いまだに電力供給システムに置かれているきらいがあります。しかし、気候温暖化防止政策の上では、暖房など熱の問題、そして他の多くの国々では冷房の問題が同様に決定的な役割を果たします。
⭐︎ そしてもう一つの分野は?
我々は国際的なエネルギー政策について、これまでとは全く違った構想を必要としています。その構想では、エネルギー利用の考え方を根本的に変える必要があるのです。つまり、電力の生産やキロワット時の節約、あるいは石油やガスの消費といった観点に、もはや立たないということです。極端な表現をするならば、エジソンの発明した電球をLEDのランプに変えるだけでは、現代的なエネルギー政策とは言えないということです。
エネルギー利用は基本的に6つの分野に分かれます。すなわち、調理、光、熱または冷たさ、モビリティ、コミュニケーション、動力の6つです。現代的なエネルギー政策は、これらの分野でインテリジェントなサービスを提供しなければなりません。これは電力供給源が、再生可能な自然エネルギーを基とするか、あるいは石炭や原発によるかをめぐるこれまでの議論とは根本的に違うものです。この構想の重要な原則は、まず、すでに存在するものの可能性を最大限に利用しなければならないということです。
光の分野を例に取りましょう。建築家や都市計画家が、建物あるいは都市全体の照明計画を考える前に、それぞれの建物や通りの日中の太陽光を利用する最善の方法を考えなければいけないということです。そのために大型の太陽光反射鏡や採光のためのライトチューブ(lighttube)などの利用が考えられます。こうした太陽光の利用には、電力を節約する以上の大きな意味があります。太陽光を最大限に利用した場合、当事者たちの生活に良い影響が見られるのです。
⭐︎ それはもう実際に試されたのですか?
はい。それも多くの場所で試され、実証されました。太陽光の秀れた効果については、非常によく研究されています。アメリカの航空機メーカー、ボーイング社では、工場の照明を太陽光に変えました。つまり、工場の屋根を太陽光が入るものに変えたのです。人工的な照明は、必要なごく一部の場所に残されただけです。太陽光の利用によるエネルギー節約によって、この工場は4年という短い期間に減価償却することを目指したのです。しかし、その効果は、当初の意図をはるかに上回っていました。
工場の照明が太陽光に変わった途端、そこで働く労働者たちの快適度が高まり、病欠が15%減るという現象が見られたのです。また生産性も15%ほど上がったということです。こうしたことを考えると消費電力が大幅に減ったことは、経済的に見て、たいしたことではないように思われます。事実この工場の投資家たちは4年以内に減価償却するという目標を、1年以内に達成することができたのです。同じような現象は、オフィスでも学校でも見られます。様々な調査によると、太陽光で学ぶ生徒は、人工的な照明で勉強する子供達より、集中力があり、はるかによく学べるという結果が出ています。
⭐︎ 光については納得がいくような気がします。熱についても同じような戦略が可能でしょうか?
熱及び冷却についても同じことが言えます。白く塗った屋根, “coolroof“は 、夏に暑さを防ぐので、その結果、人々の快適さは増します。暑い地方では、冷房のために使われるエネルギーが10%減ったところや冷房装置がいらなくなった地方さえ出てきています。
シュナイダー氏は、最後に交通システムについても革命的な発想の転換が必要だと次のように述べている。「政治の課題は、都市の住民の移動行動を正確に把握し、そのデータに見合った政策を立て、必要なインフラを提供することです。我々は電気自動車を含めた自動車の利用価値を見直し、人々の真の要求を満たすような総合的で高度な移動サービスを実現するための突破口を開かなければなりません」。
シュナイダー氏とのインタビューはここで終わっている。エネルギー問題について様々な分野で発想の転換を求めるシュナイダー氏の見解を読みながら、私は2011年1月号の雑誌「世界」(岩波書店発行)に載ったシュナイダー氏の「原子力のたそがれ」という記事を思い出していた。この記事は日本での講演が翻訳されたものだが、そのなかでシュナイダー氏は特に日本について次のように書いている。
私は、進行中のエネルギー革命の中で日本は取り残されていると、本当に思う。この革命はすでに起きているのだ。興味深いことに日本は、何十年も最先端を走っていた。その日本が、エネルギー部門で起きている根本的に決定的な発展状況について、置いてきぼりとなっている。原子力発電は、国際的なエネルギー分野で限定的な役割しか果たしていない。
一方、再生可能エネルギーは、今日すでに競争力を持っている。起きているのは中央集中型のトップダウンから分散型への動きだ。エネルギーの未来は、手頃な価格での分散型超高効率技術、スマートグリッド、マイクログリッド、そして持続可能な都市計画にある。原子力政策は、基本的にその逆だ。集中型で柔軟性に欠け、一般的に専制的アプローチを具現している。原子力エネルギー利用の継続は、持続可能なエネルギー政策の緊急の実施にとって、大きな障害となるだろう。
故高木仁三郎氏の盟友、マイケル・シュナイダー氏は、特に日本についてこう警告していたのだ。この警告が「世界」の記事として掲載されてから2ヶ月後、福島の原発事故が起こったことを私は思い起こす。なお、シュナーダー氏は、2月19日から28日まで日本を訪れ、CNICの日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策国際会議に参加するほか、京都、大阪で講演するということである。
参考:
http://webronza.asahi.com/science/articles/2016041000001.html
http://webronza.asahi.com/science/articles/2016072000003.html
ご存知かと思いますが、東芝が破産寸前となっています。3・11の後になっても、原発建設を生き残りの柱にするという方針を聞いたとき、素人感覚ながら、それはあり得ない、間違っていると思ったものです。3・11の前に買収したウェスチングハウス・エレクトリック(WH)がアメリカで建設中の原発のコストが想定をはるかに上回り、16年4月~12月期で7125億円の損失要因になって、アメリカの原発事業から、ここにきてようやく撤退する方針を出しました。現実を見据え、先を見通す力の著しい欠如のなせるわざですね。