脱原発後の責任問題決着

ツェルディック 野尻紘子 / 2017年1月8日

福島で原発事故が起きてからもうじき6年が経つ。ドイツは、福島の事故を契機に2022年末までに原子力発電所を完全に停止し、脱原発することを決定している。そして原発停止後の廃炉、解体及び廃棄物処理に関する責任を決める法律が昨年12月15日と16日に連邦議会と連邦参議院で可決されて成立した。法律の名称は「 核廃棄物処理の責任に関する新秩序法(Gesetz zur Neuordnung der Verantwortung in der kerntechnischen Entsorgung)」。4月に施行の見込みだ。

この法律は、昨年10月に連邦政府が提案した法案に基づいたもので、このサイトでも紹介しているが、以下のことを定めている。

① 原発停止後に、廃炉及び解体、核廃棄物を特別容器に格納して将来的にも密封する作業は、 原発を運営するエネルギー大手4社( E.ON、RWE、EmBW、ヴァッテンファル)の責任になる。4社はそのために以前から準備金として積み立てていた178億ユーロ(約2兆2784億円)を当てる。

② 核廃棄物処理の責任は政府に移転する。そのために、政府は核廃棄物の中間及び最終貯蔵場の場所探し、その建設、運営のために「核廃棄物処理費用の融資のための基金(Fonds zur Finanzierung der kerntechnischen Entsorgung)」を新設する。エネルギー大手4社は、この基金に2017年7月1日までに総額235億ユーロ(約3兆80億円)を払い込む。この内の174億ユーロ(約2兆2272億円)は、4社がその目的のために以前から準備金として整えていた金額で、残りの62億ユーロ(約7936億円)は、費用が見積もりよりさらに高くなるかもしれない場合に備えた”リスク付加金”だ。2026年までの分割払いも許されるが、その場合の利子は年間4.58%になる。払い込まれた金額が将来的に不足する場合には、ドイツ国家が出費する。

この法律が成立するに当たって最も重要だったのは、国とエネルギー大手4社が法廷での紛争に終止符を打つことだった。このため、エネルギー大手4社は国相手の訴え20件余りを撤回することが前提となった。それらの中には例えば、福島事故直後から約3ヶ月間、原発8基が急遽操業停止になったが、そのために発生した収入減に対する賠償金の支払いに関する訴えが含まれている。その他、最終処理場の候補地となっていたコンラード坑の適性調査に関する支払い命令に対する訴えなどもある。

残っている問題は2件のみで、その一つは、スウェーデンの企業であるヴァッテンファルが、ドイツ企業ではないためドイツの法律は適用されないだろうとして、ワシントンの国際投資紛争解決センター(ICSID)に、ドイツ政府が脱原発を早めたために損害を被ったとして損害賠償に関する仲裁を求めていることだ。この件に関して、同社はドイツ連邦憲法裁判所にも訴えを提出していたが、同裁判所は昨年12月6日、政府の脱原発は合法であるという判決を下している。ドイツ政府は現在、スウェーデン政府に仲裁願いを放棄するよう話し合いを進めていると報道されている。残り1件は、燃料棒税に関するものだが、これは脱原発とは無関係だとも言われている。

脱原発後の責任のあり方を決めたこの法律に対して、「電力会社は核のゴミに対する責任を完全に免除される」、「責任を取るのは結局我々国民だ」として批判する声も多い。だが、「何千万年にもわたって核廃棄物から発生する危険の管理を、政府の脱原発決定で現在特に弱体化している私企業に委ねるのは危ない」とする声も大きい。また、「エネルギー大手が原発に手を出したのは、1960〜1970年代にドイツ政府から強い要請があり、一部圧力もかかったからで、最終的に政府が廃棄物に関して責任を取るのはフェアだ」というコメントも多数聞かれる。

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