「クリーン・カウ・プロジェクト」でメタンガス削減
のどかな牧場で牧草を食べている牛がゲップをする度に、実はメタンガスを排出していることをご存知だろうか。牛は1頭当たり1日に500リットルものメタンガスを排出するという。メタンガスは、同じ量の二酸化炭素に比べて気候温暖化効果が20倍もあるとされる。そこで、地球を温暖化から守るために、牛のゲップを減らす「薬」、メタンガス・ブロッカーの開発が進んでいる。
ドイツの全国紙「フランクフルター・アルゲマイネ」によると、世界中で飼われている牛や羊、山羊の数は約35億頭 。彼らが排出するメタンガスは年間で1億トンになる。彼らが食べた牧草を消化するのは並大抵な仕事ではなく、瘤胃(反芻動物の第一胃)の中では多数の特殊バクテリアが牧草の分解の作業に当たっている。この作業の副産物がメタンガスなのだそうで、牛や羊はメタンガスをゲップとして体外に排出している。
メタンガス・ブロッカーの開発が最も進んでいるのはオランダの化学・医薬品会社DSMだ。ドイツ・マーブルグ市のマックス・プランク地上微生物学研究所で働いている微生物学者のルドルフ・タウアー氏の調査で、同社の開発した3−NOP (Molekül 3-Nitrooxipropanol)という家畜の飼料に添加される物質に、メタンガスの排出量を30%強も減らす効果のあることが証明されたのだ。この3−NOP には、牛の体内でメタンガスの発生を司る酵素の活動を抑える作用がある。しかも現時点で、この添加物には副作用がないように見受けられるという。DSMの「クリーン・カウ・プロジェクト」のリーダーであるマイク・キンダーマンさんは、「3−NOPは既にいくつかの農場で試験的に使用されたが、来年からは世界の数カ所で大規模な試験が始まる。その後、当局の許可を得て、2019年までには市場導入に漕ぎ着けたい」と述べている。この添加物は、牛1頭につき、1日1〜1.5グラムを飼料に混ぜて与えるだけで良いという。
関係者によると、今までにもいくつかのメタンガス・ブロッカーが試されている。しかし多くの場合、問題はその「薬」のために牛の食欲が減ってしまうことだという。 そうなると牛乳の量も減ってしまう。最近では特殊な海藻の例があった。タウアー氏は「3−NOPの長所は、牛の食欲に影響しないことと、牛の摂取する飼料の一部がメタンガスの生産のために使われないことだ」とも語る。食べた餌は直接牛乳の生産と体重の増加に繋がるという訳だ。
11月初めにマラケシュで行われた第22回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP22)でもメタンガス・ブロッカーについての研究発表があった。ドイツ人の創設だが現在はスイスで営業しているバイオテック会社ザルヴィダは、モートラル(Mootral)という物質を紹介した。ニンニクに含まれているエキスとオレンジの皮に含まれているエキスから作られる粉末で、これもメタンガスの発生を少なくとも30%減らすという。元々は10年前に英国のウエールズで開発され、その後いくつかの研究開発機関との協力で改善され、今までに何百頭もの牛に与えられ試されている。
モートラルは純粋な天然産物なので販売に当局の許可は必要ない。しかしネックとなるのは、3−NOPのような学術的証明がまだないことだ。それでもザルヴィダのマネージャー、ミヒャエル・マートレス氏は「来年にも市場導入したい」と言う。「牛の排出するメタンガスが効果的に減らせるということを政治家にも知ってもらいたい」という同氏の発言の裏には、粉末の購入にかかる牛一頭当たり年間約200〜300ユーロ(約3万円前後)の代金に対して、政府の税制面での優遇措置への期待が見え隠れする。そうすれば2、3年後には何百万頭もの牛にモートラルが投与できると同氏は考えているのだ。
なお、牛の排出するメタンガスの削減は、年間一人当たり60kg前後(ドイツ人)と言われる肉の消費を減らすことでも簡単にできる。そもそも、健康とされる肉の摂取量は約半分の30kg前後だ。