オーストリアが提案する 「エネルギー転換議定書」
「オーストリアの環境相が、ドイツの“間違った“エネルギー転換に対する同盟を作ろうとしている」という、どっきりするような見出しをネットで見つけました。いったいどういうことなのでしょうか。
このネット記事の元になっている10月8日発売のシュピーゲル誌プリント版を開いてみると、「ドイツのエネルギー転換は、オーストリアと他の欧州各国のエネルギー転換を困難にしている」という、オーストリア環境相のアンドレ・ルプレヒター氏の発言が載っています。同氏は「ドイツが作りすぎる安い電気を、オーストリアのような国々が受け入れなければならなくなっている。現在の取引価格では、水力発電や風力発電は国の補助なしで競争できない」と続け、「ドイツのエネルギー転換の方向は間違っている」と批判しています。
例えば2015年11月17日と18日に北ドイツで時速170kmの強風が吹いた際には、ベルリン市の電気需要の20日分もの電気が作られてしまい、しかも同時に石炭・褐炭発電所もそのまま稼働していたため、余剰電気がいっきに隣国の送電網に流れてしまいました。
ルプレヒター氏が問題視しているのは、ドイツのエネルギー転換そのものではなく、エネルギー転換を目指して再生可能エネルギーを促進すると言いながら、ドイツの石炭•褐炭発電がまだ42%もあること、そのせいで隣国のエネルギー転換が進まないことのようです。「ドイツは石炭・褐炭発電をやめなければならない。それもかなり早く」と訴えています。
さらにルプレヒター氏は、EU内で石炭・褐炭発電を減らすために、CO2排出に対して高い税金を課することを定める「エネルギー転換議定書」という17ページの契約案を持って欧州各国を訪問し、これを欧州連合基本条約に組み込むことに理解を求めているそうです。EU全体で再生可能エネルギーの研究、促進、投資を強化することも盛り込まれており、オーストリアがEUの議長国になる2018年までに、さらなる詳細を決めるそうです。
ただ、欧州のエネルギー政策はまだ各国の問題であるため、実現は難しいと見られています。今のところオーストリア、ルクセンブルク、オランダ、クロアチア、ギリシア、イタリアとドイツ環境省が賛成していますが、これからポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーを説得しなければならず、特にポーランドは欧州で一番、石炭・褐炭発電に頼っている国のため、CO2税の導入には当然反対であることが見込まれます。
ちなみにドイツとポーランド、チェコとの国境では、ドイツから流れてくる電気を管理するため、現在、大規模な移相変圧器が取り付けられているところです。