2050年の独電力需要、100%再生可能電力で供給可能
ドイツが今年6月、脱原発を決定した。そして世界は、ドイツがはたして脱原発に成功するかどうかを、見守っている。
「ドイツは2050年までに国内の電力需要を完全に再生可能エネルギーでカバーできる」とする研究結果を発表したのは、ドイツ連邦環境庁 (Umweltbundesamt) のヨッヘン・フラスバート (Jochen Flasbarth) 長官。既に1年前の2010年7月のことだ。その直前に、ドイツ環境問題専門家委員会 (Sachverständigenrat für Umweltfragen) と再生可能エネルギー研究連合 (Forschungsverbund Erneuerbarer Energien) もそのことが技術的に可能だという判断を下している。
環境庁は、2050年のドイツの電力需用量を506テラワット時と見ている。それに対し、2050年にドイツ国内で供給可能となる電力は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス発電などの潜在能力を十分に活用した場合687テラワット時と予測している。従って、この発電値が達成できれは、原子力発電は無くて良い。電力の輸入も必要としない。
では、この発電量を達成するためには、どのようなことをしなければならないのだろうか。環境庁はまず、その前提として、2009年にキリスト教民主・社会同盟 (CDU/CSU) と自由民主党 (FDP) が連立政権設立条約で取り決めた地球温暖化ガスの削減目標値 − 1990年比で2020年までに40%減、2050年までには80−90%減 − を守ることが必要だとする。この目標値は、電力供給を100%再生可能エネルギーに切り替えた時のみに達成できるからだ。
環境庁と環境問題専門家委員会、再生可能エネルギー研究連合はともに、電力供給網の改善、新しい電力貯蔵法の開拓、電力の高効率利用を挙げている。
再生可能な自然エネルギーの発電は天候などによって左右され、常時同量の電力を生産することは不可能だ。そこで、変動する電力供給量に対応できるスマートグリットと呼ばれる新しい電力網などを導入する必要がある。スマートグリットは、デジタル機器を統合しているので、通信能力や演算能力を持ち、電力の需給を自動的に調整することができ、省エネやコスト削減、電力網の信頼性の向上に役立つ。
また、再生可能なエネルギーは北ドイツで多く生産される。しかし、電力需要の多いのは南ドイツだ。このため、北から南への新しい送電線も建設されなければならない。さらに、電力供給量が豊富なのに需要量が少ない時には料金を下げ、逆に供給量が少ないが需要量が多い時には料金を上げるなどして、消費者がいつ電力を使うかにより異なる電力料金を提供することで、消費時間を分散させることも考えられる。
新しい電力貯蔵法としては、余剰電力で電気ポンプを稼働させ、下方にある溜め池から高い位置にある溜め池に水を汲み上げ、必要に応じて、汲み上げた水を使って発電を行う揚水発電所がある。環境庁が国内の既存及び計画中の揚水発電所の利用を考えているのに対し、環境問題専門家委員会はスウェーデンやノルウエーとの電力網連合を通し、有利な地形の存在する北欧での揚水発電所の共同開発・建設を考慮している。余剰電力で水を電気分解し水素を取り出したり、その水素と二酸化炭素を結合させて合成メタンに変換することも可能である。その場合、できた気体をタンクに貯めることができる。再生可能エネルギー研究連合は、気体を既存のガス導管に送り込む可能性もあるとしている。
環境庁のフラスバート長官は、ドイツの電力需要を全て再生可能電力でカバーするためには、ドイツの4大電力企業の寡占を打ち壊し、分散型発電を通し市場に競争を導入することが大切だと言う。そして「正当な投資をするためには、早い時期に正しい決定を下すことが重要だ」と既に1年前に語っていた。脱原発を決定したドイツは、2050年に国内電力需要を100%再生可能電力で供給するということに、一歩近づいたといえる。