持続可能性 - 逆転したギリシャと日本

あきこ / 2015年8月2日

 

私たちのサイトの重要なキーワードの一つが「持続可能性」である。『大辞林』によると、持続可能性とは、「生物資源(特に森林や水産資源)の長期的に維持可能な利用条件を満たすこと。広義には、自然資源消費や環境汚染が適正に管理され、経済活動や福祉の水準が長期的に維持可能なことをいう。サステイナビリティー」となっている。今回の持続可能性の話は、資源や環境やエネルギーに関することではない。年金制度の持続性についてである。

 

ドイツ連邦議会は7月17日、ギリシャへの第3次金融支援に関する交渉の開始を賛成多数で承認した。ドイツでは連日、ギリシャの財政破綻、EUの首脳や財務相の会談、グレグジット(ギリシャのユーロ圏離脱)が起きるのかなどが、新聞、ラジオ、テレビのトップニュースとして報じられていた。私は経済や財政のことはさっぱりわからないので、ギリシャの財政破綻の原因、実情、ユーロ圏との関係についてここで触れるつもりはない。ただ、ベルリンの日刊新聞「ターゲスシュピーゲル」の社説を読んで驚いたのは、「2002年以降、ギリシャでは100ユーロの歳入に対して、130ユーロの歳出があった。歳入と歳出の計算はこんなに簡単なことだ。しかし、政府はこれを一般市民に隠ぺいしてきた」というくだりであった。

ところで、日本はどうだろうか。歳出と歳入について、政府が国民に隠してきたのだろうか。不安になったので、省庁のホームページを探してみた。すると国税庁のホームページにはわかりやすい表があり、そこには「平成27年(2015年)度の国の財政を1か月の家計(収入40万円)にたとえると、毎月借金を約16万 円返済する一方で、新たに約25万円の借金をしていることになります」と書かれている。財務省のホームページにも、いかに日本の借金が多いかが図示されている。日本経済新聞によると、2015年3月末の時点で日本では国民一人当たり約830万円の借金を抱えているという。

この数字だけでも十分に怖いと思うのだが、日本独自の通貨、国債は日本人が買っているというので問題はないらしい。私にはよくわからないが、「日本の借金は、ギリシャと違って日本経済を破綻に導くことはない」というのが日本の専門家たちの主張のようだ。それはともかく、ミュンヘンに本社を置く世界最大手の保険会社アリアンツ社が発表した、世界50カ国を対象とした「年金制度の持続可能性の世界ランキング」を見て驚いた。このランキングは3年に一度発表され、私が見たのは2014年4月1日のものである。日本はタイ、ブラジルに次いでランキングの最下位から3つ目に位置している。2011年には最下位だったギリシャが6つランクを上げているのだ。ギリシャが日本を逆転!

このランキングを作成したアリアンツ社は、2014年の調査には驚くべき変化があったとしている。「タイ、ブラジル、日本の年金制度は最も持続可能性が低く、オーストラリア、スウェーデン、ニュージーランド、さらにはノルウェー、オランダ、デンマークが高位にある」が、この調査を担当した同社のシニアエコノミストのレナーテ・フィンケ女史は「上位ランキングにある国は、現状と将来の人口動態の変化に耐えうる年金システムを持っている。下位にある国々については、なぜ下位に甘んじているか、その理由を区別して見る必要がある」と述べている。そして、日本が下から3番目にランクされた理由として、高齢化社会と国の高額に上る借金を挙げている。それに対して、ギリシャは2011年の調査時に比べ、年金制度を劇的に改革した結果、6つランクを上げたと分析している。ギリシャは今後も年金制度を厳しく見守る必要があるだろうというのが2014年、この調査時の見通しである。第3次金融支援を受ける条件として、ギリシャは年金改革を含む財政改革を7月中旬に国会で議決した。ちなみにドイツは第25位となっている。次のアリアンツ社のランキング調査で、ギリシャ、そして日本の地位はどうなっているだろうか。それにしても持続可能性の低い年金制度というのは、若者や子どもたちには将来、年金が保証されないということなのか。

ドイツでは連邦議会が夏休みに入って以来、ドイツの夜のニュースは外国での出来事が多く取り上げられている。日本に関して言えば、安保法案の強行採決と、飯舘村を含む福島県内の避難指示区域のうち、2017年3月までに「帰還困難区域」を除いて避難指示を解除するという政府の方針と、それに反対するグリーンピースの活動が報じられた。もし私が日本人でなく普通のドイツ人なら、これらのニュースを見、さらにアリアンツ社のランキングとその分析を読めば、「ギリシャは問題解決に動いているが、日本は大丈夫?」と思うのではないだろうか。

チェルノブイリ事故から20年を経た2006年4月、ゴルバチョフソ連元大統領は「ソ連の崩壊の真の原因は、私が始めたペレストロイカではなく、チェルノブイリ事故だというのが真実に近い」と書いている。福島事故が起きた日本の20年後はどうなっているのだろうか。「ソ連と日本は違う。だから日本は大丈夫」と言って済ませることができるのだろうか。安倍首相は東京オリンピック招致に際して、「福島はアンダーコントロール」と世界に宣言したが、汚染水の問題、メルトダウンした核燃料がどこにあるのかわからないなど、どう考えても福島原発事故は収束していない。それどころか、現在も進行中だ。年金制度の持続可能性の不安より、日本という国自体の持続可能性に不安を感じるのは考え過ぎだろうか。

 

Comments are closed.