メルケル首相の「ドイツ語の授業」

まる / 2015年3月22日

メルケル首相が東京の浜離宮朝日ホールで行った講演について、「安倍首相のためのドイツ語授業のようだった」という見出しを付けたのは3月9日のフランクフルター•アルゲマイネ新聞(FAZ)です。

同紙は「日本人はドイツ人よりも、行間を読むことに慣れている」、「今回の訪日でメルケル首相は常に控えめだった」とし、メルケル首相が「助言をしに日本へ来たわけではない」と言いながらも、安倍首相の歴史感を牽制し、過去と向き合うよう、やわらかく促したことを、安倍首相を含める日本人は理解したであろうと推測しています。

第2次世界大戦中のおぞましい行為を否定して、アグレッシブな国粋主義的な発言をすること、安倍首相周辺の者たちの多くが歴史修正主義者であることにより、日本と東アジアの隣国、韓国と中国との緊張は高まっている。両国政府は、ナショナリストの安倍首相に対し、日本が凶暴な占領時代に対する責任をなかったものとしようとしていると批判している。しかしメルケルは中国と韓国のスポークスマンになったわけでもない。その逆に「欧州におけるかつての敵同士が再び歩み寄ることは、ドイツに侵略された国々に和解の用意がなかったら不可能であった」と言った。「少し歩み寄ろうではないかと言い出した偉大な個人たちがいました」と。

戦後70周年記念に向けての声明で、それをメルケル首相が安倍首相には求めることはないだろう。自らも認めるナショナリストである安倍首相の下、日本の戦争責任は教科書でゆがめられて解釈され、政府の著名政治家たちは、20万人の少女と女性、特に朝鮮人女性が連行されて日本軍の前線で強制売春させられたことを否定しており、安倍首相は東アジアでの和解の先駆者になりそうにない。しかし安倍首相が終戦70周年記念の基本声明を、彼の国粋的アジェンダを進めるために利用しないだけでも、大きな意味がある。メルケル首相は朝日ホールでの講演の中で、「関係諸国がそれぞれ自分の国の過去に向き合った時だけ、和解は可能」になると言っていた。

メルケル首相の講演の場所も政治的なシグナルであり、日本の外務省が喜ぶ選択ではなかった。日本政府周辺では、メルケル首相の来日前に、講演会場についてはドイツ側が決めたと言っていた。「よりによってそこでなければいけないのか?」とドイツ側は聞かれたらしい。しかしメルケル首相の講演は日本にとって重要だった。日本の市民は、日本政府の歴史修正主義がどれだけ日本を孤立させる恐れがあるかを、ほとんど意識していないのであるから。

フランクフルター•アルゲマイネ新聞は他にも別の記事で、「メルケル首相、脱原発をアピール」という記事を掲載しました。メルケル首相が「私にとって福島は人生を変える出来事でした。というのは、福島原発事故は、技術的に高いクオリティーを持った国で起きたからです」とドイツの脱原発とエネルギー転換決定へのいきさつについて話をし、現在のドイツのエネルギー政策の主な目標が、断熱などによりエネルギー効率を上げることで、エネルギー技術に関しては「日本とドイツがお互いから学べることが沢山ある」と語ったことを伝えています。メルケル首相は「自分も長い間原発に固執してきた、多くの政治家にとっては長過ぎるくらい」という、安倍首相を意識したとも考えられる一言も付け加えたそうです。同紙は、「日本政府は国民の大多数が反対しているにもかかわらず、間もなく原発を再稼働するつもりだ。48基のうち4基に、再稼働のゴーサインが出ている」と説明しています。

 

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