ドイツ市民は脱原発をどう思っているのだろうか

ツェルディック 野尻紘子 / 2011年10月15日

ドイツ政府と議会は、福島の原発事故を契機に、原発から撤退することを早々と決定したが、同国の市民は脱原発及びそれに伴う変化をどう考えているのだろうか。電気料金の値上がりや、各地に新しい発電所が建ったり、高圧送電線が近所を通過することは避けられないとされている。

まず、政府と議会が2022年までの段階的な脱原発を決定した直後の6月に、ドイツの公共放送第一テレビ(ARD)がインフラテスト・ディマプ社にさせた「トレンド調査」で、同決定を正しいとした市民は97%で、ほとんど全ての市民がこの政策を支持していることが分かる。2022年という時期に対しても、良いとした市民が44%いた。遅過ぎとした市民は31%で、早過ぎとした市民18%を大いに上回った。

同調査では、発電用の風車が家の近くに建設されたり高圧送電線が近所を通ったりすることを仕方ないとした市民が71%もいた。以前には、風車は景観を損なえたり自然、特に渡り鳥などの害になるという意見が多かったし、送電線に関しては、健康に害があるとまで言われていたので、少々驚く値だった。

8月にTNSインフラテスト社が行った世論調査でも、再生可能な発電装置が自分の住む地域に設置されることに賛成するとした市民が65%いた。受け入れに一番抵抗の少ないのがソーラーパークで同意76%。風車60%、バイオマス装置36%と続く。しかし、ガス火力発電所の新設に同意する市民は22%、石炭火力発電所は9%と少なく、原子力発電所新設への同意は僅か3%しかない。

9月に発表されたアレンスバッハ世論調査研究所の調査も、TNSインフラテスト社の調査と似た様な結果を示している。市民の60%は安全な電力供給を重要としてはいるが、自分の住む地域でのガス火力発電所の新設に対しては51%が、石炭火力発電所新設には81%が反対している。この調査では、自分の住む地域に高圧送電線が通ることに対しても、51%が反対している。同研究所は、脱原発は大きな問題に直面していると結論している。

一方、電気料金の値上がりに関して、ARDのトレンド調査では市民の65%が、原発以外の電力に対してなら、より高い料金を払う用意があるとした。現在ドイツの電気料金は1kWh当たり約0.25ユーロ(約27円)で、その内の0.0353ユーロが再生可能エネルギー促進のために支払われている。TNSインフラテストの調査によると、この促進価格に対する市民の意見は、54%が適切、25%が低過ぎで、高過ぎは16%に留まった。しかし、世論調査会社フォルザが5月に週刊誌「フォークス」のために行った調査では、市民の38%が、どこの電力を使うかは価格次第とし、原発による電力が一番安いなら、それを購入すると答えている。

ドイツでは、再生可能エネルギーの増加や既に計画されている大型火力発電装置などを考慮しても、原発(発電容量は20ギガワット)の完全撤退までに、さらに約8ギガワット程度の発電能力が必要になると見る関係者が多く、このギャップが埋められるのは大規模火力発電装置だとされる。また、再生可能エネルギーは北ドイツで多く生産されるが、電力使用量の多いのは南ドイツで、北から南への送電を可能にする380キロボルトという高圧の送電線が約3600キロメートル必要になると言われている。

 

 

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