捨てた家電製品はいったいどこへ?くずを追え その2    

やま / 2014年10月26日

container hafen hamburg 1リベリアの国旗を掲げ、商船三井の船Buxlink丸に積まれてテレビはアフリカへ。ドイツでは輸出禁止となっている家電廃棄物がどのルートを通るのか?だれがこのグローバルビジネスで儲けているのか。ドイツのジャーナリストグループ「Follow the Money」のレポート、その2をご紹介します。

我々はF.M.サバーにもう一度電話をかける。「ビルシュトラーセ」にいた男たちとは違い、彼は快く応じてくれる。

F.M.サバーは42歳、出身はエジプトだ。16年前にドイツに来たそうだ。ドイツ人女性と知り合い、結婚した。主に引越し業者として生活していると話す。「でも、家で仕事が入ってくるのを待つよりも、こうやってテレビを回収したほうがましだと思います」。テレビ一台につき2~3ユーロを仲介人は彼に支払うと言う。

くずだと思っていたテレビに価値がある。ただ、数キロメートル離れた「ビルシュトラーセ」へ運べばいいのだ。

次の日、再びシグナルを受信する。テレビは「ビルシュトラーセ」沿いを動き、F.M.サバーが運んだ道へ戻る。そして南方へ向かう。誰かが仲介業者から買い取ったに違いない。

ある仲介業者から聞いた話だが、「ビルシュトラーセ」でのブラウン管テレビの相場は約5ユーロだそうだ。となると、テレビの価値が「ビルシュトラーセ」で約2倍になったことになる。誰が買ったのだろうか?どこへ運ばれたのだろうか?

「ビルシュトラーセ」からおよそ10km離れたところで、携帯に示された点が止まる。我々のテレビの新しい位置:ハンブルグのヴィルヘルムブルグ地区、ローテンホイザー・エンデ

前日のような倉庫が並ぶ線路沿いを走る。突き当たりに柵があって行き止まりだ。1ダース(12個)足らずの大型コンテナが視線を遮る。人の気配はない。

突然、アフリカ人が1人、柵の隙間から敷地を去る。その後をもう1人。何をしているのかと聞いてみる。
「アフリカ行きのコンテナの荷詰めをしています」
「荷は何ですか?」
「ありとあらゆる物です」
「たとえばテレビも?」
「テレビ、自動車、手に入れたものなら何でも」
彼は歩き続ける。そして次の角を曲がり、姿は消える。

我々は敷地内へ入ってみる。廃タイヤがごろごろ置いてあり、その横には古い冷蔵庫がある。最初の大型コンテナの横を通るか通らないかで、数人のアフリカ人が現れ、声をかける。又もや、何をしているのかと聞かれる。今回は中古の冷蔵庫を探しているとは言えない。ここには売り物がないからだ。道を迷ったとごまかし、車へ戻る。

その後しばらくして付近へ戻った我々は、敷地の横からビデオカメラを設置した小型無人飛行体を飛ばす。上空から見る:さっき見えた大型コンテナの後ろには、更に数十個のコンテナが置かれている。なかには世界大手の海運会社の名前が表示されている。デンマークのマースクライン社、スイスのMSC社、フランスのCMA CGM社。敷地の持ち主は誰か?ここには持ち主を指す表示板がない。後で調べてみると、敷地の所有者はドイツ鉄道だということが分かった。ドイツ鉄道は敷地をドイツTWS社に貸している。ドイツTWS社はオランダの物流会社であるVan Uden社の子会社だ。Van Uden社はオランダの大手通関業者でもある。ロッテルダム港とアントワープ港から出荷されるコンテナ6個のひとつはこの通関会社が扱っているそうだ。

3日目に、ローテンホイザー・エンデにある敷地から、テレビが短期間に3度もシグナルを送信する:10時58分、10時59分と11時1分。通常は数時間ごとにしか送信ができないように設置されている。例外は:テレビが何かの動きをキャッチしている証拠だ。しかし、経度と緯度がほぼ変わらない。我々の推測では:テレビは敷地内で積み替えられているようだ。テレビは、TWS社の収集コンテナから、海運会社所有のコンテナに詰まれて、その後貨物船へ積み込まれるのだろう。

それから:何も起こらない。テレビはコンテナの中だ。扉が閉まっている間は送信できない。4日、5日、10日と経っていく。

待ち時間を利用して、ドイツTWS社に問い合わせてみる。社は始めは協力的な姿勢で敷地の案内もすると答える。親会社と打ち合わせした後、申し出を断ってくる。ジャーナリストが敷地にいると分かれば、アフリカの顧客が煙たがるだろうという心配からだ。しかしインタビューには応えるとのことだ。

TWS社のドイツ支部に勤める従業員は4人。その1人であるL.A.氏に会う。オフィスには小さな木製のキリンがおいてある。彼の事務用机の背後には親会社Van Uden社のポスターが貼ってある。「Cheep Shipment to all African Coutries」(格安なアフリカ諸国への海上運送)と書かれている。

TWS社のホームページにあるL.A.氏の名前には括弧されてエディー(Eddy)と書いてある。短いヤギ髭を生やしたエディーは縞柄のワイシャツを着ている。彼は37歳でナイジェリアの出身だ。

TWS社の敷地内でドイツの家電廃棄物が荷詰められていないか?そして輸出は違法ではないかと我々は尋ねる。
「違法な家電廃棄物というのはどういうことですか?」
彼の言葉は「お前たちは何もわかっていない」と言っているようだ。

そして彼は説明する。L.A.氏はラゴスで育った。ナイジェリアの最大都市だ。父親はある両替所で働いていた。母親は市場で衣類を売っていた。彼がまだ子供のころ、ある日、両親が古いテレビを家に持ち帰った。もちろんヨーロッパから着いたものだ。故障していたかもしれないが、それがどうだというのだ。アフリカでは修理代は問題ない。ヨーロッパで故障した物はアフリカで修理され、再利用される。壊れて、どうしようもなくなるまで使う。

違法な廃棄物?古い家電機器がヨーロッパから送られてこなかったら、何百万人のアフリカの人々はテレビを見ることができないのではないかと、エディーは思う。子供のころ中古のテレビでヨーロッパで制作された連続ドラマを見た。時には「デリック(ドイツのシリーズ物、1973~1997年放映)」も放送された。

もちろん、エディーはドイツの法律事情を知っている。我々が敷地内で見たアフリカ人たちは社の顧客で、輸出業者だ。彼らには説明書を渡してある。そこには、何が許可され、何が禁止されているか記されている。新製品でも、中古品でも、テレビは動けば輸出できる。輸出禁止は壊れた物だけだ。

業者が説明書を読み、法律に従っているかはエディーは点検しない。それはドイツの税関の仕事だ。コンテナの荷を検査するのは税関の役目だ。

時々、エディーもコンテナを故郷へ送ることがある。「それができて助かる」と彼は言う。もちろん送る家電機器は全て動く。

12日後。15日後。テレビから送信がない。そして18日目、18時44分、突然シグナルを受信する。テレビが動いている。携帯に現れる点はTWS社の敷地を去り、西へ移動している。テレビは今ハンブルグ港のど真中にある。多分これから貨物船に積まれるのだろう。

だれがテレビを買い取り、コンテナに荷詰めしたのか、まだ分からない。確かなのは:買い手は「ビルシュトラーセ」に置いてあったくずにおよそ5ユーロを支払ったことだ。更に買い手はTWS社に輸送を頼んでいる。エディーの話だと顧客は普通「完全パッケージ」を申し込む。コンテナ利用料金とアフリカへの海上輸送料金:合計2000ユーロ足らず。多額だ。その反面:1個のコンテナの中にテレビが900台入る。となると輸送料は1台に付き2.2ユーロだ。

我々のテレビが位置するコンテナターミナルはHHLA社とハパックロイド社が所有するものだ。(どちらもドイツの大手海運企業)年間コンテナ取扱量が数百万個に及ぶ。毎週日曜日に北ヨーロッパ━西アフリカ線が離岸する。例えばBuxlink丸、青い12年ほどたった中古船だ。全長207メートル、リベリアの国旗を掲げ、運航は日本の商船三井だ。

テレビがハンブルグ港に着いた直後にBuxlink丸は港に入る。巨大なクレーンが何時間もかけてコンテナを船に積む。岸壁沿いを無人輸送車が風を切るように走る。

既に翌日Buxlink丸は出航する。コンテナ船を2隻のタグボートが引き、エルベ川を下る。赤、黄、白、青、茶色の積み木のようなコンテナが船に積まれている。どこかこの中にテレビは詰まれている。

いったいどこで荷下ろしされるのか。

fahrt設置したGPSは船から送信できない。何個も重なるコンテナの厚い鉄壁により位置測定は不可能だ。テレビが上陸したら再受信できるだろう。ウェブサイトVesselFinder.comを通じてBuxlink丸のコースをリアルタイムに追うことができる。

ハンブルグ港を去って1日後、Buxlink丸はアントワープに入港する。その後ドーバー海峡を横断し、フランス、スペインを回りカナリア諸島を通り過ぎる。2週間足らずでBuxlink丸はセネガルの首都であるダカールに入港する。テレビからは送信がない。F.M. サバーがテレビを取りに来てから41日後、我々はシグナルを受信した。

経度;0.003700.
緯度;5.627185

リンクをクリックすると位置が携帯にインストールされた地図に現れる。最初に見えるのは赤い点、その横には青い海とアフリカ西海岸の地形が見える。ズームアップしてみると:テレビはテマ港に下ろされた。ハンブルグから5400キロメートル離れたガーナの首都アクラにある港だ。テレビは実際そこアフリカにある。

これは通常なルートなのか?もしハンブルグ港が近くになければ、テレビはアフリカへ海上輸送されなかったのでは?アフリカ出身のサバーに、もし回収を頼まなかったら?彼のような回収業者に家電機器を取りに来てもらうことは、簡単で別に違法でもない。しかし、F.M. サバーはドイツの廃棄物再利用システムには属していない。公式なシステムでは、電気メーカーに家電機器の回収と処理が義務付けられている。それはソニー、サムスン、シーメンス、アップル、または東芝といった大手電気メーカーだ。

古いテレビは自治体の廃棄物回収所が無料で引き取ってくれる。電機メーカーがそこから回収して環境に害のないように処理する。電気メーカーは外部の下請け業者に処理を任せても良い。

そこで、我々は2台目の古いテレビのコードを切り、動かないようにする。このテレビにもGPS送信機を設置して、ハンブルグ市からおよそ60km離れたノイミュンスターにある、市営の廃棄物回収所に持っていく。そこにはテレビとモニター専用のコンテナが置いてある。この整備は実にドイツらしい。

我々はアクラに着陸する。首都アクラの人口は約230万人。ほとんど高層ビルは見られない。クラクションがあらゆる所で鳴っている。子供たちが物乞いをしている。道路を湿気の高い熱が覆っている。

港へ行く前にマイク・アナネに会う。50歳のガーナ人ジャーナリストだ。10年ほど前に、何百台ものテレビが詰められたコンテナを目にした。それ以来、彼は家電廃棄物について調べている。

毎月約500個のコンテナがガーナに着くとアナネは話す。クリスマス前後になるとその数が1000個に増える。多分その期間にヨーロッパでは新しい家電機器が購入され、いらなくなった古い家電機器を捨てるのだろう。テレビ、モニター、電気コンロ、DVDプレーヤー、携帯、ラップ・トップと冷蔵庫、その1部だけがガーナに残る。大半は更に他の地域へ輸送される。ガーナはナイジェリアと並び家電廃棄物の拠点と言える。

GPSのシグナルによりテレビがまだテマ港にあることが分かる。港へ行く途中に、長いトラックの行列の横を通る。アカシアの木陰で昼寝をする運転手もいる。ヨーロッパから送られてくる中古家電を運送できるのを待っている、と一人が話す。トラックの運転手は月に約820ガーナ・セディ(約180ユーロ)を稼ぐことができる。

テレビがあるコンテナ・ターミナルの名前はゴールデン・ジュビリーだ。積まれた多数のコンテナと柵がまたもや見える。その前にグリーンの制服を着たサングラスの男たちが立っている。

コンテナは21日間だけ無料でコンテナターミナルに置けると港の管理局から聞く。以後は1日に付き換算して50ユーロほどの料金が掛かる。Buxlink丸の荷は既に2日オーバーしている。我々の輸入業者はのんびりている。

テレビの動きがないので、首都アクラにある家電機器廃棄物の中央取引広場へ戻る。扉が開いた、ブラウン管テレビでいっぱいのコンテナが路上に置いてある。スクリーンが割れているテレビも、一見して故障原因が分からないテレビもある。

輸入業者はじかにコンテナからテレビを売る。仲買人たちは到着商品の間を見て回る。数時間後、コンテナは空になる。たいていの仲買人は、テレビが動くか、動かないかも調べずに、3台、5台、または10台も一度に買う。「宝くじのようなものです」とマイク・アナネは言う。運の良い仲買人はまだ動くテレビを購入し、直ぐに売ることができる。故障したテレビは修理しなければならない。

ガーナ着4日目、我々のテレビはゴールデン・ジュビリーから動いていない。その日にドイツからSMSを受ける。内容は:TWS社がハンブルグからテマに送った7個のコンテナの番号だ。実名を秘密にしなければならない人物がドイツから情報を提供してくれた。続く

原文:
ZEIT ONLINE, Wirtschaft, Elektroschrott,” Auf der Jagd nach dem Schrott“, von Carolyn Braun, Marcus Pfeil, Felix Rohrbeck, Christian Salewski

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