休暇と再生可能エネルギー
ドイツでは州ごとに夏休みの期間が決まっている。最後に夏休みを取るバイエルン州の休暇が終わって、やや季節外れの感があるが、ドイツにおける休暇と再生可能エネルギーについての調査結果が発表された。エネルギー転換を推進するには再生可能エネルギーによる電力生産が大きな役割を果たすが、巨大な風車や太陽光パネルが並ぶメガソーラーは、美しい風景の魅力を奪うのではないかと心配されている。
ドイツでは休暇は仕事のストレスからの解放と気分転換として、「取るべきもの」とされている。数日間ではなく、短くても1週間、長ければ2週間から3週間の長期休暇を取る。一つの職場全員が同時に長期休暇を取る場合もあるが、6月下旬から8月にかけて、交代で休暇に出かける人が多くなる。休暇が終われば、来年はどこで休暇を過ごそうかと計画を練り始めるほどである。
このように休暇が大切なドイツで、休暇を過ごす場所を選ぶ基準の一つが豊かな自然や美しい風景である。多くの地方自治体の長や観光業に携わる人たちは、この大自然の風景の中に設置された風力発電のための風車や太陽光パネルが、休暇に訪れる人々にマイナスのイメージを与えるのではないかと危惧している。ところが、最近発表されたキールの「北部ヨーロッパ観光・保養研究所 (NIT、Insitut fuer Tourismus und Baederforschung in Nordeuropa) によると、再生可能エネルギーにはプラスのイメージがあり、気候保護がツーリズムの考え方に変化をもたらしているという。実際、いくつかの世論調査も、これらの自然エネルギー生産施設が休暇の目的地を決める際にポジティブな要因になっていることを示している。ドイツでは再生可能エネルギーを‟売り”にする保養地が多くなっている。
ザウアーラントはノルトライン・ヴェストファーレン州南部とヘッセン州北部にまたがる丘陵地で、ルール地方の人々の格好の保養地となっており、観光が大きな地位を占めている。このザウアーラントにあるシュマレンベルグ市は人口2万5千弱、かつては繊維産業が栄えていたが、今ではストッキングの生産が主で、それ以外は林業と観光が市の主要産業となっている。シュマレンベルグ市の年間電力消費量は117GWhで、この25%が再生可能エネルギーで賄われている。この数字はドイツの平均に相当する。最大のエネルギー源はバイオマスと太陽光である。バイオマスと木材はエネルギー源としてすでに最大限活用されているが、風力エネルギーには大きな可能性がある。風力発電ができれば、シュマレンベルグ市は再生可能エネルギーで電力の自給自足ができると予測している。
シュマレンベルグ市が観光産業の目玉にしているのが、なだらかな丘陵地帯約30キロメートルにわたる「再生可能エネルギーツアー」と名付けられたサイクリングロードである。サイクリングロードに16の「停留所」があり、水力、太陽熱、太陽光、環境中の熱のやり取りを行うヒートポンプ、木材、バイオマスなど、再生可能エネルギーによる電力や熱の生産についての情報パネルが設置されている。このサイクリングロードを実際に走行したノルトライン・ヴェストファーレン州のヨハネス・レンメル環境相は、「複雑な専門用語ではなく、実際の生活に即してわかりやすく説明されている」と評価している。
このシュマレンベルグ市の再生可能エネルギーツアーについて、同市の気候保護担当のヘルムート・ヘンチェル氏は「すべての再生可能エネルギーのテクノロジーを紹介しているのは、ドイツでもここシュマレンベルグだけだ。とくに環境中の熱の利用などはあまり知られていないものも取り上げている」と胸を張る。
ヘンチェル氏によると、すでに日本からの視察団がシュマレンベルグ市を訪れたという。同市に限らず、自治体の気候保護のコンセプトが「環境にやさしい」ツーリズムと一緒になって、休暇に訪れる人々に対して持続可能な行動への意識を高めている。ちなみに、ドイツの有名なガイドブックを出版しているベデカー社では、今年3月に「ドイツ - 再生可能エネルギー体験ツアー (Deutschland – Erneuerbare Energien erleben)」の改訂版を出版した。このガイドブックでは、気候保護や再生可能エネルギーについてドイツの自治体ごとの取組みが紹介されている。このガイドブックを頼りに旅すれば、ドイツの新たな魅力が発見できそうだ。