チャンピオンスリーグ、夜空に舞い降りて来た環境アクティビスト

まる / 2013年10月20日
夜空からアクティビストが……

夜空からアクティビストが……

10月1日に行われたサッカー欧州チャンピオンスリーグのバーゼル対シャルケ戦。試合が始まって4分ほど経ったころ、突如スタジアムの屋根からオレンジ色の作業服とヘルメットを身につけた男達が、ロープをつたってするすると降りて来た。この不思議な光景を見られた方は日本にも多くいたことでしょう。まったく不意なこの“ハプニング”に、会場は騒然というか唖然。試合が中断され、両チームの選手達も「何ごとか」と息を呑みながら屋根からぶら下がる男達の動きを見守っている。すると男達は、幅30メートル程もある黄色い横断幕を空中に掲げてみせた。そこには「ガスプロム、北極にファウルするな」と英語で書いてあった。

ガスプロムとは、ロシアの半国営エネルギー会社。ブンデスリーガのクラブ、シャルケのメインスポンサーであり、欧州サッカー連盟(UEFA)、つまりチャンピオンスリーグ主催者のスポンサーでもある。シャルケのスポンサーになった背景には、ドイツ元首相ゲアハルト•シュレーダー(任期1998−2005年)とロシアのプーチン大統領の“男の友情”があったとか、ガスプロムは西欧市場進出の足かけとしてドイツでのイメージアップを狙っているだとか、なにかと話題になった。そのガスプロムが北極で何か“まずいこと”を行おうとしているらしいことは横断幕を見てすぐに分かったが、実際何をしようとしているのかは、私はお恥ずかしながら知らなかった。

さっそくネットで検索してみると、「ガスプロム、北極圏でLNG生産施設を建設」とか「ガスプロム、北極圏で石油採掘」とかいう情報が出て来る。それで、この試合の日から1週間程前にニュースで見た映像と、このバーゼルでの抗議行動が結びついた。つまり、私がぼんやりとしか覚えていないその映像は、ロシア当局がグリーンピースの活動家を乗せていた船が、ロシアのどこかの港に連行し、停泊させているところを映し出していた。波が高くて、寒々しい印象を受けた。

この船はアークティック•サンライズという名前で、オランダの旗のもと、グリーンピースの活動家を乗せて北極へ行った。この活動家たちはそこで「北極海を環境保護区に」というガスプロムの資源開発に反対する抗議活動をしたのだが、ロシア当局により強制連行された。活動家は28人、ジャーナリストは2人だという。

バーゼルでの抗議活動は、彼らが連行される様子をなんとなくテレビで見ながら、すぐに忘れてしまっていた私のような、世界の多くの人たちの頭に刺激を与えたはずだ。その夜世界中で多くの人たちが私のように、ネットで「ガスプロム」や「北極、資源開発」というキーワードを検索したことだろう。

その後この30人はどうなったかというと……10月2日には「組織的集団による海賊行為」という容疑のもと起訴されて、裁判を待っているらしい。人権や言論の自由が制限されているロシアでである。グリーンピースは、彼らの解放をロシア政府に求める署名を100万人分集めたが、有罪となれば、最長15年の禁錮刑が科せられるという。

しかし、あの活動家たちは、どうしてバーゼルのスタジアムの屋根に登ることができたのだろう……けっこう大掛かりな準備が必要だし、どうやって警備の目をくぐれたのか。もしかすると、クラブ又はスタジアムの運営会社に協力者がいたのか。欧州サッカー連盟が調査すると言っていたが、真相は未だに明らかになっていない。重要な試合であり、キックオフの瞬間に向けて集中力を高め、勢いに乗っていたところを妨害された両チームの選手達には申し訳ないが、時には試合が、素っ裸でピッチを駆け回る露出狂の人によって中断されることもある。シャルケのマネジャー、ホースト•ヘルト氏は「すべての人間に関わることに尽力する団体があるのは大切なこと。これらのテーマは私たち皆にとって重要だ」と理解を示したのには新鮮味を感じだ。もちろん、後でスポンサーのガスプロム(シャルケに払うスポンサー料は年間1600万ユーロという)からクレームが入ったのではないかと推測するのであるが。

観客が撮影した抗議活動の様子 http://www.youtube.com/watch?v=AEYejdYPz3Y

 

 

 

 

 

 

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