ドイツ人のエコ意識
環境保護先進国と呼ばれるドイツ。緑の多いドイツ。この国に住む国民だれでもが“みどりを守る仙人”なのでしょうか?「とんでもない!」と答えたのはオリバー・シュテンゲル(Oliver Stengel)氏。彼はヴッパータール気候・環境・エネルギー研究所で持続可能な生産と消費について研究をしています。「環境保護について知識があり意識も高いが、実行に移すとなるとまだ十分ではないのでは」と始まるシュテンゲル氏の文章がドイツ連邦政治教育センターのウェブサイトに紹介されていました。
人類最大の環境問題は地球温暖化だとシュテンゲル氏は主張します。史上最高の水位を記録した6月の大洪水も温暖化の影響だと言われています。温暖化の主因は温室効果ガスです。化石燃料の使用、そして過剰な酪農と稲作により、温室効果ガスが大量に放出されています。温室効果ガスの削減が第一の課題だと大半のドイツ人は考えているそうです。しかし現実はどうでしょうか。
2012年度のCO2排出量が2011年度を2.2%上回りしました。原因は石炭火力の増加です。石炭輸入量が増した理由は価格と排出量取引権が安くなったからです。ドイツ全国では85%の人々が再生可能なエネルギーへの転換を望んでいますが、料金のやや安い火力電力と原子力発電による電力を選んでいる家庭は、全体の80%を占めています。それでは一般市民は、どのようなエコ行動を取っているのでしょうか。
|
85% | |
|
79% | |
|
77% | |
|
74% | |
|
60% | |
|
52% |
2012年に発表されたドイツ連邦環境省の調査結果によると、大半の市民は家庭で取り組むエコ行動に満足しているそうです。「十分にできた」と答えたのが14%、「できた」と答えた人が最も多く61%でした。「あまりできなかった」と答えた人は25%でした。「多くの人はゴミの分別をエコ行動だと強調しているが、CO2排出量削減には役立たない」とシュテンゲル氏は注釈を加えています。なぜ環境保護を行うのかという問いに対し「出費を減らすため」と答えた人が一番多く、言い換えるとコストが上がるとエコ行動はできない、というのが一般の意見でしょうか。
エコ製品などを使用する際、個人が支払う価格などの負担が重過ぎると“エコ度”が低くなるようです。「我々はなぜ行動しないのか」とシュテンゲル氏は更に理由を追究しました。
- コストだけではなく、便利さ、習慣や快適さなどをエコ生活のために返上するのは難しいようです。車は購入にも維持にも費用がかかりますが、ドイツ人の主な交通手段はマイカーです。車を使っている人の99%は便利さを、96%は目的地に早く到着できることを理由として挙げていました。(グラフ1を参照)
- 数百年ほど前からヨーロッパにある“消費文化”では、自然を支配できる者が実力者とされていました。今もその伝統は残っており、広い住居、高級車、肉たっぷりの料理など、有限な資源を思うままに消費できる人こそ実績があると考え、疑問に思わず目指している人が多くいます。
- 大多数の市民は平均的な生活を選び、“変わり者”としては目立ちたくはないと望んでいます。国民一人当たり年間平均60キログラムの肉を食べる社会では、菜食主義者は奇妙な目で見られるかもしれません。
- 「国がもっと環境問題に力を入れるべき。対策に二の足を踏んでいる」と3人のうち2人のドイツ人は考えているようです。その一方、政治と企業は、有権者そして消費者の無責任な行動を責めています。責任のなすり合い状態もエコ行動を阻害する要因のひとつです。
- 多くのドイツ人は自分たちはまだ安全な状態にあると思い込んでいます。「気候変動は南ヨーロッパ及び南半球の国々では被害を与えているが、ドイツではそれほどの被害は起こらないだろう」というのが、一般市民の意見のようです(表1を参照)。被害の大きい国々との連帯や、これから問題を抱える世代に対しての責任感は弱いようです。できるだけ今の生活の便利さ、快適さを保ちたいと考えています。
環境問題の多くが日常生活から生じていることを、教育を通して知らせることが必要です。「しかし、それだけでは大幅なエコ運動にはならないだろう。どのようにエコ行動を促進させるか」という視点から、シュテンゲル氏は次のような提案をしています。
税金など政治的な手段
温室化効果ガス排出の原因となる肉(表2を参照)の消費量を抑えるために、国際連合食糧農業機関(FAO, Food and Agriculture Organization)は2010年に肉食品税を発起しました。発生した環境破壊のコストを、この課税により汚染者に負担してもらうのが狙いです。ちなみに、2011年にデンマークでは同じような理由で“脂肪税”が導入されましたが、消費者は近隣国ドイツで安い酪農・食肉生品を買い込んだため、結局は効果がなく2012年末に課税は廃止されました。
ロンドンやストックホルムの都心ではロードプライシング(道路課金)が実施されて、自家用車の交通量を制限しています。2012年に経済協力開発機構(OECD, Organization for Economic Co-operation and Development)は都市のロードプライシング導入を勧告しました。
2012年にコペンハーゲンでは“サイクル・スーパー・ハイウェー”が26ヶ所に設けられました。これは自転車のための高速道路で、普通の自転車道路とは違い、信号などで中断されません。その結果、自転車を利用する通勤者が一段と増えたそうです。良い運動となり、血の循環が良くなることから、医療費を約4000万ユーロ(約51億7000万円)節約できると政府は見込んでいます。
イメージチェンジ
大型車の所有や毎日の肉食が裕福さを表す指標となっていますが、一般の意見が変わればエコ行動も転換可能です。例えば都市の若者のあいだでは、自転車は自家用車よりも人気があります。ちなみに人口1000人あたりの自家用車の保有台数を比べてみると、ドイツ全国の平均数は472台(2012年度)ですが、若者の町ベルリンではその数は289台だそうです。自転車は自由、都会風そして環境保護主義をアピールできます。このごろ多くのレストランでは野菜メニューが用意されています。車を持たないこと、ベジタリアンなどが「hip」とか「cool」とされて流行しています。
イメージチェンジがエコ行動につながった例はまだあります。戦後50年間、絶えず保守党が与党だったバイエルン州。原発ロビーと与党の関係は強く、再生可能なエネルギーとかエコが煙たがられた州でした。バイエルンを愛する者は“とんだことはしない”と言われ、ソーラーパネルを設置する人は、長い間、変わり者、厄介者と白い目で見られたそうです。国からの援助もあり、“変わり者”の数が増え、今ではバーデン・ヴュルテンベルク州に次ぐ太陽光発電が普及しているグリーン・エネルギー州です。
最近、世界の温室効果ガスの濃度が過去最高値を更新したことが報道されました。地球の平均気温の上昇を、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の目標値である2度以下に抑えられるのか、その可能性を疑う声が多く聞かれます。今年度の国際エネルギー機関の発表によると、エネルギー分野で排出される温室効果ガスは全体の三分の二を占めるそうです。地球温暖化の影響で生活が困難となった結果、移住する難民が毎年何千万人にも上っています。そのなか、エコ行動の有無など悠長なことは言っていられないのではないかと思っていると、「ハンブルグのランペドゥーザ島」という見出しが目に止まりました。
地中海にあるイタリア領ランペドゥーザ島には、アフリカから地球温暖化や環境破壊により生活基盤を失った人たちが環境難民として、命がけで続々とたどり着いています。ハンブルグのザンクト・パウリ区にあるザンクト・パウリ教会では、ランペドゥーザ島にたどり着いた環境難民80人に、6週間ほど前から生活の場を提供し、市民たちがその支援をしているという記事でした。気候変動や環境破壊で最低限の生存条件を失った人々に、希望を贈る人々こそ環境先進国の住民だと私には思えました。
グラフ1
日常生活における交通手段
出典:ドイツ連邦環境省「ドイツの環境意識2012年」
表1
温暖化の影響で被害を受けると思いますか?(単位は%)
大規模な被害を受ける | 強い被害を受ける | 少し被害を受ける | 被害なし | |
|
2 |
17 |
45 |
36 |
|
3 |
9 |
45 |
43 |
|
3 |
19 |
41 |
37 |
|
5 |
23 |
39 |
33 |
|
4 |
21 |
37 |
38 |
|
3 |
13 |
34 |
50 |
出典:ドイツ連邦環境省「ドイツの環境意識2012年」
表2
地球温暖化係数(二酸化炭素を基準にして、ほかの温室効果ガスがどれだけ温暖化をもたらすかを表した数字)http://www.jccca.org/faq/faq04_05.html
1kg当り |
単位g |
|
バター |
23,500 |
|
牛肉 |
13,300 |
|
鶏肉 |
3,490 |
|
豚肉 |
3,250 |
|
卵 |
2,570 |
|
米 |
4,130 |
出典:ドイツ公共第一放送
ニュース番組ターゲスシャウ
Pingback: イタリアでグローバル化について考える(4) 〜移民、国際化〜 | みどりの1kWh