「過小評価してしまう危険を最小化したかった」
先日、久しぶりにアパートの大家さんと会って、立ち話をしたときのことである。大家さん夫妻が「日本は本当に大丈夫か」と真顔で尋ねた。2年前の原発事故以来、会えば原発事故後の日本のことを心配していることがわかる。事故2周年を前に、ドイツのテレビや新聞で福島のことが再び頻繁に取り上げられるようになっている。そして、ドイツのニュース番組を中心に放送しているn-tvのウエブサイトに載っている記事について、大家さんからメールが送られてきた。
このニュースを見て驚いた。3月6日、ちょうど安倍首相が「原発の安全を確認したうえで、再稼働する」と発表した同じ日に、核戦争防止国際医師会議のドイツ支部が、「福島第一原発事故による健康災害」という報告書を発表したのである。この報告書の原文はドイツ語であるが、すでに「まとめ」の部分だけは日本語になっている。
「原発事故による最初の健康被害は事故からまだ2年しか経っていないが、現在すでに科学的に立証できる。チェルノブイリ事故の時と同じように、原発事故9ヶ月後に出生数が減少したのが確認できるのだ」という衝撃的な文章で始まる報告書を読むと、まさに背筋が寒くなる。n-tvのニュースでこの報告書をまとめているので、少し記しておこう。
0才児が統計的に予想されるよりも75人多く死亡
2011年12月日本全国の死産の数は4300を超えた
外部被ばくによる発がん件数は、日本の公式数値をもとに計算すれば最大8万件
食品摂取による内部被ばくが原因となる発がん件数は3万7千件
数値だけでも恐ろしいが、ここで注目したいのは2月28日に発表されたWHO(世界保健機関)の報告書に対する核戦争防止国際医師会議ドイツ支部のスタンスである。ドイツ支部は、WHOの報告書が用いているリスク係数はリスクを過小評価していると断言しているのだ。ところが、2月28日付の朝日新聞オンライン版を見ると、日本政府はWHOの報告書に対して、「『線量推計の仮定が実際とかけ離れている。この報告書は未来予想図ではない。この確率で絶対にがんになる、とは思わないで欲しい』と強調した」と書かれている。この日本政府の反論に対して、同じく朝日新聞のオンラインニュースでは、「WHOのマリア・ネイラ氏(公衆衛生環境担当)は『(4カ月避難しなかったなどの)想定は過大評価になるかもしれないが、過小評価よりも良い。過小評価してしまう危険を最小化したかった』と反論した」と、WHOの見解を述べている。
この朝日新聞オンラインのニュースを見ると、ドイツの報道はやはり「過剰」だと思われても仕方がない気がしてくる。しかし、1959年にWHOとIAEA(国際原子力機関)との間にかわされた合意には、「WHOとIAEAのどちらかが相手が関心を持っている、あるいは持つかもしれない活動あるいは事業を開始するときは、相手と協議の上、一致して該当する問題に当たる」と書かれている。言いかえれば、WHOの発表は原子力の平和利用の促進を明確な目的としているIAEAの意向に配慮しなければならないという、いわゆる「さるぐつわ協定」である。チェルノブイリの事故でもWHOは、原発事故による明らかな死亡件数としてわずか31件しか認めていない。WHOがIAEAとの間に交わした「さるぐつわ協定」に縛られていることを考えると、WHOを過大評価だと言う日本政府に疑問を感じる。
n-tvのニュースを送ってくれた大家さんは「ドイツ人は心配性だからね」と笑っていたが、もし子どもたちの将来を深刻に考えるならば、リスクを高めに評価し、対策を打つべきなのではないだろうか。日本には「転ばぬ先の杖」ということわざがあるのだから。と思っていたら、こんなニュースが目に入った。「ふくしま集団疎開裁判の会」からのもので、38000人の福島の子供たちの検査の結果、合計3名の甲状腺がんが出て手術をしたというのだ。国立がんセンターのデータでは子供の甲状腺がんは10万人に0.6人程度、3万8千人のうち3名となれば、国立がんセンターのデータの10倍強に当たることになる。さらに、他に7人の子どもたちにガンが強く疑われているとこのニュースは伝えている。
本当に日本は大丈夫なのだろうか。ドイツにいると、原発事故が起きたのは日本なのかドイツなのかわからなくなってくる。
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