曲がり角に来た再生可能エネルギー優先法

ツェルディック 野尻紘子 / 2012年10月14日

ドイツで2000年4月に施行された再生可能エネルギー優先法(略称 :再生可能エネルギー法、EEG)が曲がり角に来ている。太陽光や風力などで発電した再生可能電力を設置時の固定価格で買い取り、火力や原子力で発電したエネルギーより優先的に送電網に送り込むことを定めたこの再生可能エネルギー促進のための法律が、電気料金を高くする要因の一つとなっているからだ。また、再生可能電力を促進するための賦課金が公平に負担されていないとう批判もある。年間の電力消費量が3500kWhとされる3人家族の一般ドイツ家庭の今年の電気料金は875ユーロ(8万7500円)程度になる見込みだが、このうちの賦課金は約125ユーロ(1万2500円)に達するといい、来年は更に増加するとされる。再生可能エネルギーの促進に大きく役立って来たEEGではあるが、改正や廃止を求める声が挙がっている。

ドイツ全国エネルギー・水利経済連盟(BDEW)によると、ドイツの電気料金は、発電・送電・営業に掛かる経費のみを見た場合、1998年の電力市場自由化から今まで僅かしか値上がりしていない。これに対し大きく上昇しているのは税金や再生可能発電やコージェネレーション(熱電併給システム)促進のための賦課金、送電網使用料などの経費で、同期間中に約10倍になっている。

再生可能電力促進のための賦課金は、ライプツィヒにあるドイツの電力取引所で日ごとに変動する電力の取引価格とEEGで定められた割高の買い取り価格との差額から算出される。賦課金は再生可能電力の発電量が増えれば増えるほど 増加する。また、電力の取引価格が下がれば下がるほど買い取り価格との差が開き、増える。

EEGがこのところ特に問題視されるようになったのは、ドイツで現在再生可能電力が急増していることと、その増加が電力の取引価格を下げていることだ。毎年秋に、次の年の賦課金の額を設定するのは、再生可能電力の製造者に固定価格を支払う役割を担っているドイツの4大送電網運営企業だが、4社は、今年の賦課金の総額を約140億ユーロ(1兆4000億円)と見積もっていた。しかし総額は実際には9月末までに既に156億ユーロ(1兆5600億円)に達しており、年末までには170–180億ユーロ(1兆7000–1兆8000億円)になる見込みが明らかになっている。このままでは、賦課金が来年200億ユーロ(2兆円)を超えることも避けられないようだ。再生可能エネルギーを促進するためとは言え、200億ユーロ(2兆円)とは、巨大な金額である。

この賦課金は消費者の支払う電気料金に上乗せされる。消費者は今年、1kWh当たり3.6ユーロセント(3.6円)支払わなくてはならなかったが、来年はそれが5.3ユーロセント(5.3円)になるだろうと言われている。再生可能電力の更なる増加、それに伴う電力の取引価格の低下、それに加えて、今年の賦課金の不足分約40億ユーロ(4000億円)を送電網運営企業が取り戻すために加算するからだ。ちなみに、電力取引所での電力1kWhの価格は、真夜中に5–6ユーロセント(5–6円)に下がることもあるというから、この賦課金が消費者にとっていかに高くついているかが分かる。1kWh当たり5.3ユーロセントに値上がりすると、一般家庭の負担は年間更に約50–60ユーロ増えることになる。

EEGにはもう一つ問題がある。大きな例外が存在するため、賦課金が公平に負担されているかどうかが問われるからだ。EEGは、電力使用量が特に多い鉄鋼やアルミニウム、化学業界などの大口消費企業が、高い電気料金のために国際競争力を失ったり国外に脱出したりすることを避けるために、この賦課金の大部分を免除している。しかし、現在この特権を享受している企業は約700社とも2000社ともされ、中には 養鶏場やゴルフ場、計算センターなども含まれると言われる。「EEGが導入された直後の該当企業は400社だった」と、この例外規定の導入を正当化するユルゲン・トゥリティン元連邦環境相(緑の党)も、この例外にまだ意味があるかどうかは疑わしいと語る。

例外企業の電力消費量はドイツの全電力消費量の18%だが、彼らが負担する賦課金の額は全体の0.3%に過ぎないというデータも飛び交っている。大企業が大量の賦課金を免除されると、その分、小口消費の中小企業と一般家庭の負担は増える。一般家庭が現在担っている賦課金約125ユーロの中の20ユーロは産業界の支援分に相当するという試算もある。 更に加えると、賦課金の免除を受けている企業は、このところ電力取引所で電力の価格が値下がりしているので、その恩恵も得ている。どこかで公平性が欠けていることは確かだ。

消費者にこれ以上の負担を掛けることは許されないとする声は大きい。また、この再生可能エネルギーの促進は、国家による計画経済に他ならないとする経済学者なども多い。更に、賦課金の大半が、日照時間の比較的少ないドイツで、最も割高につく太陽光発電に流れていることも批判の対象になっている。

デュッセルドルフ大学の教授でドイツ独占委員会(Monopolkommission) の議長を務めるユストゥス・ハウカップ氏は、送電網運営企業がEEGに従って再生可能エネルギーの全量を固定価格で買い上げる代わりに、買い上げる総電力の一定量を再生可能電力に割り当てることを義務づけるという案を提示している。そうすれば、送電網企業は合理的に判断して、最も割安な再生可能エネルギーを購入することになるだろうし、この国に一番適切な再生可能エネルギーが成長することにもつながるだろうと説明している。この提案には、新たに設立された雇用者連盟に近い団体、「新しい社会市場経済イニシアティブ」が賛同している。彼らは「ストップEEG、さもなければエネルギー転換は不成功に終わる」というモットーを掲げて、大々的な新聞広告なども出している。ドイツの連立政権を構成する自由民主党(FDP)も支持に回っている。

上昇する電気料金を抑えるには、付加価値税(ドイツでは現在19%)を一部免除する道もある、という意見もある。賦課金が上がると、その分、国が徴収する付加価値税額も上がるからだ。電力税(現在1kWh当たり2.05ユーロセント)の低下や廃止を求めたり、EEGそのものの廃止を唱える声もある。

こうして見ると、導入以来確かに再生可能エネルギーの促進に役立って来たEEGは曲がり角に来ている。ペーター・アルトマイヤー連邦環境相も、同法律の改正を考えているようだ。

7 Responses to 曲がり角に来た再生可能エネルギー優先法

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  5. 平井久代 says:

    はじめまして。
    北海道登別市在住です。
    今日、椿ようこさんに、こちらの記事を紹介していただきました。
    ドイツ在住の方々ということですので、興味深いです。

    私のブログで紹介させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?
    よろしくお願いいたします。

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  7. こちゃん says:

    平井久代様
    メールを有難うございました。平井さんのブログで、我々の「みどりの1kWh」を紹介して下さるのは嬉しいです。どうぞ宜しく。こちゃん