ドイツ風電気料金高騰への対処

あきこ / 2012年10月14日

最初の脱原発を決定したのが2002年、福島の事故を受けて改めて脱原発を決めてから1年半近くが過ぎようとしているドイツ。一瞬、脱原発を決めたけれども、「舌の根も乾かないうち」に脱・脱原発にぐらついている日本。そしてドイツを取り巻くヨーロッパ諸国では、脱原発で足並みがそろっているわけではない。福島以後、方針は決まったものの具体的な対策を模索しているドイツではあるが、脱原発と電気代の高騰をめぐる議論はずっとメディアを賑わしている。とくにここ数日、議論は熱を帯びているが、それは再生可能エネルギーの賦課金が現在の1キロワット時3.6ユーロセントから5.3ユーロセントに値上げされ(最終的に正式な数字は10月15日に発表される)、平均的世帯にとって年間50ユーロから60ユーロの電気料金の値上げがニュースになったからである。

10月7日のベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル」の読者欄に、「なぜ電気代が高くなるのか」という読者の質問に対して、ベルリンにあるシンクタンク「アゴラ・エネルギー転換(Agora Energiewende)」の事務局長による回答が載せられていた。質問と回答の主旨は以下のとおりである。

質問:今後8年間にわたってエネルギー会社のヴァッテンファルは、脱原発を理由に電気代を30%値上げすると発表した。ところが、同社はここ8年の間に、30%以上もの値上げをしてきた。ということは、脱原発が電気代の値上げではないことになる。電力会社は、電気代とは常に上がるものだと言いたいのか。

回答:電力市場が自由化されて以来、顧客は自由に電力会社を選んで、費用を節約することができるようになったが、まだ多くの人がこの自由化を利用していないのが現状だ。電力会社によって、電気料金に明白な差があることをまず知っておくべきだ。再生可能なエネルギーが電気代高騰の原因とされているが、2000年の再生可能エネルギー優先法の導入以来、1世帯の電気代は1kWhにつき当時の15セントから現在までに10セント上がって25セントにはなったものの、現時点での再生可能エネルギー賦課金は1kWh3.59セントで、全体の値上がりの3分の1しか占めておらず、これに値上げの責任をかぶせるのは間違っている。石炭やガスなどの火力発電の燃料の値上げが電気代に反映されているのだ。今後の展開を考えると、輸入に頼っている化石燃料からの脱却、すなわち再生可能エネルギーの促進がもっと必要になる。再生可能エネルギーの賦課金を免除されている企業が、本当に国際的競争力を問われているのかどうかを見極める必要がある。ベルリンで言えば、劇場、ホテル、養鶏場、ゲームセンターなどどう考えても国際的な競争とは程遠い施設まで、賦課金の支払いを免除されているのだ。火力発電所への投資より、再生可能エネルギーへの技術革新への投資を通じて、電気代の価格安定を図るべきだ。

再生可能エネルギー推進団体からのものであることを考えれば、当然の回答かもしれないが、ドイツ連邦ネットエージェンシーが今年の春に表明した「数百の企業がドイツの電力消費の18%を占めているが、わずかその0.3%しか再生可能エネルギー賦課金を支払っていない」という批判を付け加えておこう。さらに、再生可能エネルギー優先法を導入した当時の社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権で連邦環境相を務めたユルゲン・トゥリティンは、賦課金を例外的に免除された企業は約400社であったのに、今では2000以上の企業が賦課金を支払っていない状況を、「まったくの補助金のばらまきだ」と厳しく批判している。

電気料金の高騰に対して、連立政権内でも意見が分かれており、連立与党の自由民主党(FDP)からは、一般家庭の「省エネ訪問診断」の実施を計画しているアルトマイヤー連邦環境相の対応は生ぬるい、再生可能エネルギー法の改正に取り組むべきだという主張が出ている。再生可能エネルギー生産設備の拡充にも制限を設けるべきだという。

政党間の議論に加えて、反核団体や社会福祉関連の団体からも、政府の対応に対する批判や具体的な提案がなされている。その一つがグリーンピースの二つの提案だ。第一に、再生可能エネルギーの賦課金の公平な負担を求めている。賦課金の負担が本当に国際的な競争に不利が生じるかどうかをきっちりと判断すべきだと言うのである。第二に化石燃料からの電力への税金を高め、再生可能エネルギーによる電力の税金を下げるように主張している。この二つの提案が実現されれば、賦課金は今後現在の金額を下回ると予測している。

もう一つの提案はドイツ経済学研究所(DIW)からなされている。低所得層では、全支出に占める電気料金の割合が4.5%(平均では2.5%)と高くなっているため、低所得者世帯への支援が必要だという。そのために、生活保護受給家庭などに対する給付金を1ヶ月当り1.7ユーロ引きあげること、電気料金を最初の1000kWhまでは非課税にすること、省エネ意識を高めることを柱にした3つの提案をしている。省エネ対策として、低所得者世帯の冷蔵庫は5年以上の古いもので、これを省エネの新しい冷蔵庫に取りかえると1年間で40~64ユーロの電気料金節約になるため、経済学研究所の専門家は5億6000万ユーロ(約560億円)の“冷蔵庫買い替えプログラム”を具体策として挙げている。

最後に反核団体「アウスゲシュトラールト」が電気料金値上げについて、「脱原発は支払い可能 - 原子力による電気は命と引き換え」と題した声明を発表しているので、紹介しておこう。

再生可能エネルギーの賦課金をめぐる議論は、原発の事後負担額(維持費、事故が起こった際や核廃棄物処理にかかる費用など)を隠蔽している。脱原発を強力に推し進めなければ、電気料金の値上げよりももっと大きな負担を引き起こすことになるだろう。原子力エネルギー利用の事後負担額は予測がつかず、私たちの財布だけの問題では済まないからだ。もしドイツで原子炉に重大な事故が発生すれば、健康上また財政上の被害は巨大なものとなるだろう。ライプツィヒ保険フォーラム(Versicherungsforen Leipzig)は、ドイツでメルトダウンが起きたときの被害額を6兆ユーロ(約600兆円)と算出している。現存の原子力発電企業の25億ユーロ(約2500億円)の損害補償では、被害総額の0.1%さえもカバーしていない。加えて、現在も出されている核廃棄物の処理費用も予測不能である。だから、脱原発のために投資されるすべてのユーロが、計測不能な苦悩と計測不能な事後負担額から我々を逃れさせてくれるのだ。このことをしっかりと意識することは必要だ。