ベルリン~ロンドンの旅、持続可能な社会への取り組みメモ

やま / 2012年9月30日

年に平均27.5日、ドイツの有給休暇の日数はスウェーデンと並びEU諸国の中では一番少ないそうですが、夏になると大抵の家族は休暇をリゾート地で過ごします。目的地への道路が毎年渋滞するにもかかわらず、休暇を取る人々の52.8%がマイカーで旅行するそうです。それに続くのが36.1%の飛行機での旅行です。運ぶ荷物があったこと、時間をかけてゆっくりと気軽に移動したいなどの理由で、今回はマイカーでベルリン~ロンドンの旅に出ました。

100%バイオガス・スタンド
我が家の車は天然ガス自動車です。排気ガス中の有害物質はディーゼル車と比べると大幅に少なく、環境対策に少しでもなるかと思い、2年前に買い換えました。しかも鉱油税の負担額が少ないので割安です。今回、旅行中に見つけたデッサウ市内のガススタンドでは100%再生可能なバイオガスを補給することができました。通常のガソリンと比べCO2 排気ガスは97%削減されるそうです。現在ドイツ全国にある約900ヵ所の18%ではバイオガスが混ぜてあり、17ヶ所では100%バイオガスが販売されています。

エネルギー換算

10ユーロ*で走れる距離

天然ガス(バイオガス)

約13.3

kWh/kg

約220km

ガソリン

約 8.8

kWh/l

約103km

ディーゼル

約 9.9

kWh/l

約164km

プロパン

約 6.8

kWh/l

約167km

*約1000円

安心な水筒
長い旅に必要なのは飲み物です。旅先で何度も飲み物を買うと、どうしてもゴミが増えます。アルミの水筒に入れた水は何か味が悪く、ガラスのビンは重くて持ち運びに不便です。そこで見つけたのは、アメリカ製のビスフェノールA無使用の水筒です。日本でも既に販売されていて、ふたがしっかりと閉まり、広口なので飲みやすくなっています。旅先で水道水を入れて持っていくのが理想的ですが、町によってはカルキ臭く飲めなかったことがよくあり、飲料水を買い、水筒に入れ替えました。この場合、ガラス瓶やリターナブル瓶を購入しようと思ったのですが、このような瓶は残念ながらまれでした。無駄なゴミを減らすために、大型のペットボトルの水を何回かに分けて持っていくのがせいぜいでした。

「林檎神父」の林檎の絵
ドイツ中部のカッセル市で5年おきに催される現代アートの展示会、ドクメンタ。今回も参加アーティストのリストは長く、発表された作品の数に圧倒されました。その中で私の目に留まったのはコルビニアン・アイグナー(Korbinian Aigner)が描いた林檎の絵でした。「たとえ、明日世界が滅びようとも私は林檎の木を植える」というルターの言葉が思い浮かび、これこそ持続可能な生活のシンボルだと思いました。バイエルン地方の村の神父であったコルビニアン・アイグナーは公の場で堂々とナチスを非難し、1930年代に強制収容所に入れられました。彼はミサの説教でナチズムを批判し、ヒットラーのファーストネームであるアドルフという洗礼名を授けることを拒否し、ナチスのシンボルマークである鉤十字のついたを国旗を一切認めませんでした。「林檎神父」と呼ばれた彼が強制収容所で開発した林檎の品種が、今回展示されたK1、K2、K3、K4(Kはドイツ語の強制収容所の省略、Konzentrationslager)でした。「1910年代から1960年代まで林檎の品種を描いたコルビニアン・アイグナーの約900枚の作品は現代のコンセプチュアリストの作品と同様である。彼は何十年も、惑わされずに美学的なドグマに従った」とカタログに説明がありました。

ソーラー・バス
ドイツとベルギーにはさまれたオランダ・リンブルフ州の州都マーストリヒトで見たのはソーラー電力で動く観光バス、「ゾンネ・トレイン」です。歩行者、自転車で混んだ狭い中世の路地を騒音なし、排気ガスなしで運転します。一人5ユーロ(小人3ユーロ)で、屋根はソーラーセル、横はガラス張りの観光バスに乗り古都をガイド付きで見学できます。

体を鍛えるオランダの急な階段
オランダの建物の階段は急で有名です。ドイツでは一般に勾配が35度前後ですが、オランダでは45度前後です。このような急な階段を始終上ったり、下ったりしているおかげで、オランダ人はスリムで健康だそうです。ヨーロッパの中ではどちらかと言えば大柄のオランダ人ですが、彼らの住む住宅の床面積を比べるとドイツよりもこじんまりしています。コンパクトな階段は無駄な場所を取りません。

スピードを落として省エネ
ドイツから出ると高速道路に時速制限があるのに気が付きます(ドイツにあるアウトバーンと呼ばれる高速道路12,200kmのうち半分以上が制限なし)。車をレンタルして時速無制限のドイツのアウトバーンでスピードを出して楽しむ観光客も少なくはないそうです。ドイツでは自動車業界や一般のドライバーの圧力が大きく、スピード制限はまず取り入れられないと言われています。今回感じたのは、時速180kmで走るのも、120kmで走るのも目的地に着く時間はそれほど変わらないという事です。でも、ゆっくりと一定の時速で走ると明らかに燃料が節約できました。

花より野菜
「町の公園や広場に花の代わりに野菜が育つ。市民がトマト、ジャガイモ、えんどう豆を公園の花壇で収穫できる」と新聞にドイツ西部にある町が紹介されていたのを読んだことがあります。今回訪ねたブリュッセルの宮殿の前庭でも、この“花より野菜”という時代の流れが実践されていました。

地産地消された建材
アーヘン、ゲント、アントワープ、ブルッヘ、そしてロンドン。戦争による破壊の多かったベルリンと比べて、どの町も何百年前に建てられた古い建物が目立ちました。風土と文化にとけこみ、「住民が我が故郷として愛せる町」を作っていると思いました。最新の設備技術ではなく、伝統と現代を融合させている既存建築こそ持続可能性が高いと感じます。現代は、あらゆる建材を手に入れることができるグローバル化された社会ですが、石壁と開口(窓と戸)という本質的な要素だけでデザインされたファサードを見て、そのバリエーションのすばらしさに感動しました。イギリス南部で見た住宅の建材は100%地元産。イギリスでは武器製造や造船のために森がなくなってしまったといわれ、建材として残ったのは地元の鉱山で採石された石とわらだけでした。そして島国なので建材輸入が高価であり、困難であったことなどが、身近にある物で工夫された環境にやさしい建築につながりました。

身近にある羊毛も“建具”として使われていました。イギリス南部の風景の一つといえば野原と空を背景にのんびりと草を食べる羊の群れです。この羊毛を使ったカーテンにはこの地方ならではの工夫がありました。天井から床まで届くカーテンは夏は2重に、冬は3重になっています。カーテンの模様や色の鮮やかさをいつまでも保つために外側に無地の布が縫い付けられています。この重々しいカーテンを閉めると雨戸のように部屋が真っ暗になります。冬には毛布のような厚い生地を付け加えて、隙間風を防ぎ、温まった室温が保てるようになっています。

ボリス・バイクス
人口がベルリンの3~4倍、パリと並び、ヨーロッパの都市の中で観光客が最も多いと言われているロンドン。都市の動脈である公共交通機関がうまく機能しています。おなじみのチューブと呼ばれる地下鉄、真っ赤な2階建てのバス、黒いロンドンタクシーに次いで登場したのが、現市長の名前がついたボリス・バイクス。2010年夏に5000台の自転車と315ヵ所のスタンドでスタートしました。8100万ポンド(約100億円)がこのレンタバイク・システムに投資されました。使用時間30分以下はただ、丸一日スタンドに戻さないと50ポンド。電車や地下鉄で中心地まで行き、ボリス・バイクを使って出勤する人も多く、愛用者はますます増えているようです。将来的に自転車を6000台にそしてスタンドを400ヶ所に徐々に増やしていく計画です。バス、タクシー、そして観光客で混乱している道を(ベルリンと比べるとはるかに狭い)自転車で走るには、ヘルメットと安全ベスト及び度胸と太い神経が必要です。

ロンドンから西へ200km
紀元前2500~2000年の間に立てられと推測されているストーンヘンジ。遺跡の目的については様々な説がありますが、結論はいまだに出ていないそうです。ここを見学してみると、半減期が数千万年にもなる放射性廃棄物の危険を未来の人に知らせる方法があるのかと改めて疑問が浮かびました。

 

Comments are closed.