エネルギー転換は共同体の事業
昨年4月4日から5月28日まで、ドイツ連邦政府の諮問機関「エネルギーの安全供給に関する倫理委員会」が会合を重ね、5月30日に「ドイツのエネルギー転換 - 将来に向けた共同体の作業」と題する報告書を提出した。それから9ヶ月以上を経た3月7日、ベルリンで「エネルギー転換プラットフォーム (Plattform Energiewende)」という研究活動グループが発足し、その記念の集まりが開かれ、政界、経済界、メディアから多くの人々が参加した。「みどりの1kWh」からも3名が出席した。
「エネルギー転換プラットフォーム」と称する研究活動グループは、ポツダムにある持続可能性高等研究所(IASS, Institute for Advanced Sustainability Studies)の一部門として設置された。このグループを率いるのは、長年ナイロビに本部を置く国連環境計画の事務局長を務めたクラウス・テップファー氏と、ドイツ研究振興協会(DFG, Deutsche Forschungsgemeinschaft)会長のマティアス・クライナー氏である。二人は、上記の倫理委員会で共同委員長を務めた。このグループの目的はエネルギー転換(脱原発)に関して、専門分野を超えて独自の研究を進めることである。研究テーマとしては、例えば、新たなエネルギー源やエネルギー貯蔵、電力価格の変動、CO2排出量削減が挙げられている。科学、政治、経済、市民社会が一つになるために、話し合いやワークショップを重ね、エネルギー転換の実現状況をモニタリングすることも重要な活動である。これらの成果は、高等研究所が毎年発表することになっている。
3月7日の集まりでは、エネルギー転換が「共同体の事業」であることが強調された。テップファー氏は、「エネルギー転換はドイツの経済にとって大きなチャンスである。エネルギー転換を実現するためのロードマップ作成が緊急課題である。科学、政治、産業、市民社会が分野を超えた研究プロセスに加わるようにすることが、我々の任務だ」と強調した。
クライナー氏は、「科学や研究は、新しくかつ型にはまらないアイディアや、勇気と根気強さをもって、エネルギー転換の実現に貢献することを求められている。将来にわたる安定的エネルギー供給のためには、自然科学、生命科学、工学における大きな進歩と同様に、社会学や人文科学における革新が必要だ」と述べた。
「エネルギー転換プラットフォーム」では、昨年5月にまとめられた倫理委員会の勧告にしたがって、エネルギー転換にとって重要な指標の動向を分析する。その一つが電力価格の動向の調査である。具体的には、既存の電力市場の構造が再生可能エネルギーの挑戦に対してどのように対応するかの調査である。またドイツにおいて、どのような市場システムが将来にわたっても機能し得るかについての議論も行うという。
ドイツ政府が脱原発を決定してから、「エネルギー転換」という言葉だけは語られるが、その実現に向けてどのような具体的対応がなされているのかがなかなか見えて来なかった。だからこそ、このような研究活動グループの発足に大きな注目が集まっている。集まりの最後にテップファー氏は、「数十年後に、『脱原発?そう言えばそんなものがあった』などと言われることがないように、具体的に、目に見える形で脱原発の進捗状況を縷々伝え、共同体を構成する全員がエネルギー転換という膨大な作業に取り組むように招かれている」と述べた。政府、経済界、科学者たちの決定に任せるのではなく、市民社会もこの研究グループの活動に参加することが求められている。
このグループの具体的な活動については、これからその都度お伝えしていくつもりだ。
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