コロナ禍と二酸化炭素
コロナ禍は、ドイツの二酸化炭素の排出量にどう影響するだろうか。ドイツのエネルギー転換のシンクタンクであるアゴラは 、ドイツでロックダウンが敷かれ、社会生活の一部が停止した3月末に、この国の今年の二酸化炭素排出量を1990年比でマイナス40〜45%になるだろうと予測した。しかしロックダウンが解除されてからも、市民は感染を回避するために公共交通機関を避けて自家用車を優先させたり、多くの企業でインターネットなどを利用した在宅勤務やビデオ会議が導入されたり、娯楽面でも動画配信サービスが活発に利用されるなど、エネルギーの消費は減るだけではないように見受けられる。
今年のドイツの冬はあまり寒くなく、他方、強い風の吹く日が多かった。このため暖房が節約できたし、風力で再生可能電力が多く生産された。また、天然ガスの価格が低かったので、火力発電所では、二酸化炭素の排出量の多い褐炭に取って代わって、天然ガスが多く使用された。アゴラによると、主にこの効果で節約できた二酸化炭素の排出量は2000万トンに及ぶという。しかし二酸化炭素の排出量は、これだけでは、京都議定書の基礎になった1990年との比較でマイナス37%にしか達せず、ドイツ政府の長い間の削減目標である「2020年までにマイナス40%」に達することは難しい。
ところが、これにコロナ禍の影響が加わる。アゴラは、エネルギー産業、工業、交通、農業、建物の暖房や照明の各分野を網羅し、今年1年間にコロナ禍などの影響で減る二酸化炭素の排出量を、少なくとも3000万トンと予測する。コロナ禍の影響が非常に大きい場合には、削減量が1億トンに達することも考えられるという。従って今年の二酸化炭素削減量は合計で5000万トン〜1億2000万トン、排出量は1990年比のマイナス40〜45%が可能になるというわけだ。実際の二酸化炭素削減量を中間の8000万トンとすると、排出量は1990年比でマイナス42%になる。これで、ドイツ政府の削減目標が達成される可能性は大変大きくなった。
ただ、アゴラのグライヘン所長は「コロナ禍で二酸化炭素の排出量が減ったという事実だけでは、環境保護にとり良いニュースとは言えない」と語る。コロナ禍が一時的な現象で、それが去った後にまた以前と同様の活動が繰り返され、二酸化炭素の排出量が元に戻る可能性は大いにあるからだ。それだけではなく、コロナ危機後に、従来の経済活動を回復させるために大量の資金が使われてしまい、環境保護対策への投資が縮小する危険もある。アゴラは既に4月中旬に、「インパルス・ペーパー」と称する1000億ユーロ(約12兆円)規模の環境保護を考慮した経済復興プログラムを発表している。
コロナ禍のために各都市で利用者数が大きく減っているのは、バスや市電、地下鉄だ。コロナ感染の可能性がより高いとして避けられているからだ。これは、環境保護に貢献するために、魅力的なサービスを提供して顧客数を増やそうと数年来努力を続けている都市の公共交通機関にとっては大きな打撃だ。車両はガラガラでも、できるだけサービスを減らさずに運行を続けている。それに反し、通勤や買い物に自家用車がより多く利用されるようになっている。夏休みが始まり旅行の季節になったが、ここでも、今年は電車や長距離バスを避けて自家用車で出かける人が増えている。ある世論調査の質問に、「今年は夏休みの旅行に自家用車を利用する」と答えた人は70%にも達した。子供のある家庭では75%だった。アウトバーンでの渋滞は避けられないだろうと予測されている。
コロナ禍で最も大きな打撃を受けた交通手段は飛行機だった。ドイツ最大のフランクフルト空港では、旅客数が今年1月と2月を含む上半期に、例年の3分の1しかなかったという。しかし欧州連合内の人の行き来に制限がなくなり、夏休みが始まった現在、旅客数は日々増えつつある。
シュルツェ連邦環境相が6月に発表した同省とヴッパタール気候環境エネルギー研究所及び経営コンサルタント会社EYの共同調査によると、ドイツのデーター通信量は、 ロックダウンが敷かれた3月中旬以来、インターネットを使った会議やショッピング、映画やドラマの鑑賞などが急増したことで一気に10%も増えたという。インターネットを利用した上記のようなデーター通信に、非常に多くの電力が必要になることは以前、「知らないうちにあなたも電力の大量消費者」で紹介した。コンピューターがずらっと並ぶサーバーファームの電力消費量は、中規模のファームでも中都市の電力消費量に匹敵るすという。
「グーグル・モビリティ・レポート」によると、ドイツでは5月末の時点で、在宅勤務のために毎日会社に出勤する人の割合が、コロナ禍以前との比較で30%も減っていたという。上記の調査では、社員の出張なども現在減っており、長期的にも仕事関連の交通量が8%程度減ることは考えられるとしている。しかしその分、データー通信は増えるだろうとされる。シュルツェ環境相は、以上のような現状なので、コロナ禍が二酸化炭素削減につながるのか、それともその反対になるのか、現時点では判断できないとしている。