温暖化対策、緑の党の介入で改善
世界中で問題になっている地球の温暖化の原因である二酸化炭素の排出量を、ドイツは具体的にどうやって削減していくのか?ドイツ政府はこの問題を話し合うために、アンゲラ•メルケル首相を座長とし、環境、財務、交通、建設、 農業、経済の担当相などで構成する気候閣議を今年の4月から 3度開いてきた。9月19日に開かれた4度目の閣議は徹夜で行われ、そこでまとまった結果が9月20日、温暖化対策のためのパッケージとして発表された。気候閣議の参加者たちはこのパッケージの内容を自画自賛したが、この政策では二酸化炭素の排出量を十分に減らすことはできないと、専門家や環境NGO、野党からすぐさま批判の声があがった。中でも緑の党の女性共同代表アナレーナ•ベアボック氏は、「この政策パッケージには満足できません。連邦参議院でブロックするか、改善を試みます」と言い放った。
温暖化対策のためのパッケージはその後、10月16日に閣議で承認され、ひと月後の11月16日には連邦議会(下院)も通過した。連邦議会は政権を組むキリスト教民主同盟 (CDU) とキリスト教社会同盟 (CSU)、社会民主党 (SPD) が過半数以上の議席を持っているため、これは織り込み済みのことだった。ところが、各州の代表で構成される連邦参議院(上院)はこのパッケージ内の税改正に反対し、本当にこのパッケージの通過を阻止した。その原動力になったのは、ベアボック氏が語った通り、緑の党だった。同党は連邦議会では野党の中でも最小の派閥だが、この法案が連邦参議院で審議されていた時、16あるドイツの州の9つの州で政権に加わっており、連邦参議院でその影響力を行使することができたのだ。これを受けて連邦参議院は、連邦議会の代表と話し合いを行う場である両院協議会の招集を全会一致で採択した。
両院協議会は、異なる意見を持つ連邦議会と連邦参議院の代表が妥協策を探し求める場だ。その両院協議会を招聘する直接のきっかけとなったのは、先に述べたように税改正に対する意見の相違、例えば鉄道チケットの税率に軽減税率を適用すべきかなどの問題だった。二酸化炭素の料金については本来ならば州の管轄ではないので、連邦参議院が口出しすることはできない。しかし、今回招聘される両院協議会でそのことが話し合われることは、誰もが承知していた。何しろ、温暖化政策パッケージで非難が最も集中したのは、2021年から始まる二酸化炭素排出への課金が10ユーロ( 約1200円 ) では低すぎるという点だったからだ。そして、この点で改善がなされなければ絶対妥協案に応じないと、緑の党は明言していたからだ。
新年早々、政策の一部を実現したいという思いもあり、両院協議会は妥協案作りに精を出し、12月16日に連邦議会側と連邦参議院側は合意に達した。その結果、温暖化対策パッケージの以下のような点が改正されることになった。まず、2021 年1 月1日から課金が始まる二酸化炭素だが、当初は1トンにつきまず10ユーロ ( 約1200円 )、その後徐々に値段を上げ、2025年には1トン35ユーロ ( 約 4200円 ) にすることになっていた。それが今回の決定では、スタート時の値段は25ユーロ ( 約 3000円 )で、2025年までに55ユーロ ( 約 6600円 )に値段を上げること決まった。2026年には固定料金制度が終わり、ドイツ国内での排出権取引制度に枠組みが変わる。その際、二酸化炭素1トンの価格は55ユーロと65ユーロ ( 約 7800円 ) の間に設定されることになった。二酸化炭素の価格を当初の予定より高くすることで増える歳入は、再生可能エネルギーの賦課金の値下げとして、市民に還元する予定だ。平均的な所帯なら、2021年の電気代は60ユーロ ( 約 7200円 ) あまり安くなるという。
もう一つの大きな柱は、21km以上の通勤路に対する税金の控除額の引き上げだ。当初はその額は30セント ( 約 36円 )から35セント ( 約 42円 )に5セント(約6円)上がることになっていたが、今回の決定で、2021年から5セント、2024年からさらに3セント ( 約 4円 )追加して現在より8セント ( 約 10円 ) 上がることになった。連邦環境相のスヴェンニャ•シュルツェ氏(SPD) は、今回の妥協案は二酸化炭素の価格を上げるだけでなく、このように社会的側面を一層考慮したものでもあることを強調している。一方、長距離列車だけでなく、長距離バスのチケットにも軽減税率を適用すべきだという意見や、風力発電の立地に関する条件についてはこの場では決まらず、問題は先送りになった。両院協議会の妥協案は、その後、 連邦議会で12月19日に承認され、翌日の20日、今年行われた最後の連邦参議院でも承認された。
9月に決まった政策パッケージを「勇気に欠ける」と批判したポツダム気候影響研究所 (PIK) 所長のオットマー•エーデンホーファー氏だが、今回の妥協策については「勇気ある一歩で、今回設定した価格で、実際に温室ガスの排出は減るだろう」と、その内容を評価している。それに対して環境NGOからは、二酸化炭素の値段は80ユーロからスタートすべきだとか、50ユーロ ( 約 6000円 ) から始めて180ユーロ ( 約 2万1600円 ) から200ユーロ ( 約 2万4000円 ) にすべきだ、といったように今回の妥協案はまだまだ甘いという厳しい声が聞かれる。また、通勤費用の控除額を引き上げるという政策は、税金をあまり払う必要のない低所得者層や、無職の人には恩恵のない政策で、本当の弱者救済にはなっていないという批判もある。緑の党の共同代表のベアボック氏は、「温暖化を食い止めるには、もっと多くの有効な政策が必要だが、私たちは政権についていない。毎年、毎年、少しでも排出量を減らすために、闘っていきたい」と、今回の成功に味をしめて元気いっぱいだ。
今回の政策決定のプロセスを見ていると、ある意味で役割分担がうまくいったという印象を受けた。政権についている政党は、支持率を失うのが怖くてあまり大胆な政策は打ち出せないことが多い。ただし温暖化対策の政策パッケージという形で、自分たちの考えていることを具体化した。そしてそれを、現在世論に強く支えられている緑の党が、よりよい物に改善していった。SPDの左派の一部には、緑の党による修正が入ることを、最初から想定していた節もある。それにしても、この秋に行われたドイツ東部の州議会選挙で緑の党は議席を伸ばしており、その影響力はさらに大きくなっていくことが予想される。ドイツの温暖化対策にとっては、好ましいことだ。