石炭火力発電、EUで19%も減少!
もうすぐ終わりを迎える2019年のドイツの気候を振り返ってみると、前年の2018年に続いて、今年も暑かったという印象が強く残る。地域によっては最高気温が40度を超えたところもあった。だがこれはドイツだけの現象ではない。世界的にみて、2010年から2019年は観測史上もっとも暑い10年になるという。また、このほど発表された2018年の気候リスクの高い国ランキングで、ドイツは3位になった。スペインの首都マドリードで12月2日から15日まで開かれた「国連気候変動枠組条約第25回締約国会議 (COP25) 」に合わせて、このように、気の滅入る報告が次々と発表された。しかしそんな中で、少しだけ明るいニュースもあった。世界全体を総合すると、二酸化炭素を多く排出する石炭火力発電が減っているというのだ。
12月3日、この10年の世界の気温が観測史上過去最高を記録するだろうと発表したのは、世界気象機関 (WMO) だ。事務総長のペッテリ•ターラス氏によると、「熱波の襲来、氷河の融解、海面の上昇などにその現象がみられる」というが、気温の上昇はベルリンで生活している私たちも実感してきたことだ。ドイツの夏は乾燥して爽やかなのが売り物だったのに、この数年続いた猛暑では、寝苦しい夜を何度も経験した。パリ協定の目標は、産業革命以前に比べて平均気温の上昇を2度以下に保つことだが、ターラス氏によると、この10年間だけで 1.1度も気温が上昇することになりそうだという。
その翌日の12月4日には、ドイツの非政府組織(NGO) Germanwatchが、「世界気候リスク•インデックス2020年版(2018年の結果)」ランキングを発表したが、ドイツはリスクの高い国第3位という過去最悪の成績を残した。ランキングを決める指数は、気象災害による死者数とそれが人口10万人に占める割合、経済的損失とそれが国内総生産に占める割合などをもとに出される。2018年のドイツは猛暑が続き、1234人もの死者が出た。また、夏の間の降水量が少なく、干ばつによる不作で農業だけでも30億ユーロ(約3600億円)以上の損害を出した。ほかにも突風や嵐で、住宅や車、鉄道なども大きな被害を受けたことが、3位になった理由だという。
気候が穏やかなはずのドイツが気候リスクの高い国になってしまったのは、 地球温暖化のせいだ。そして温暖化に最も影響を与えるのが、空気中の二酸化炭素 (CO2) の量の増加だ。ドイツ連邦環境庁 (UBA) によると、CO2が空気中に占める割合は、0.04%でしかないが、温室効果ガスの88%を占めるという。では、ドイツでどの分野で最も多くのCO2が排出されているのかというと、それはエネルギー産業で、その排出量は全体の38.6%を占めるという。ちなみに製造業は22.7%、交通分野は20.8%で、一般家庭および小規模消費者の出すCO2の割合は17.1%だ(UBA、2017年)。こうした事実を鑑みると、石炭による発電を減らすことは温暖化を防ぐために最も優先されなければならない課題で、それは生徒たちによる「未来のための金曜日」のストライキでも、強く要求されていることだ。
そんな中で先月11月25日に、「世界全体の2019年の石炭火力発電による発電量は、前年比マイナス3%と過去最高の減少になるだろう」という調査予測を発表したのは、Carbon Briefというイギリスにある気候に関する研究や、気候およびエネルギー政策の動向を発表するウエブサイトだ。3%というのは電力量に直すと300テラワット時にあたり、ドイツ、イギリス、スペインの三ヶ国が、昨年石炭火力発電で得た電力の総量より多いという。とりわけ欧州連合 (EU) では2019年の上半期は、前年同時期と比べて石炭の使用量が19%も減少、その中でもドイツでは前年比にして22%も減少したという。またイギリスでは産業革命以来初めて、6月の二週間、全ての石炭火力発電が停止したという。
石炭による発電量の減少は、世界経済の成長率の鈍化や貿易の減少などにより、電力そのものの需要が減る場合に起こることが多い。しかしEUに限ってみた場合、Carbon Briefで今回の調査を行なったメンバーの一人、シモン•エヴァンス氏によると、発電源に何を用いるかは、EUのCO2排出権取引制度(EU ETS/ European Union Emissions Trading System)でのCO2の価格に左右されることの方が多いという。つまり、CO2の価格が1トン20ユーロ(約2400円)を超えて、なおかつガスの価格が下がったときに、ガス火力発電の方が石炭火力発電より安くなり、石炭からガスに、発電源が切り替えられるそうだ。このことからも、排出権取引制度は、CO2を削減するための有効な手段だと言えるだろう。もちろんEUでは石炭が全てガスに置き換えられたのではなく、石炭による発電の減少の半分は、再生可能エネルギーによる発電が補ったそうだ。
ところが同じEUの中でも、中欧と東欧では、石炭発電の減少はあまりみられなかった。ガス発電の設備があまりない上に、風力発電や太陽光発電設備がほとんどないことがその原因だ。EU全体では2018年に、1万7000メガワットの発電能力がある再生可能エネルギーによる発電施設が設置されたが、ポーランドには39メガワット分、チェコには26メガワット分、ルーマニには5メガワット分、ブルガリアには3メガワット分しか設置されなかったという。また、石炭に代わる発電源を原子力に求める国があることも、忘れてはならない。
Carbon Briefは、EUにおける石炭火力発電の減少傾向は2019年下半期も続き、2019年一年間を通じて、昨年比マイナス23% になると見込んでいる。しかしこの傾向が今後も続くと楽観視してはいない。それはドイツでも観察されることだが、再生可能エネルギー、とりわけ風力発電施設の設置への反対が強まるなどの障害があるためだ。また、ガスへの発電源の転換は、改善ではあっても、目標ではないと釘を刺している。私たちが目指すべきことは、再生可能エネルギーによる発電を増やすこと、エネルギー効率をあげること、 そして何よりも電力の消費量を減らすことだ。
ところで先に紹介した「世界気候リスク•インデックス2020年版(2018年の結果)」のワースト1は日本だった。2018年の日本は記録的な大雨に見舞われ、7月上旬には広島や愛媛で河川の氾濫や土砂崩れなどの災害が多発し、200人を超える犠牲者がでた。記録的大雪に見舞われた地域もあったし、猛暑に襲われた都市もあった。このように日本は温暖化の影響を最も強く受けている国の一つである。そして確かに個々の災害についての報道は、たくさんある。しかし それが温暖化の影響だという認識は国民の間にほとんどないように見受けられる。そのためだろうか、火力発電を選択肢の一つとして残していくという日本政府の方針について、反対する声はほとんど聞こえてこない。