ドイツに「E−ハイウェー」登場

ツェルディック 野尻紘子 / 2019年5月26日

地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出を避けるために、いろいろな工夫がされている。その一つが、このほどドイツに登場したトロリーバスならぬ「トロリートラック」用のアウトバーンだ。人呼んで「E−ハイウェー」。ここでは、アウトバーンの車線の上に張られた架線から走行中のトラックに電力が供給される。それと同時に、トラックに搭載されたバッテリーも充電される。

©️Siemens AG/München Berlin

「E−ハイウェー」が登場したのはドイツのアウトバーン5号線で、フランクフルトとダルムシュタット間の一部、長さ5kmの区間だ。双方向を足すと10 kmになる。双方向それぞれ4車線のうちの、一番右側のレーンを走るトラック(ドイツは右側通行)に給電できるように、地上5メートルの位置に電線が張られた。その下をトロリートラックが走ると、屋根の上に設けられたセンサーが電線を感知し、パンタグラフが自動的に出てくる。トラックはパンタグラフを通して流れてくる電力で電気モーターを駆動して走行するだけでなく、車に搭載されているバッテリーも充電する。そして電線のある区間が終了すると、バッテリーに溜めた電力で走行を続ける。トラックはハイブリット車になっているので、バッテリーが空になるか、あるいはバッテリーに溜めた電力を、二酸化炭素が排出したくない市街地などの走行のためにとっておく場合には、ディーゼルエンジンで走行する。E−ハイウェーでの走行は時速100 kmまでが可能だという。また、一般自動車や他のトラックもこの架線の下を走ることができるので、右側車線がトロリートラック専用レーンになったという訳ではない。

ドイツでは現在、増え続ける乗用車やトラックのために、交通部門の二酸化炭素の排出量が減らないばかりか、増えており、困っている。特に大型トラックは、交通部門での二酸化炭素排出量の約3分の1を占め、頭痛のタネだ。乗用車の分野では電気自動車の普及に拍車がかかっているが、トラックの場合は、電動にすると大きくて重いバッテリーの搭載が必要になる。そうなると燃費がかさむだけでなく、荷物を載せるスペースも少なくなってしまう。トロリートラックの場合には、走行中の充電が可能なため、バッテリーは小型ですむ。そこで、このアウトバーン電動化の試験的プロジェクトに期待がかかるのだ。

このプロジェクトは連邦環境省が音頭を取って行っており、ダルムシュタット工科大学が2022年までその実態を調査する。調査の結果、アウトバーンの電動化が二酸化炭素の削減に効果的であると判断された場合には、全国各地のアウトバーンが電動化されることも考えられるという。専門家によると、その際には全国に張り巡らされた全てのアウトバーンの3分の1程度、約4000 kmが電動化されれば十分で、全アウトバーンの電動化は必要ないという。しかし著名な環境問題研究機関であるエコ研究所によると、そのための費用は100〜120億ユーロ(約1兆2200〜1兆4640億円)と莫大な額になる。ちなみに、今回のプロジェクトへの投資額は調査費も含めて合計で約3000万ユーロ(約36億円)だという。プロジェクトに参加しているのは運送会社4社とスーパー大手のRewe および化学企業のMerckで、それぞれトロリートラックを1台ずつ運用する。

ドイツ連邦環境庁や環境保護団体がこのプロジェクトを歓迎するのに対して、これに懐疑的なグループもある。「欧州鉄道ネットワーク」、「鉄道路線同盟」などのロビーグループは、税金の無駄遣いだと批判する。「並行するインフラに大金を投資する代わりに、既存の鉄道網の健全化や近代化、遅れている路線の電動化にそのお金を使うべきだ。そうすれば、トラックから貨物列車への輸送手段のシフトがスムーズになる」というのが、彼らの言い分だ。しかしドイツ自動車クラブや自動車メーカーだけでなく、環境省やエコ研究所なども、増え続ける貨物の増加を鉄道が全面的に吸収できるとは考えていない。連邦環境庁は2050年のドイツの交通量について、鉄道網が充実したとしても、総貨物量の60%はトラックに頼るだろうとしている。トロリートラックは鉄道の競争相手ではなく、貨物運送における不可欠な補助になるというのだ。

なお架線が、交通事故の際に救急ヘリコプターの着陸の邪魔になる、あるいは切れた架線が危険だなどという心配も語られているが、架線には事故の際に即座に電気が止まる機能が取り付けられているという。

 

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